古びた使命に
クリサリス。
ひとまずほぼ固定砲台と見ていいだろう、移動は呆れるほど遅い。簡単に計測した結果脚を除く本体部は長さ30m、クモでいう腹部にレールガンとアクティブ防御システムが整列し、頭部にはミサイルの垂直発射機、8本ある脚には重機関銃がそれぞれに配置、されていた。されていたというのは既に半分が沈黙状態にあるからだ、ヴァニタスの呼びかけを無視し続けるティーは機動力皆無と見るなり親の仇が如き榴弾砲の連続攻撃により防御システムを無理矢理飽和させ、誘導貫通弾の一斉射で上部構造物を焼き払った。ただ彼女としては攻撃力の削ぎ落としよりも脚の破壊をしたかったようだ、上空から降り注いだ閃光が1発たりともクリサリスのフレームを貫通しなかったのを見て呻き声を上げる。
『ファイブナイン、現在地は?』
「第2中隊本隊近くだ、人員補充は終わってる」
「補充じゃないから、そこは素直に拉致って言って」
『よし、では3人に斬り込み隊を任せる、レアはプロトサイクロプスに乗ったまま援護射撃を頼む』
「瞬時に状況理解して指示出すのもやめてぇぇぇぇ……」
レアが側面にしがみつくプロトサイクロプス、残りの3人も適当に乗り込んで前線へと戻る。クリサリスの足元はバトルドールまみれで、このままでは味方は接近できそうにない。
『誘導貫通弾が1発だけ残ってる、君達の合図で撃ち込む。狙うのは頭の上の彼、あの装甲を抜く手段がないからね、彼を退かさないと破壊できない』
「退かした後は?」
『弱点を探せ、あのアンバランスな感じは明らかにロクなテストもしてない急造兵器だ、どこかに破壊が容易な部分がきっとある。私の見立てでは後脚付け根』
「いいや第2関節だね」
『だそうで』
あれはサイクロプスをひたすら巨大化したもの、という考えでティーとクロは一致したようだ。他の誰より構造を熟知しているだろう彼女が左第4脚第2関節を指差し、プロトサイクロプスは進路変更を行う。
現在地はクリサリス左側面、第2中隊は徐々に距離を詰めつつある。正面の第1中隊は奴の残り全武装による攻撃を受けており、少なくない損害を被りながらも退こうとしない。榴弾砲が弾切れとなるなり迫撃砲が射撃を開始、その前で一部の歩兵がバトルドールを、ランドグリーズがクリサリスを食い止めている。視線が釘付けになるほどではなかろうが、おかげで奴はこちらへ回頭できない。
「ではまず味方を前進させるとしよう、我々だけで突っ込んで内側を引っ掻き回す、その隙に総攻撃させろ」
『オーケー、指揮はすべて私がやる、戦うことだけに集中したまえ』
とのことだ、とにかく足元で暴れ回る、隙を見て登る、ヴァニタスを殴る。レアは文句ありそうな顔だが、前線は既に目の前、口に出すにはやや遅い。
「よし行くぞぉ!」
「撃ちまくれ!」
一番前の見方を追い抜き次第、プロトサイクロプスが射撃を開始する。