2229
廃基地 発電所付近
59部隊"ファイブナイン"
鈴蘭
『撃て撃て撃て撃て!!』
「はいはいはいはい!!」
別の場所でレアがどごんどごん鳴らす中、現場に着いた鈴蘭も十字路に横たわるコンテナの列へ直ちにライフルを向ける。トリガー引きっぱなしのフルオートで6.8mm弾をぶちまければ全弾もれなく接合部のシャフトを守るカバーを襲撃、吹き飛ばす。
「よしこれ使え!」
撃ち切ったマークスマンライフルのハンドガードをアトラが掴み、鈴蘭が手を離せば取り上げられ、代わりにアンチマテリアルライフルを握らされて、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぃっ!!」
「よーし知ってた!!」
即時、3倍を超える重量差に押し潰されかけた。ひょいっと渡すもんだからまったく構えず受け取ってしまい、前のめりに倒れる寸前でアトラとティオからの補助を受ける。
スコープを覗く必要はない、当てる場所を認識してトリガーを引けばいい。盛大な反動に吹っ飛ばされる前に25mm弾は銃口から飛び出し、誘導化されてシャフトへ突撃、40mmグレネードを凌ぐ爆発を起こす。幾分か強化されてたかもしれないシャフトはぽっきり折れ、後部活動停止、前部は左に消えていく。そのタイミングで通路は隔壁を下ろし始めた、完全に塞がる前にがったんがったんやり出したものの、関係無しに隔壁は閉鎖される。次に見るのはカムパネルラによって切り刻まれた後の姿なのだが、今それはいい。
「ファイブナインはコンテナ切断に成功!」
『よーしサーティエイトも頭部を破壊した! 後はザコどもを一掃して終わりだ!』
撃ち終えた後、鈴蘭は反動で仰向けに倒れていた。アンチマテリアルライフルは取り返されたので、マークスマンライフルの空弾倉を外して予備と交換、ボルトリリースボタンを押しつつ立ち上がる。アトラとティオは既に180度回転して洪水が如く押し寄せるバトルドールを撃ちまくっており、直ちに鈴蘭も参加、2人に弾倉交換させる。
「なんか来てるなんか来てます!」
「おいクロいつの間に子供作った!」
『だから作ってないってば!』
サイクロプスを小型化したような4脚のロボットがガトリングガン担いで現れた、現れた途端に25mm弾喰らってとっ散らかったが。装甲持ちなら危なかったかもしれない、次が来る前にこの遮蔽物皆無な通路を離れるべきだ。
しかし、その前にスモークグレネードが投げ込まれた。狭い通路はあっという間に視界ゼロとなり、2人はサーマルモードで射撃を継続するものの、鈴蘭は銃口を下げざるを得ない。
「今度はなんだよいつの間にスモークなんか正式化した!?」
「前は無かったんです!?」
「あったら使いまくってたわ! 畜生いなくなってからこんな面倒極まりないもん装備し…やが……て……」
と、
急に声が小さくなった。
「アトラ…!? ティオ!?」
「誰か……D DOS攻撃が…………」
『クロがいきなり倒れた、何が起きてるの?』
2人が床に転がる音と同時、通信機の向こうでフェイが言う。煙まみれの中恐怖を感じてマークスマンライフルから右手を離し、コイツよりはまだマシだろうハンドガンを腰から抜く。
だが、敵が撃ってこない。足音はするので止まった訳ではなかろうに。
『ポーニョポニョポニョ!!』
『D DOS攻撃です! お3方には現在CPUの能力を超える無数のコマンド要求が外部から送られております! パソコンであれこれ開きすぎてフリーズしちゃったことありませんかね!? 原理はアレと同じでありんすよ!』
『対処!!』
『メル殿メル氏! これが聞こえてると決めつけて言いますが処理肩代わりと某に……』
なんて不審に思った矢先、後頭部に冷たいものが押し当てられた。
「動かないで」
聞いた事のある、ノイズの乗らない透き通った声だ。いつの間にか背後に立っていて、押し当てているのは恐らく銃口だろう。
「……えーと、エビのクリームソテー食べに来たんですか?」
「だからそれエビじゃないでしょ」
「味はほとんどエビで」
「見た目」
彼女が引き金をあと僅かでも動かせば鈴蘭は死ぬ、と思う、「さすがに脳の損傷は再生が働かない可能性が高い」との診断を受けた。それを知っているのかいないのか、いやどちらにせよ突きつけるとしたら頭か。
「アステル……」
「手荒なことはしない、一緒に来て欲しいだけ」
「あの私、敵に捕まったら絶対解剖とかされるって言われてて」
「しないから、大丈夫」
何故、という疑問は浮かんでこない、薄々勘付いてはいた。この終わりかけた世界でバンカーの地下にアクセスする技術を持ち、その場その場で完璧と言える情報を提供してきた彼女があちら側でなくて何なのかと。
「そんなこと言って乱暴するつもりでしょ! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」
「うん、あの……お願いだから状況わかって……」
なんて、言いながら、体の前にあった右手のハンドガンを少しずつ動かしていく。この煙の中でもどうせサーマルで見ているだろうアステルに晒さないよう、銃口を自分に向ける、左腹部に押し付ける。
「従ってくれればすぐに退くし、もうここは襲わない。だから大人しく両手を……」
「っ!」
「なぁ…!?」
トリガーを引けば当然、飛び出した4.6mm弾は鈴蘭へ突き刺さる。皮膚を裂いて内臓を貫通、骨だけは避けまた皮膚を破り、大量の血液と共に背後へ飛び出した。勢い十分にアステルに再度命中、どうせ致命傷ではなかろうが、何が起きたか理解される前に振り返って、左腕のみでライフルを向け、ハンドガンを投げ捨てた右手をグリップに戻す。
恐ろしく綺麗なベージュのポニーテールをした少女だった、ライトブルーのコートを鈴蘭の返り血で染めている。拳銃弾は腰付近に当たったらしく、右手に握ったテーザー銃の照準をずらし、左手を被弾箇所へ。
「おらぁぁぁぁぁぁふざけた真似しやがってBD-3ナメんなよコルぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
マークスマンライフルが全弾放出を始める直前、アトラとティオが復活した、相変わらず視界ゼロの中待機していたらしいロボット達を追い散らす。
こちらは一瞬だ、漏れなく彼女のボディに命中し、問答無用で機能停止に追い込んだ。
どうせ機械の体である、こんな場所まで出てくるならバックアップも万全のはず。
「だから…死なないけど……痛いんだってばぁ……!」
拳銃弾はライフル弾より弱いとか言ってるの嘘だろ、痛い、とりあえず痛い。弾丸が突き抜けた後から溢れる血を申し訳程度に押さえるもまったく意味は無く、崩れ落ちた残骸と、ティオの呼びかける声に続いて鈴蘭は壁にもたれかかりつつずり落ちて、
「って誰に言ってるの……」
間も無く意識を失っていく。