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廃基地 直上
AGX-1 ランドグリーズ
フェイ
「アサルトギアが来た」
それと味方も来た。
『カムパネルラは戦域に侵入』
上空の暗闇を切り裂いて現れた光粒子の帯がランドグリーズの右前方で止まり、ホバリングを始める。あの飛びっぱなしで一切着地する気配の無い、ボディを青い光の筋で覆う機体がアサルトフレーム"カムパネルラ"、コクピットにはアリソンが収まる。武装は76mm砲とブレードのみだが、機動力ではランドグリーズの遥か上を行っており、総合戦闘力では同じくらいと思われる。強いて言うならレーダーを筆頭とする電子戦能力がばっさり切り捨てられているので、まずはランドグリーズやレーダー部隊とのデータリンク。
「レーダーシートに誰か欲しい」
『仕方ないな、クロ行ってこい』
『ボク?』
『バッテリー残量的にな』
パネルを確認、敵反応はまだ遠いと見てコクピットハッチを開く。全方位モニターが一斉に沈黙、前部分は上下に割れ、装甲が開き、ワイヤーが伸びていく。戻ってきた時にはピンク頭が乗っており、素早くコクピットへ移乗、パイロットシートと背中合わせのレーダーシートに収まった。
「そんで敵は?」
「アサルトギア2機、片方が高速接近中で、もう片方は高所に陣取ろうとしてる」
「優先すべきは後衛だね。……うっっっわ本当に受け付けてくんないじゃんわははははははガッデムガッデム」
ランドグリーズはAIによる直接操作を一切認めない、頭髪の中から引き出したコードをコンソール下へ抜いたり挿したりするクロは笑い声を上げるもまったく楽しそうではなく、仕方なしに人間と同じ操作、すなわちキーボードを叩き出す。対してフェイはほぼすべてを脳波検知による感覚操作で行なっており、両手はそれぞれスティックを握るもまったく動かさない、にも関わらず機体は動く。普段と逆の状況に「ぐぬぬぬ……」なんて呻く彼女はランドグリーズ及び味方レーダーの情報を整理、余分な反応を消してしまい、ランドグリーズのレーダーパネルが急にすっきりした。そしてそれをカムパネルラへ送信すれば準備完了、すぐにでも交戦できる。
「正面、突っ込んでくるのが"ウロボロス"、後ろにいるのが"ランスロット"」
「ウロボロスの武装」
「47ミリ2門を両腕に、88ミリ1門を右肩に」
なんとかなるか、前衛はランドグリーズが受け持とう、というかそれ以外無い。
「なんで紙装甲2機でコンビ組んじゃうかな」
「これしか作れないんだから仕方ないでしょ。ランスロットは?」
「同じく88ミリ、ただしレールガン。それとブレード」
うん、こっちもカムパネルラ向きだ、なんかレールガンなんて言ってるけどどれにせよ一撃必殺なのだから無関係、ちょっと弾速が速いくらいである。
「その考えはさすがに無理がある」
言われた。
「交戦開始、行って」
頭上で粒子を噴いたカムパネルラが加速していく、レーダーパネル上では弧を描いて後ろの敵、ランスロットへ。間も無く上空からの砲撃を行う、モニター上ではそれぞれの機体が輪郭表示されており、発砲すると一定時間、弾道を示す白線が現れる。カムパネルラの初弾はハズレ、至近弾だったので爆発でのダメージは僅かなりとも与えたろうが、その程度で戦闘能力が削れていたらこんな大仰な機体にする意味が無い。直後にレールガンの反撃を受けるもまったく危なげなく回避、カムパネルラは離脱していく。
「ウロボロスの行動予測」
「コンプ」
「105ミリ任せる」
ランドグリーズも行動開始だ、外付けブースターを噴かして前進、木々を薙ぎ倒しつつの接近を試みる。目標は前衛のウロボロス、これから向かう可能性の高い方向に赤線が何本かあり、そのうち1本を本当に辿り始めたので、それに合わせてこちらも進路を決定。
「ロックオンされた!」
巨大なブースターを下向きに、最大噴射で跳躍し、殺到してくる47mm弾の白線から逃れる。視界が急に開けたので今のうちに相手を視認、拡大表示すると超絶ガリガリな青い機体が映った。防御度外視のランドグリーズを凌駕するまさかのほぼ骨格のみ、鋭角的なフォルムとトカゲっぽい頭部はランドグリーズと近縁な事を感じさせる。47mmのライフルみたいなやつを両手に握り、右肩に88mm長砲身砲を背負う。
「くたばれぇッ!!」
「おぉーっと始まったー! 始まりましたー! キリノ・ザ・バイオレンス降臨でーす!」
降下開始しつつガトリングガンから30mm焼夷徹甲弾をぶちまける、あのナリならこれでも手痛い被害を受けるだろう。しかしちょこまかと動きが速い、ブースターのサイズ的に最高速度では勝っている自信があるが、とにかく軽いのか瞬発力がバカ高くカックンカックン動いており、当たる気がしない、もっと近付く必要がある。
「ブースターのリミッター外すよ! 目一杯噴かしていいけど60秒で一旦止めて!」
「保証しかねる!!」
「じゃあボクが管理するけど怒らないでね!? いきなり切ってもブチギレないでね!?」
座席に叩きつけられるような加速である、前方限定ながら相手の瞬発力に匹敵する。これなら行けそうだ、肉薄できる。
『よっしゃー!! たどり着いたー!! 完璧なタイミングのワーム通過だー!!』
と、やっていたら、いつものうるさいのが聞こえてきた。