かつての都は見る影もなく
まずクレムリンに向かう道のうちタイヤ跡がある所に瓦礫を転がし、外に出ていたトラックが帰ってくるのを手頃な場所で待つ。やってきた6輪トラックは瓦礫の前で停止、運転席と助手席から降りてきた2人が撤去を始めたので、その間に荷台へ潜り込んでおく。後はアトラの合図に合わせて飛び降りるだけで壁の内側だ、物陰でひとまず落ち着く。
「あらかた解体されちゃってますねぇ、残ってるのは大宮殿と鐘楼、あと外の大聖堂だけでしょか」
「大砲は? 残ってないのかい?」
「いつの間に観光パンフレットなんぞ拾ってきた……いや、地図、地図か、見せろ見せろ」
さっきトラックを待っている間に見つけた冊子へ4人群がって現在地を確認する、今は元老院があった付近らしい。絢爛豪華な建物群はいくつかを除いて資材となり、家、というより宿舎が並ぶ。窓からちょっと覗いてみると眠る以外に用を成さない、4畳半より小さい2畳くらいの空間にベッドとテーブルがあるだけの部屋である。それはまだマシ、少し離れた場所でもう一度覗くと今度は大部屋だ、50人分のベッドが並び、テーブルすら無し。建物の大きさからして千人を超える収容能力があり、ここの住人は(ごく一部を除き)すべてこの部屋のようだ。言うまでもなくバンカーの下っ端戦闘員より遥かに酷い、お世話になってたレア宅には言うに及ばず、サーティエイト宅が裕福に見える。
「清々しいくらいのスペース節約だぁ……」
「これが共産主義ですか……」
「バトルドールの収容カプセルよりマシだろ、さっさと行くぞ、ティオ先行」
彼らの生活を垣間見たところで影から移動しよう、人の目に留まらないよう、しかし自然な歩き方でティオが広場へ出て、3人がそれに続く。
今のうちに目的の確認をしよう、ファイブナインを擁するレア中隊ことバンカー第2中隊は廃墟で拾った音声ディスクの指示に従いパスワードを探しにきた、それが無いと管理者サーバーに接触できないとか。当時は大統領がなんらかの媒体に書き込んで保管しており、執務室に行けば見つかるだろう、とのこと。サーティエイトの所属する第1中隊は先に管理者の近くへ行ってしまった、追いつく頃には敵を狩り尽くしているだろう。
「で問題はその執務室がどこにあるかだ、そのパンフに載ってないか?」
「それね、アトラ、たぶん大統領官邸だと思うんだけどさ」
「どこにある?」
「今ボクたちが立ってる場所に昔あったらしいんだ」
足が止まった。
「……私はどこに向かえばいい…?」
「あー……宮殿だ、残ってるならあそこしかないだろ、多分」
繰り返すがかつてあった建物はほとんど解体されている、クロのセリフを聞くなりティオはアトラに問い、人が住めそうで唯一残存する大宮殿へ進路を変える。価値を知っているなら捨ててはいないだろう、この集団の一番偉い奴の執務室だか事務室に忍び込めばいいのは変わらない。
「そっちは警備が厳重」
「ち……あまり時間をかけたくないが…幹部を1人捕まえよう、そいつを脅して案内させる」
なのだが、当然そちらは兵士が大量に巡回していた。武装は2種類、バンカーのアサルトライフルより大きいサブマシンガン構える奴と、ボルトアクションライフル背負ってハンドガンを握る奴だ。この近距離でライフルは論外だから除外するとして、サブマシンガンは装弾数35発で射程150m、ドラムマガジンなら71発入る。ハンドガンは50mで8発、セイフティが無い(重要)。山ほどある鹵獲品を調べ尽くしたのでこれは正確な情報である、あらゆる点においてバンカーの装備には敵わない。特にあのサブマシンガン、反動が軽いという以外に利点が無い。
とはいえこちとらハンドガンのみ、数も多いし面倒だ。なので直行を諦め、市街地…にしては随分と質素というかプロレタリアート的だが、そちらに向かおう、偉そうな奴を見つけるために。
「判別つくか? 明らかに労働者階級ではない奴だ」
「たぶん容易。身分の低い人はみんな目が死んでる、ありえない」
「そこに関しては異常なのはバンカーの方でだな」
とかアトラとティオがやってる。
そのへんに関して鈴蘭は口を出せない、あのバカ騒ぎ集団としか関わった事が無いので。
「しかし……ふむ……クロ、鈴蘭、別行動を頼む。子供を見つけてここの生活の様子を聞き出してこい、マセた奴は駄目だ、純粋そうな奴だぞ」
「何をするんです?」
「ペレストロイカ」
あぁ、はいはい。
なんだそれは。