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高すぎる代償2

 アトラの考えとしてはこうだ、マカロフという名前らしい同志だか元帥だかを含む重要人物を殺して組織を瓦解させ、そのタイミングに合わせてレア中隊が和平交渉の提案、もしくは降伏勧告を行う。この"殺す"というのは"社会的に殺す"という意味である、「甘すぎない…?」と憂さ晴らし希望のレアは言うも、アンドロイド3人衆は「たぶん満足できる」と返した、虚ろな眼で。


 そうしてから実行準備に移る。レア中隊は壁の外にいる監視の目をくぐってクレムリンを包囲、合図に合わせカムパネルラを飛行させる。内側にいるファイブナインは倉庫裏の安全地帯に戻って動画編集と共にジャンク漁りを行う。十分な長さのケーブルとビデオレコーダーを見つけ出し、どうにか再生できるようにして動画をコピー、物陰で電源に接続しておく。本来の再生機材に赤、黄、白の3端子をこっそり繋いでおけば準備終わり、後は操作要員をはっ倒してチャンネルを切り替えるだけで済む。殺傷行為はしない、したら事が円滑に進まなくなる。


「ここにいる我が同志達よ」


 間もなく演説は始まった、巨大モニターに映るのは予想よりずっと若い40代後半くらいの、精悍な顔つきの男性である。七三分けの黒い髪、平等主義をアピールするためか着ている制服はとても質素で、胸に赤い星がつく程度。事前情報無しに初対面すればかなりの好印象だったろう、彼は指導者として間違いなく優れていると。まぁ実際、優れていたからここまでの組織を築き上げられた訳で。

 しかし、彼が壇上に上がり、微笑みを浮かべながら至って真面目な話をし始めた瞬間、クロはまた崩れ落ちた。広場に集まって清聴する民衆の後ろ、鈴蘭の横で両膝と両手を地面について「ぶっ…! くふ…ッ! ひひ…!」とか笑い声を漏らしている。大佐と目を見合わせ、お互い訳がわからないという顔をし、目線を戻すと、『始めるぞ』というアトラの声が通信機からした。


「我々は安泰である、我々は正義である。皆が平等に、互いを思いやって生きれば人類はまた黄金の時代を迎えられるだろう。南に巣食う悪魔の存在を不安に思う者もいるようだが、あのような……」


 で

 すぐに

 モニター映像が乱れた


「何だ……」


 まず最初に砂嵐、ザーザーとノイズが鳴る中うっすらとデフォルメされたコウモリのイラストが現れ、『これは今から2時間前に撮影された映像である(イケボ)』とのナレーション。切り替わった映像は宮殿の倉庫らしき場所、アトラの視覚映像で、まったく音を立てずに隣部屋へのドアを開け、かつてパーティーにでも使われていたらしきホールへ移動する。


『でぇっへへへへへへ! ママー! ぼっくんはー! ちゃあんとバカな同志たちを働かせてママの領土を増やしてまちゅうう! だからご褒美! ご褒美くだちゃいいい!』


『こんな時間から欲しがるなんていけない子ねぇ……ほら何が欲しいの? 何が欲しいのかしらぁ?』




 この場のすべてが凍り付いた




『母乳! 母乳ぅぅ!』


 オーケーもう音声はいい、脳内ミュートをかけよう。たった今酸欠の金魚みたく口パクパクさせる同志の眼前で垂れ流されるのはさっきアトラとティオが撮ってきた宮殿内部の様子、午前中の宮殿内部の様子である。ホールの真ん中のうず高―く積み上げられた金貨と銀貨の山、その上で全裸の人物2人がなんかやっていて、片方は鞭をぶらぶら、片方は四つん這いでハッハ言っている。そこでぱっと視点がもっと近く、おそらくティオのものと切り替わり、放送しちゃいけないところに「同志の同志」なんて赤星マークが貼ってある映像をたっぷり5分以上視聴させられる。あまりの出来事に誰一人として動こうともしないし言葉も発さない、ただ鞭打ちの音とか鳴き声とかが響くのみ。


 なお付け加えて一応言っておくと両方男性である、中年の。


「……その……一体我々は何を見せられてる?」


「ホモおじさんの成金SM赤ちゃんプレイ……」


「ホモ……何?」


 大佐と鈴蘭がようやく回復|(クロは転がったまま)した頃、同志も慌てて「違う何かの陰謀だ!」とか言い始めた。しかし本格的な言い訳タイムに移る事はなく、民衆の視線は上空から響いてくるジェット音の方向へ。


「今度は何だ!」


「あれは味方です」


 カムパネルラは砲を背中に背負い、胸に半泣きのレアを抱いていた。非常に優しい着地で鐘楼の屋根に陣取ると手を開き、彼女を立たせる。


『ひぃぃぃ……わっ…私達は敵じゃないわ! 交渉をしにきた! 従えばこのつまらない閉鎖コミュニティを解体してあげる! 頑張って働けば相応の報酬が貰えて! 好きな時に好きな事ができるようにする!』


 以下、拡声器を使うレアの交渉提案とも降伏勧告ともつかぬ主張が続く。同志はなんかわめいていたが、間もなく家畜の豚を見るような眼をした民衆と警備兵の波にのまれていく。全員に囚人みたいな生活を強いておいて自分はあんなド変態…失礼、贅沢な娯楽に走っていたのだ、元々不満も積もっていたようだし、一瞬にして信用は地に落ちた。レアが言い出す前にセルフ武装解除も始まって、ただ映像だけは未だ放映中。


『いい革命だったか?』


 なんかアトラが言ってるけど、

 まぁ、無視でいいか。


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