172 祝杯をあげ……れない
ご機嫌な克明さんの様子から、どうやら元彼……と言うには語弊のあるあの彼、尾石にぎゃふん……やり返し……ああ、流行りの言葉で言うなら『ざまあ』かな? それが出来たようだ。
変なことをしていないと思いたいけど、私たちの婚約だけでも、十分な『ざまあ』になったと思う。あとは、厭味の一つや二つ添えれば完璧だろう。
……って、何言ってんのよ、私ってば。
さっきまで、完全に忘れていたというのに。
とにかくどんなことがあったのか知りたくて「映像を貰ったんでしょう」と聞いてみた。克明さんはとぼけようとしたから再度、「証拠の映像を見せて!」と強く言った。
それでも見せてくれるつもりはないみたいで、話を逸らそうとしている。しばらく睨み合いが続いたけど、「東田たちもパーティーを楽しんだ」と言われたので、あとで東田さんに映像を送ってもらうことを思いついた。
もしくは凛香さんにお願いするかよね。凛香さん……もとい、社長のところにも克明さんがもらった映像はいっていることでしょうから、そちらに問い合わせることに決めたのよ。
それに、ちゃんとした婚約者として過ごす、初めての夜だもの。こんなことで気まずい思いはしたくないしね。
克明さんへと笑顔を見せて、グラスの中のシャンパンをゴクリと飲んだ。
のだけど、喉を通る炭酸の刺激で、このひと月半ほどのことを思い出してしまい、眉間にしわがよってしまった。
「茉莉、そろそろ機嫌を直してくれよ」
「違うのよ、克明さん。これは(と、自分の眉間を指さした)祖父たちのせいよ。思い出し不機嫌というか、ね」
「ああ……」
私の言葉に克明さんも遠い目をした。それとともに、やるせない感じにため息を吐いている。
そう、本当に、ほんっとうに! 何を画策してくれたことやら。
呆れればいいのか、怒ればいいのか。
巻き込まれた周りの迷惑を考えろー!
あんなことを考えたあの人たちは、全員禿げればいいのに!




