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退路無し

 トンネルを抜けたら雪国でした。


 いや雪しかありませんでした。


 地の果てみたいな場所でした。


「……目的地どこよ?」


 そんなに高くない山の斜面から辺りを見回すも、遙か遠くに巨大な湖があるのみで、その他にヒナの目に映るのは森と雪原だけだった。敵の防衛部隊も森に隠れているようで、極度の低温により動けなくなった1機のヘカトンケイル以外に姿を確認できず。


 一体我々はどこに向かえばいいのか。


「地上施設は1500メートル先」


「近い」


 と、思っていたら、そもそも見る方向が違っていた、視線をもっと下へ。

 半ば雪に埋もれた施設群だ、施設というより地下への入口か。敵の本拠地と呼ぶにはあまりにみすぼらしく、防衛部隊が周りを固めている訳でもない。


「サーマルで見てみ」


 なんてティーが言うので左眼で熱源捜索してみる。探すまでもない、森の中は反応だらけだ。非常によく見える、この極寒の中ならモーター駆動だろうが何だろうがシルエットまで判別でき、ざっと数えるとバトルドール1個大隊、グリムリーパーやらゴライアスやら50以上、遠方にはタラスクが整列し、お座りするヘカトンケイルも見える。確認できただけでもだ、総戦力はこんなものではないはず。


「無理でしょこれ」


「普通に考えればね」


 ティーの作戦としては陽動からのバックアタックに見せかけた少数精鋭による内部潜入。ティー中隊が正面から、時間差でレア中隊が後方から仕掛け、そのどさくさ紛れにサーティエイトが中へ、破壊工作を行う。成功してしまえば退路を考える必要はない、と信じたい。


「こっちに来たまえ、装備の見直しをしよう」


 で、即席の監視所から離れた彼女は部下にガンケースを持ってこさせた、かなり大きい、中に入っているのも相応のサイズだろう。


「工場から荒野を越え仮拠点を経由してトンネルをくぐり雪原を突破しついさっき届いたんだ、基本的にはキミのそれをスケールアップしたものになる。使い方は同じだよ、銃身が長くなって作動方式が変わるだけ」


「私が使うの?」


「そのために作った」


 愛銃はスリングベルトだけ外してソイツの代わりにガンケースへ、新品と並べてようやく気付いたがかなりの傷だらけだった。床が崩れて一緒に落ちたりしたし仕方なかろう、他のスナイパーに見せたら「精度がー」とか始まりそうだが。

 で、新しく使う事になるらしいスナイパーライフルにスリングベルトを着ける。見た目はほぼ似たような感じ、素材が違うのか重量は変わらない、というかむしろ軽い。可変チークパッド付きのストックにシンプルな機関部、レールハンドガードにより長大なアタッチメント装着可能域を持ち、高倍率でアンテナ付きのスコープを備える。銃身は延長されており先端にマズルブレーキ、下にバイポッド。スコープは精度確保のためスイングアウトできず、というかそもそもアイアンサイトが無く、代わりに小さなドットサイトがちょこんと乗っていた。使用弾薬は8.6mm、弾倉はそのまま使い回せるものの、火薬の量が違うのでポーチの中身は総入れ替えになる。


「調整しよう。他の3人は手持ちの通常弾をすべて静音弾に変えといて」


「わぁい」


 最後の補給として弾薬缶いっぱいの6.8mm及び4.6mm静音弾が渡され、皆が自分の弾倉にパチパチする中、ヒナはティーに誘導されて狙撃位置へ。

 そのへんの木を材料にした、なんか4人くらい乗れそうなソリが鎮座していたが、とりあえずそれは見なかった事にして、断熱シートの上で伏射姿勢を取る。管理者施設へ電力供給しているのだろう火力発電所らしき施設のある隣の山肌を正面に見てバイポッドを立て、初弾を装填、チャージングハンドルを引きつつ排莢口を見るとやはり静音弾が引きだされていた。


「500メートル先に検問所跡地があるのがわかる?」


「ええ」


「スコープの設定変更は前のと同じだ、左眼で捕捉すれば自動で変わる。看板を狙ってみ」


 小さな小屋と簡単なゲートの残骸だ、かつては地名が書いてあったのだろう看板が横に立つ。これくらいの距離なら前のでも余裕、さっと狙ってトリガーを引いた。カツンという音だけがして弾丸は飛び出し、非常にフラットな軌道で看板へと向かうも、義眼の設定が前のままなのでうまく調整されず左にずれた。すぐに誤差を修正しもう1発、今度は命中。


「よし、次だ。そのスコープには2000メートルまでの金属探知能力がある、右のスイッチを切り替えて。1100メートル先に擱座したグリムリーパー、見つけて弾を当てるんだ」


 今度は前のでは集中しないと当てられない距離である、しかも正確な位置を教えてくれない。言われた通り金属探知機、というかレーダーを起動させるとアンテナから電波を放出、スコープ視界に捉えた反応を四角い枠で表示した。そうしたらまた射撃、見事に1発で直撃する。


「伸びるわね、この弾」


「でしょう? でもまだだ、この弾を装填して」


 言われた通り弾倉を交換、コッキングして静音弾を追い出す。代わりに薬室へ入ったのは紫色の弾頭、見たことがない。


「クレムリンの魔力狙撃弾を参考にこちらの貫通弾をリメイクした、魔力貫通狙撃弾だ。焼夷効果も付けてある、25ミリ弾に匹敵…とはいかないけどかなりの威力を持つ。これで1500メートル先、発電所変電設備の近くにあるドラム缶を撃ってみそ、弾道設定は……」


 新しい弾の設定を作成、ちょちょいと数字を変えて保存しておく。ほぼまっすぐである、とりあえず揺らさないようにだけして、セミオートでもボルトアクションでも届いたことのない1500m先を狙う。


「うおっ!」


 静音効果無し、数割増しの爆音を轟かせてそれは飛翔した。魔力点火による効果発現は5mからやや伸びて10m飛翔後、甲高い音と共に急加速して紫色の残光を引く。通常弾の倍は出たのではないかという速度であっという間に1500mを飛び切り、ドラム缶へ直撃、詰まっていた燃料を爆発させた。


「ちょちょちょちょちょ!!」


「全隊行動開始! この一戦に人類の未来がかかっているのを忘れるな!」


 それ自体は微々たるものである、発電所を停止させるには至らない。しかし近くにあったいくつかが連鎖を起こしてみるみる大きくなり、変電設備がショート、落雷そのままな音を立てて壊れ、さらにボイラーが崩壊、天然ガスの火力炉を暴走させる。そこまでいったら後は一瞬だった、ガスタンクが破裂した。


「なんだなんだなんだぁぁい!!」


 球状タンクが爆炎を噴き出すと同時に山肌の積雪が震える、4秒ちょっと遅れで轟音が耳に届き、ずるずると雪は滑り出す。

 発生した雪崩は敵陣の一角を丸ごと飲み込んだ、バトルドール100以上、反応が消えてなくなる。


「4人全員このソリに乗って!」


「それやっぱ使うのぉー!?」


 とかなんとかやってる頭上をカムパネルラが飛び抜けていった、管理者施設へ1発撃ち込み、その後はタラスクの隊列へ突っ込んでいく。やや遅れてランドグリーズも出現、雪崩が収まった斜面に陣取り、ガトリングガンから弾をぶちまけ始めた。


「ほら今のうち! どさくさ紛れに詰められるだけ詰めるんだ!」


「始める前になんか言えよぉー!!」


 いやこっちだって騙されて撃ったのであって。


「ええいヤケだ行くぞーーッ!!」

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