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 ペレストロイカとは、ソビエト連邦の末期に起きた改革運動である、これを皮切りに世界は共産主義を見捨て始めた。急速な民主化に国自体が耐えられず崩壊、ロシア連邦の誕生と冷戦時代の終結を象徴する事柄のひとつとなる。


「起床時間と消灯時間は絶対、食事は毎日同じ、仕事には毎月のノルマがあって達成しないと酷い」


「共産主義ってより大躍進の臭いがするなぁ」


「目覚まし時計を止めた後の二度寝がどれだけ幸せか知らないなんて……」


「うーん、レアとかシオンも苦労してるんだねぇ」


 質問に答えてくれた子供の話をまとめるとクレムリンの生活様式はそんな感じだ、かつて中国が大躍進政策と銘打った一連の大惨劇に似た方式を採用しており、住民は漏れなく1日にすべき行動を決められている。違いがあるとすればきちんとした理由と手法をもって生産活動を行っている点だろう、「製鉄ノルマを満たすために農機具を溶かして屑鉄にしよう!」だとか、「食糧ノルマを満たすために農民の備蓄を取り上げよう!」だとか、いったいどこを目指しているのかまるでわからない体制ではない、少なくとも。


 なおバンカーにそんなごっちゃごちゃしたノルマや時間割はなかった。働く、金を貰う、メシを買う、それだけである。


「それで鈴蘭、ここの人達はどう? 幸せそうに見える?」


「いえ」


 生きている、というより生かされているというのが正しいように思える。外界と断絶され、何の変化もなく、ただ同じ事を繰り返すだけの毎日だ。それは生きているとは言えない、シオンも言っていた。


「アトラ、幹部の人は見つかりましたか?」


『いやまだだ、意外と広いからな。そっちでも探してみてくれ』


 言われ、先行するクロに追従して路地裏を出る、通りはやや人が多かったが店の類は一切無く、賑やかとは言えない。食糧を含むすべての物資は配給制だ、今日の献立を考える必要は無いし、着る服で悩む事も無い。


「兵士はたくさんいるけど偉そうには見えないね、アトラはどこ探してるの?」


『製鉄所の近くにいる、倉庫のあたりが手付かずだ』


 それで、今必要なのは脅迫すべき幹部クラスだ。時間は本当にかけたくない、今のうちにフェルトからご教授頂いておく方がいいだろうか、いやでも「まず電動ドリルを探します」とか言われても困るから別にいいか。


 となると、やはり一刻も早く幹部を見つけなければ。自力で探すのは困難だ、また誰かに聞いてみよう。

 そこでちょっと思いつく。


「……アステル」


 スロートマイクを押さえつつダメ元で言ってみる、当然返事は無い。


「アステル?」


『…………』


「アステルアステル」


『………………』


 返事は無い。


「応えてくれないとこっちで保管してるボディはポニョの人にプレゼントしますけど」


『……………………何?』


 あった。


『あの、鈴蘭? 私もう敵なんだけど』


「敵の味方は敵っていうし、今は交戦中じゃないから大丈夫です」


『私はどこからツッコめばいいんだろう……』


 この周辺はAI側にとっては過疎地域だが管理者サーバーにかなり近い、恐らく最寄りの人里だろう。アステルが詳しく知らない訳がない、いの一番に彼女を頼るべきだった。


「聞いてたって事はこっちの状況わかってますよね? 手頃な人を紹介して欲しいんですけど」


『いやー……だからあの…私は上位の指揮権限を持つAIで、これからそっちと』


『食糧備蓄庫に出入りする不審な男が何度か目撃されてるな』


『ちょっと!!』


 急に男性の声が割り込んできた、ここまで黙って聞いていたクロがピクリと反応、ティオとアトラも『うん…?』『あ?』なんて漏らす。廃基地でティオと殴り合いした大剣男、ヴァニタスだ、そりゃまあ彼もいるに決まってるか。


『倉庫裏に普段誰も寄り付かない空間があるとかないとか』


『ばっか! 口閉じて!』


『俺は世間話してるだけだ、お前の通信機が誰と繋がってようと知った事じゃあない』


 ふふ、と笑って彼のヒントタイムは終わった。食糧備蓄庫は一番奥だ、足をそちらへ。

 それと彼に感謝の言葉を、と思ったが、先にクロが口を開いた。


「おっさんはハーレムルート狙い?」


『おい誰かそいつの頭を叩き割れ』

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