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廃基地 車両基地手前
308部隊 "サーティエイト"
フェルト
『シオンこれ玄関先に飾ってーー!』
「玄関先がもうねーんだよなぁ……」
槍を起動、淡く発光する刃を短く振れば発射レールを上方へ向けていた脚は切り落とされた。それを曲がり角の床に設置、廊下の先を睨ませる。
「残ってるキャニスターは4発」
「1発ここに置いて? あとはシオンちゃんとヒナちゃんと私に」
ほぼ水平になった発射台へユウヤが回収してきたチャフロケットをセット、そして状況次第で同じ事をするべく1人1発を携行する。起爆さえすればいいのでロケットモーターと先端の被帽を分解してしまい、できるだけ小さくしてから懐へ。槍はしまい、代わりにサブマシンガン。
『よしユウヤは戻ってきたまえ。3人も無理はしないよう、東の敵を爆殺し終えれば東隊がまるごとフリーになるから、巻き込みに失敗しても負けじゃない』
じゃあ、と言い残して彼はこの場を離れた。受け取った小型端末はフェルトが使用、キャニスター発射直前まで持っていく。
「来たわよ」
キャタピラの音が近付いてくる、タイミングを見計らって発射ボタンを押した。パシュンと鳴らして広めの通路を飛翔、100m先でアルミ片を撒き散らす。直後にワームの頭部が脇道から現れたので曲がり角に隠れること数秒、レーダー反応のみで進路を決めた奴は反対方向へ頭を向ける。
「今だ今だ今だ!」
シオンの号令と共に飛び出し、機体側面を見事見せているワームへ弾丸をぶちまけた。すべて魔力貫通弾である、青色の残光がコンテナの継ぎ目に殺到していく。盛大な着弾音が連続するも、それはシャフトを覆う蛇腹カバーの出す音であり、いくらか穴を開けただけで終了、シャフトの露出には至らない。キャタピラが停止したタイミングで3人一斉に通常弾をリロード、蓋を動かすコンテナへ照準を移す。
「退却アンド散開!」
中に詰まっていたバトルドールを起動前にあらかた壊した後、一目散に後退、それぞれ別の道にばらけていく。ワームはそのまま前進したようだ、あれだけの長距離編成ではバックなど容易にはできまい。
『よーし私らだけで倒せる相手じゃないと再確認できた! プランBに行くぞ! 廊下を走り回って奴の体を蝶々結びにしてやれ!』
蝶々結びは言い過ぎだが、次善の手としてはそんな感じだ、無駄に入り組んでる基地の通路を使ってあっちこっち走り回り、追ってくるワームのコンテナ群をどこかしらに引っかける。動けなくしてしまえば後は煮るなり焼くなり好きなようにだ、あくまでアレは輸送機で、ワーム自体に攻撃力は無い。
が
『あーーーー破ってる破ってる壁に穴開けて直進してくる!!』
『はーいプランB終了でーす!! 速やかにプランCに移りまーーす!!』
まぁ自分の欠点なんて熟知してるわな、といった感じ、奴は新しいドアを作る事でねじれるのを拒否、掘削音とバトルドールの展開音が鳴る中フェルトは慌てて進路を変える。
サーティエイト単体でできる最終手段だ、爆薬を撒き散らしてある車両基地へ誘導してからの爆殺である。東からの敵が殺到してくる前に内部を通過させればいい、後進できないのでタイミングがどうなるにしろボディのどこかはちょん切れる。
出会い頭にバトルドールが現れたので分割したままの槍を腰から取り、刃のカバーを外さないまま突き立てた。起動したそれは敵の胸部をカバーごと貫き、同時にサブマシンガンをホルスターへ、代わりに柄を取り接続、敵の後続をバラしていく。
「ちなみにフェイー!? コイツ外に引っ張りだしたら攻撃してくれますかー!?」
1分にも満たない間だけ散開していたシオンとヒナが合流してきた、そのまま車両基地への直行ルートを進もうとするも、途端に廊下の電灯が消えたので、「おっと」なんて漏らしたシオンが迂回ルートへ。
『ごめんしばらく無理そう』
走りながら飛ばした通信の答えはそんな感じ、ヘカトンケイルの破壊とオッチャンの撃退で北西の戦闘はひと段落したと思っていたのだが、まだ収まっていないようで。
『アサルトギアが来た』