2134
廃基地北西 スナイパーハイド
59部隊 "ファイブナイン"
鈴蘭
『すーーずらーーーーーーん!!!!』
「すごい呼ばれてます」
「仕方ないな……頃合い的にもオーバーヒート間際だろ、仕掛けるぞ」
ロボットは疲れない、それは事実だが無限に動けるとはまた違う。バッテリー残量もそうだし全力稼働を続ければ発熱していく。アトラが限界を指摘するのはヴァニタスと名乗るオッチャンだ、ティオのボディ状況(BD-3)はくまなく監視しており間も無く危険域で、カスタムボディとはいえそれより古い設計の相手(BD-2)が長く保つ訳はないだろ、という判断。
「これから手を出す、もう少しだ」
ティオの返答は無い、CPUの全能力を戦闘に費やしていて喋る事すらできないのだと思われる。スナイパーハイドから2人とも抜け出て彼女の交戦地帯へ走っていく、そう経たずに大剣で地面を耕す音が聞こえ、アトラは適当な場所で狙撃姿勢を取った。鈴蘭はクロに使わせるナイフを渡され、1人でさらに前進、ピンク頭が見える位置まで行く。
「合図したら撃って」
受け取ったナイフを左手に、サブマシンガンを右手に握る彼女の視線の先、ティオは交戦を継続していた。重量差からくる速度の違いを武器に背後、側面から襲撃、大剣とは一切打ち合わず数撃加え、自身というよりは直刀が捕捉される前に離脱し、それをヴァニタスが追っていく。その繰り返しだ、そうこうする間にどこかへ行ってしまう。
「今!」
密着状態から僅かなりとも両者の距離が空いた、その瞬間にジャストタイミングで着弾した25mm弾が足元で爆発する。彼は意にも介さなかったが少なくとも疾走を邪魔する程度にはなり、口を動かす余裕を得たティオが叫ぶ。
「もう無理ぃぃ!!!!」
たった一言、魂のこもった一言だった。鈴蘭の射撃開始は絶叫を聞き届けてから、ティオや突撃開始したクロに当てないよう銃口を真上に、セミオートで5発を放つ。
警告射撃でもなんでもない、赤光を纏って誘導化した弾頭は急激に進路を変え上方からヴァニタスへ殺到、停止と防御を強要した。
「ち…!」
焦げ臭さが微かに鼻腔へ入ってきた、予想通りパーツが焼き付きかけているのだ。だからだろうか回避をせず、上からの6.8mm弾を大剣の腹で受け、続くクロの刺突は被弾を許容、左前腕を敢えて刺される事でナイフを封じ、サブマシンガンには蹴り上げで対応。
「お前はボディ慣れしてからもう一度来い!」
そのまま腹部に靴底を叩き付ければクロが空を飛ぶ。暗闇の向こうへ消えていき、ガツンと何らかの金属音を鳴らした。
「それで君はもう少し常識的な攻撃をしろ!!」
撃ってはいけない的がなくなったので鈴蘭は水平射撃をする、フルオートでのぶちまけだ、大して照準はつけていない。1発たりとも直進するものはなく、曲がり曲がって四方八方から襲ってくる弾丸に相手は防御以外を許されない。弾切れ寸前に25mm弾も大剣を直撃、大きく弾き飛ばす。
「だがまだ……ってえぇぇぃ…!?」
ライフルを左手で横にどかす、空いた右手でハンドガンを掴む。鈴蘭の発砲よりずっと早く大剣を構え直したヴァニタスが大砲を撃ってきたが、蚊を払いのけるような動作をしただけで砲弾は鈴蘭への命中を嫌がりあさっての方向へ。
実体弾射撃武器で鈴蘭は殺せない、それは自負している。
「慣れてないってんなら……!」
と、
改めてハンドガンを向けた、その直後、クロが消えていった方向の暗闇でバチバチと放電が起き、
「ち……!!」
「慣れてるもん使ってやらぁーーッ!!」
閃光が走った。
走ったとは言うが目ではまったく追えない、射出されたと思った時には直径56mmの弾体は視界から消え失せている。済んでのところで回避したヴァニタス、腰から取ったスモークグレネードを放り投げ、ついに、というかようやくというか、彼は撤退を始めた。
「追うな! 急いで戻るぞ!」
「やったーー! シオンこれ玄関先に飾ってーー!」
「捨てろ!」
すぐさま合流してきたアトラに言われ、クロは渋々サイクロプス2から剥ぎ取ったレールガンの砲身を投棄、どのみちシステム全体を取り出しても運搬手段が無い。マシンガンだけ見つけてきて、弾無しのそれを担ぐ。
「姉様ぁ……」
「ん?」
あと1人、最大の功労者はおぼつかない足取りで現れた、とろんとした目で、頰が上気、いや実際してないが上気してるように見え、
「身体が熱いのぉ……」
「強制排熱しろ、バッテリーはまだ行けるな? 基地内で敵が暴れ回ってやがる」
「いけずぅぅぅぅ……」