空想都市2
「…………城か?」
城ではない、物品販売店の集合体だ、建物の規模だけでいえばいわゆる城という存在を凌駕している。正面入口から中央の広場まで続く大通りには飲食店が整列し、広場を囲うようにC字形状の建造物が建つ。10階建てで、容積の6割程度に店舗が入り、その間を縫うように多数のロボットが往来する。鈴蘭はヒルズと銘打たれていた時点で予測していた、というより地下にある再現施設な以上仕方ないのだが、一般的なヒルズよりずっと小さくむしろ落胆したものの、他4人はバス停で降りたそのまま、建物を見上げ固まってしまった。
「買い物ができます、なんでも揃いますよ」
「弾薬買える?」
「買えないです」
「薪買える?」
「買えないです」
「レーション」
「前言撤回します」
案内を見る限り店舗のほとんどは飲食店を除けば衣類や化粧品、文明崩壊後の戦場をしぶとく生き延びる彼女らの要求を満たすものはない。それ以外の面積はオフィスや宿泊施設、気にかけても仕方なかろう。目的地はこのヒルズの向こう側、広場を突っ切る事にする。
でもこの様子だと
「えーーーー何アレなんか黄色いシートで白いの包んでるんだけどまさか食べ物なの!?」
「うわすっげえ匂いが甘い!」
「ああやっぱり始まった!」
彼女らの生活は甘味とは無縁である、カルメ焼きを作ってるところを一度だけ見たことがあるがそれだけだ。バンカー民にとって食べ物とは肉と草、それと塩、あと触手であり、デザートなどという概念自体が無い。そんな連中にクレープなんて見せたらどうなるか、騒ぎ立てるに決まっている。というか何故本物を用意したアス公、新手の遅滞戦闘か。
「ちょっと鈴蘭、毒見を」
「嫌ですよ、撃たれて死ぬより絶対長引くし苦しいじゃないですか」
「撃たれて死んだ事のある生者」
とかなんとか警戒したものの、結局生クリームとチョコレートソースだけのシンプルなクレープを入手してきたヒナとシオン、恐る恐るかじってみて、その後1分足らずでクレープは消えてなくなった。そして「先を急ごう」などと口元にクリーム付けて言うのである、さすがにジト目を禁じ得ない。
「はい」
「あ、どうも」
早く抜けよう、このエリアは誘惑が多すぎる。そう思って足を早めると、横からプラスチックのドリンクカップを差し出された。毒は無いと見て持ってきたらしい、メルも地図を眺めつつ同じものを持っている。
茶色い液体に黒い粒々、タピオカミルクティーだ。太いストローをくわえて吸えば粒が上がってきて口に入る、見た目に反してカロリー量がとんでもないため、丁度いいかと受け取った。
「タピオカチャレンジ成功でクーポン券プレゼントって言ってたんだけどぉ、タピオカチャレンジって?」
「こうやって胸の上にカップを乗せて手を使わずに…」
「くそがぁッ!!!!」
「言い方ァーー!!」
シオンが言ったような感じだったが、今の発言元はフェルトである、店舗に向かって言い放つと「タピオカはアロエに変更できまーす!」とか返ってきた。もう駄目なやつだ、背中を押してその場を離れる。
「メル! 発電所に着いたら何をすればいいんですか!?」
「管理者に繋がる電線だけを切断する、その後非常用電源を爆破、停止させる。そしたらネットワークに侵入してハッチを開放、私達の仕事は終わり」
「早く済ませましょう!」
広場に出れば甘い匂いも遠のいた、冷静さを取り戻すサーティエイト、建物の反対側を目指し進んでいく。
「でもなんでこんな実験場作ったんすかね?」
「それならたぶんわかってきたと思う。まずここで人間の行動パターンを収集して、次にそれを参考に山岳地帯で謀反起こしたAIを作ってさらにパターン集めて、最終的にアステルちゃんを作った」
「何のために?」
「それは本人に……いや、もうすぐわかるでしょ」
急に
メルが銃のセイフティを外した。
「っと…?」
すぐに地面が大きく揺れて
天井のハッチが少しずつ開いていく。