開幕滑り台
オペレーション2
308部隊"サーティエイト"
ラドガ湖南東
森の奥にぽつんと温泉があった。
「あぁーー……駄目だ、全身浸かりたい……」
「二度と出れなくなりますよ」
防寒着のズボンを引き上げ42℃くらいのお湯に足突っ込んだティー、コタツに魅入られたグータラが如く仰向けに倒れた。
積雪で真っ白になった森の中、凍らず流れる小川のそばにある湯だまりである、濁らず澄んでいる。川の水を引き込んで湯温調節を行い、みんなで足突っ込んだのが30分前。配給されたレーションパックを食べ終えても上がりたがらないティーを他所に靴下を履いてブーツを履いて、さらにアイゼンを履く。雪山登山に使う外付けスパイクだ、これさえあれば足元の心配はない、歩き心地は最悪だが。
「もうHQここでよくね…?」
「遠すぎるわ早くついて来い」
すぐ横に洞窟があった、天然の鍾乳洞のようで、観光地だった頃の看板が残されており、それによると最終目的地の近くまで地下ルートで行けそうだ。
この遠征の最終目的地、すなわち管理者サーバー。
「つーかなんでこんな地の果てみたいなとこに置くのよ」
「テロ対策とかだったでしょ確か。ナイトビジョン組先行してください、後ろから照らします」
その洞窟手前にサーティエイトは立った、ゴーグル装着のフェルトとヒナがそれぞれサブマシンガンを構えて中へ入り、アサルトライフルのハンドガードにフラッシュライトを着けたシオンとメルが続く。
「くらい、せまい」
「いきなり泣きそうな顔になるな……」
人間2人がすれ違える程度の幅しかない入口である、照明は壊れている。唯一の天敵にカチ合った拷問姫が立ち止まるのでヒナだけが侵入、「……ちょっと私だけかーい!」とか言いつつすぐ戻ってきた。
「でも天然の洞窟って心霊スポットにはなりにくいよね」
「ほんとぉ…?」
「人の出入りないし」
説得しながらフェルトの肩を押すメルが洞窟入りした頃、ようやくティーが追ってきた。部下にいくらか指示を飛ばした後、ショットガンをガシャコンやってシオンの後ろへ。
「挟撃されたらひとたまりもないなこりゃ」
「そんなところに中隊長が先行すか」
「人が足りんのだよ。それに出さなきゃいけない命令は出し終えてる、問題ないさね」
では改めて洞窟に侵入しよう、一列に並んで狭い入口を抜け鍾乳石だらけの空間へ。水滴が落ちる度に音がものすごく反響する、あとめっちゃ滑る。ライトアップしたらなかなか見栄えが良さそうだ、メルの近くを離れようとしないフェルトにはどうでもいいだろうが。というか洞窟は怖がるのに廃墟は平気なのだな彼女、明らかに廃墟の方が幽霊いそうなのに。
「そんで反対側に抜けた後の予定は?」
「スピード勝負だ、指揮所を立てたら1秒でも早く管理者施設に入る。第1中隊のほとんどは敵陣の正面に向かって前進させていて、遅れてくる第2中隊はその背後を突く。君達は隙を見て侵入を試みてくれ、施設の構造図はもうある」
「4人でか?」
「余裕があれば増援を送る。でも彼我の戦力差は致命的だ、突入ではなく潜入の方がいいでしょ……っと」
広い空間が終わりまた狭い通路になってすぐ、ヒナの足が止まった。何かあったかと横から覗けば、長さ100m以上ある天然のウォータースライダーがあった、その先に光。昔は階段が配置されていたのだろうが今現在は欠片がいくらか散らばるのみ。渋い顔をしたティーは後続してきた味方に向かって「ロープは?」と問い、「固定する方法がありません」との返答を貰う。
「温泉はもう入れなさそうだ……」
「行くんすか?」
「この先に絶対陣取りたい」
「お前自分が5分前に言ったこと思い出せ」
「何の事やら何の事やら」
「ひきゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ちょぉぉぉぉいっ!!」
「ほら足滑らせたフェルトがメル道連れにしたから」
「もう選択肢ねえじゃねえか……」
若干揉めたが、ゾンビに足掴まれたか如き姿勢でメルが消えていったので、シオンはヒナにハンドサイン、彼女はジト目で後を追う。
「よし全員行くぞ、荷物は残すな、ここにはもう戻ってこない」