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37,デ?

「明日は、村でお世話になっているリッツさんとカロイの街に行ってきますね。ですから、明日のお迎えは大丈夫です」


 翌朝、いつもの様に魔女の家へと向かいながら、ファウリはルアルに明日の報告をした。


 以前は先だって歩いていたルアルだが、今はファウリと並んで歩く。

 ルアルが小さく首を傾けた。


「リッツさんは、リコの村にいる男の子です。口は悪いけどとても良い人なんですよ。ルアルに会ってみたいと言っていました」


「グルゥ……」


「嫌ですか? 良い人ですよ?」


「ゥー」


 ルアルは歩きながら体をファウリに摺り寄せた。ふかふかの毛並みはくすぐったいけれど、暖かくて心地が良い。ファウリはくすくすと笑った。


「分かりました。でも、その内、気が向いたら、紹介させてください。魔女さんの家に住めるようになったら、リッツさんもお招きしたいんです。凄くお世話になっているので」


「ガァゥ」


 仕方がないな、というように鳴くルアルの首元に、ファウリはぎゅっと抱き着いた。

 ふかふかの真っ白な毛並みは、お日様の匂いがする。

 ファウリはくすくすと笑った。


 今いる場所は黒の森だ。

 だが、瘴気が満ちる恐ろしい魔物の森の中だというのに、ちっとも恐ろしくない。

 ルアルが居てくれることももちろんなのだが、それ以上に。


「何だかこのあたりも随分変わりましたね」


 もふもふとルアルの首に顔を埋めながら、ファウリは周囲に視線を巡らせた。


 あれほど不気味でおどろおどろしかった森は、今ではまるでモノクロの絵画のように神秘的で美しい。


 何となく前よりも明るい、と気づいた時には、至る所で木漏れ日がシャンパンゴールドの光を落とし、光に浮かび上がった黒い草には小さな黒い花が咲き、風に揺れている。


 実際木々は黒々としているし、あちらこちらに魔物の気配はあるのだが、瘴気が満ちる危険な場所にも、恐ろしい魔物が徘徊する魔の森にも、ちっとも見えない。


 最初の内は、周囲から聞こえる魔物の唸り声や視線に萎縮し、緊張し、いつ襲い掛かられるかと不安でいっぱいだったが、ルアルとの距離が近づくにつれ、魔物の唸りは減っていき、今では滅多に聞こえて来ない。


 緑の色鮮やかな森は勿論大好きだが、この黒の森も案外悪くないと、ファウリは思う。


 ファウリは、存外この朝の散歩がお気に入りだった。

 早朝、まだ朝靄にけぶる黒い森に差し込む白金の光の中に佇むルアルは、殊の外美しい。

 その美しい獣が、ファウリを見るとふわふわの尾を揺らし、足取り軽く駆け寄ってくると、なんとも言えない満たされた気分になる。

 いつの間にか、ファウリにとって、ルアルはかけがえのない存在になっていた。


***


「準備できたか?」


「はい、大丈夫です!」


 翌朝、ファウリは少し早起きをして、村のお婆さんから貰った娘さんが若い頃に来ていたものだという、落ち着いたピンクのワンピースを着て、髪はサイドを三つ編みにしてリボンでとめて、鞄を肩に引っ掛けると、外で待っていたリッツの元に駆け寄った。


「そんな古いワンピースなんて何考えてんだババァって思ったけど……。悪くないな」


「お婆さんの話では流行は巡るんだそうです。私はとても可愛いワンピースだと思います」


 どうでしょう、っとファウリはスカートをちょっと摘まんで、くるりと回って見せる。


「馬子にも衣装だな。ほら、乗れよ」



 リッツはふぃっと視線を逸らし、ぶっきらぼうに言い放つと、そそくさと御者台に上がった。

 ファウリは言われた通り、荷台に上がる。


「今日は薬草は持って行かないんですか?」


「そりゃ今日は……、その、デ……じゃなくて! お前の買い物に付き合ってやるつもりだったから! 薬草は明日持っていくから良いんだよ!」


 ――デ?


「え、なんですか? 途中で言い換えられると気になります!」


「言い間違えただけだっての、一々突っ込むなよ!? なんでもねぇの! 間違っただけ! そう、買い物に! 付き合ってやるだけだ! わかったか!」


「よくわからないけど分かりました!」


 大きな声で怒鳴るように言うリッツに、ついついファウリも声が大きくなる。

 毎回思うが、何故怒鳴り合いになるんだろう。

 嫌われているわけではなさそうだが。


「ハイッ!」


 リッツが手綱を引くと、ロバがガタゴトと馬車を引いて歩き出した。


「ロバさん、重たくないでしょうか。私歩きましょうか」


「アビーは力持ちなんだ。お前くらい後五人乗っても大丈夫だ」


 流石に無理でしょうとは思ったが、自慢気にいうリッツにファウリは余計なことをいうのを止める。


「凄いですね。アビーっていうんですか。アビーは力持ちなんですね」


 ファウリは荷台の枠に手を掛けてロバに声を掛けた。


 ヴォヒー、といったような、野太い声でアビーが嘶く。嬉しかったのか、頭を振って一声鳴くと、『凄いでしょう』と言わんばかりにアビーは軽快に走りだした。


 「うわッ!?」

 「ひゃぁッ!?」


 ガタガタの道だから、荷台が勢いよく弾む。

 荷台に居たファウリは振り落とされそうになって慌てて荷台の縁にしがみ付いた。


「アビー! ちょ、お前調子に乗るなよ!? 普通に歩け普通にっ!」


リッツが慌てて手綱を引くと、アビーはブギーっと鳴いて、ブルブルと首を振り、シュンっとした様子で歩き出した。


「あの、ごめんなさい、アビー、でも凄いのは分かりました。だけど普通でお願いします、普通で」


 落ち込んだ様子のアビーに、ファウリが慌てて謝ると、アビーは耳をピコっと立てて、ボヒーっと鳴くと、カッポカッポと弾むように歩き出した。

 機嫌は直ったらしい。十分ほどで街道に出た。


 最初にファウリが迷い込んだ獣道よりも、大分先に出たようだ。


「とりあえず買い物だな。何を買うんだ?」


「パンがもうないので、パンを。後、仕事を見つけられないかと思って」


「え!? お前カロイに住むのか?! リコが良いって言ってたじゃんか!」


 何故か怒鳴り出したリッツに、出て行かせたかったんじゃ?と思いつつも、ファウリは慌てて言い返す。


「え!? 住みませんよ!? 野暮らしするって言ったじゃないですか、ルアルが許してくれたら魔女の家に住みつきますよ!」


「仕事探すんだろ!?」


「読み書き計算出来るんで仕事を請け負ったりできないかって思ってるんです!」


「そんな仕事あるか! ……いや、あるか?」


「あるんですか?」


「いや、無いだろ多分……」


 どっち。


「無いんですか?」


「どうだろう……。聞いたことないけど、俺が知らないだけかもしんないし。いいや、カロイに行けばギルドがある。そこに案内してやるよ」

ご閲覧・ブクマ・いいね、評価、有難うございます!


く・・・っ。間に合わなかった!!

お待たせしちゃってすみません;

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