39.カロイの街
カロイは城塞都市だった。
無骨な高い石造りの壁がそそり立ち、はるか先まで伸びている。
街の入り口の手前には大きな跳ね橋が掛かり、ずっと下を川が流れていた。
「わぁー……」
「乗り出すなよ、落ちるぞ」
リッツに諭され、ファウリは慌てて姿勢を正す。
ここでは手形のようなものはいらないらしい。
一応門兵はいるが、ファウリとリッツを乗せた馬車も難なく門兵の前を通過した。
門を潜るとすぐに色とりどりの屋台が軒を並べている。
まるで色の洪水だ。
鮮やかな黄色にオレンジ、緑に青、紫にピンク、赤。
大きな木箱に山と積まれた果実や香辛料、何かを焼く香ばしい香りも漂ってくる。
屋台が歩道を埋め尽くす街道を、ロバが引く馬車はガタゴトと進み、やがて一軒の店の脇に備え付けられた厩の前で止まった。
「ほら」
馬車の御者台からひらりと飛び降りたリッツは荷台の後ろを走って回り、ずぃっと片手を突き出した。
ぶっきらぼうなのに優しいと、思わず口元を緩め、ファウリはお礼を言ってリッツの手を取り馬車を降りた。
「よぉ、リッツ! 女連れとはやるねぇ」
野太い声にファウリが視線を向けると、店の奥から筋骨隆々の男が手拭いで手を拭きながら近づいてくる。
「おやっさん! ちげぇよ、こいつは村の居候! 買い出しに来たいっつぅから付き合ってやってるだけだ!」
「はっはっは、若いねぇ、一丁前に照れてんのか?」
「ちげぇって!」
がぅがぅと真っ赤になって男に噛み付くリッツを見て、これが通常仕様なのかと何となくほっとする。
怒鳴り合いになるのは自分だけじゃなかったらしい。
男の視線がファウリに向いた。
その目が柔和に細められる。
見た目は厳ついが優しそうな人だ。
「リコの村に居候させていただいているファウリと申します」
居候なのは間違いない。ファウリは男の前に一歩近づくと、ペコリと頭を下げた。
「俺はゼノってんだ。ファウリちゃんはカロイは初めてかい? 大きな街だ。楽しんでくるといい」
「はい、ありがとうございます」
「んじゃ、おやっさん、アビー頼むな。行くぞ」
リッツはぶっきらぼうにそういうと、ファウリの手を掴んで歩き出した。
嫌というわけではないが、何だかそわそわと落ち着かない気分になる。
繋がれた手の感触に、ハーツの手を思い出したからかもしれない。
「リッツさん、手、離してくれて大丈夫ですよ? そこまで子供じゃありません」
「……っ、人が! 多いから! お前逸れたらまずいだろ!」
言われてみれば、大きな街だ。
街道にはたくさんの屋台が軒を並べているし、たくさんの人が行き来している。
物珍しさもあって、あっちこっちに意識が向いてしまっている自覚はあるし、見失ったら迷子になる予感しかない。
かといって、小さな子供ならともかく、一応ファウリも年頃の女性なのだ。
恋仲でもない異性と手を繋ぐのは、何か違う気がする。
ハーツ以外と手を繋ぐことは躊躇われた。
「では、袖を掴ませてもらっても?」
「……」
リッツは渋い顔をすると、ファウリの手を離した。
ファウリはちょこっとリッツのシャツの袖を掴ませてもらった。
「んで? まずはどこに行く? 仕事を探すなら商業ギルドに行ってみるか?」
「はい、お願いします」
ファウリはリッツの横に並んで歩き出した。
長らくお待たせして申し訳ありません;;
ゆっくり更新にはなりますが、再開いたします!




