ソウルフードは洗脳に打ち勝つ
「同志マカロフは平等です、彼の思いで世界は包まれるべきです、私は今日も幸福です、今日の朝食は蕎麦のカーシャです、同志マカロフは平等です、彼の思いで世界は包まれるべきです、私は今日も幸福です、今日の朝食は蕎麦のカーシャです、同志マカロフは平等です、彼の思いで世界は包まれるべきです、私は今日も幸福です、今日の朝食は」
「触手のぶつ切り」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!! …………ハッ!?」
見事、牢屋の中でうずくまり同じ言葉を延々繰り返していたバンカー兵はただの一言で正気を取り戻した。瞳に光が戻った彼は右左と首を回し、鈴蘭の姿を認めると格子にすがりつく。
「助けに来てくれたのか!?」
「もちろん。バンカーでの戦いの時からですよね」
「ああ、あの時捕まって連れてこられた、俺以外に20人ほどいる。バンカーはどうなったんだ?」
「落ちました」
「マジかよ……」
「中隊が近くまで来ています、もう少し待っていてください。これを」
言って、鈴蘭は彼に食べ物の入ったビニールパックを渡した。汚れた服を着て頰がこけた様子からしてロクな扱いを受けていないだろう、きっと腹が空いている。
「これは……」
「ビーフジャーキーです」
「ちょ……えっ……ビーフ…あの…ビーフ…!?」
〜バンカー流ビーフジャーキーの作り方〜
1.すり下ろした玉ねぎとにんにく、砂糖、塩、好みの香辛料複数種、黒こしょう、みりん、醤油でタレを作る
2.触手のぶつ切りを開きにする
3.タレにどっぷり漬ける
4.3時間以上待つ
5.余分な水気を取る
6.カラカラになるまで干す
「あなたがビーフジャーキーだと信じる限りこれはビーフジャーキーです」
「ちょっとそれは無理がぁ……!」
まぁ要するにそれは触手の干物だ、加熱調理はされていない。細切れにされる訳でもホロホロになるまで煮込まれる訳でもなくただ乾かしただけのそれはまぁ、食物を前にこう言うのも何だがミミズの死体そのものであり、一目見ただけで空腹は満たされるというかなんというか。絶望する彼から目を離してクロのそばまで戻り、「処分できました」「よかったよかった」と小声で会話。
「っと……」
なんてやっていたら不意に背後、宮殿方向の通路から足音がしたので、どうせアトラだろうが一応ハンドガンに手を伸ばす。
「……」
「アトラ?」
お仕置き材料を探しに行くと言っていた、その結果によりフェルト式のお仕置きをするかメル式のお仕置きをするか決めるのだとか。ティオを引き連れ帰ってきた彼女はなんか目が虚ろで、ここは安全と見るや柱に額を押し付ける。
「予想を遥かに上回るものが撮れた」
「え、何何どしたのデータリンクしてよ」
「後悔するなよ」
「べっ……」
直後、クロは崩れ落ちた。
「大佐、大佐!」
「はいよはいよ」
「鐘楼の前に巨大なモニターがあったな、あれは何に使うものだ?」
「同志がいつも演説に使う、今日も昼過ぎにやる予定だな」
ならそれを使おう、言って彼女は外へ向かう。お仕置きはメル式で行くというのはわかったが、データリンクできない鈴蘭には何が起きているのかまったくわからず。
「パスワードは?」
「まったくわからん、部屋と警備が多すぎる。自由に出入りできるようになってから探すべきだ、ついて来い。……いやついて来るな、いや雑用があるから……」
「どっち」