2022
廃基地北西部 機関銃陣地
59部隊 "ファイブナイン"
クロ
「初っ端か……」
敵が接近してくる脚音がする、特徴的なハイピッチの4脚走行音が。
「ファイブナインからHQへ、サイクロプス2の接近を感知、奇襲を試みる」
『うげ……』
アトラがティーと話す間、即製の三脚に据え付けていたマシンガンを取り外す。弾薬缶から直接引き上げていた8.6mm弾のベルトリンクを手頃な所で分断、プラスチックケースへ納め、給弾口直下へ取り付ける。
次にロケットランチャーだ、機動性は切り捨てようと思う。66mm使い捨てタイプを2本たすき掛けで背負い、ベルトを締めて固定。
「クロ?」
「アイツは絶対許さない」
「わははは……」
やる気マンマンなその装備と口元だけの笑顔に鈴蘭は乾いた笑い、展開を始める他部隊に合図してクロを含む全員がその場を離れた。ゆっくりと、音を立てず、銃撃戦の喧騒に紛れるように。
「背後から脚を狙う、動きさえ止めてしまえば後はランドグリーズに位置を教えて終わりだ」
「うぃ」
「ティオ、先行して奴を目視しろ」
枯葉を踏む僅かな音のみを残してティオが暗闇に消えていく、遅れて鈴蘭が後を追い、次にクロ、アトラは後方を警戒しながら。しかし隠密行動のためライトを点けられず、さっそく鈴蘭が迷いそうになったので小走りで追いつき、左手を握った。
「こっち」
待ち伏せ予定地点はそう遠くない、アトラもいるし繋いだままで大丈夫だろう、このまま歩いていこう。
「なんだか助けられてばっかり」
「そーだっけ?」
言われて、ああそういえば戦車との間に割り込んだ事があったなと記録を漁る、あの時が鈴蘭との初対面だった筈だ、あくまで、アトラとティオにコピーしてもらった映像によると。
「確かにそうらしいけど」
「らしい?」
「ごめんね、今のボクはあの時より前に取られたバックアップで、あの時鈴蘭を助けたボクは完全に破壊されたから」
話しながら斜面をずっと降り、谷を越えてからまた登って、事前に建築しておいたスナイパーハイドまで移動。
「あの時どうして助けようと思ったのか、ボクは知らない」
「そう……」
時間がたっぷりあったので地面を掘って半地下式にしてあり、内部は匍匐前進する必要無くしゃがんで移動できる。そこへ鈴蘭を誘導、アトラと一緒に中へ入れ、1人になったクロだけがさらに斜面を登っていく。
『見つけた?』
『包囲284、距離1220』
丘の頂上で監視するティオに追いついて、後ろに伏せ、背後を警戒しつつ奴の位置を問う。といっても口は開かない、無線でのやり取りだ、通信機で傍受すれば声として聞こえるが。
『グリムリーパー2機を先行させてる、移動も遅いし、他の部隊と足並み揃えてるんだと思う』
『いや突っ込めよ、突っ込みなさいよ、何のための超高出力サーボか、不整地最高速度80キロは飾りか』
『サイクロプスシリーズのモットーはともかく、隙が少ない、チャンスは一度しかなさそう』
『ギギギ』
敵陣の中央をのんびり進むレールガン運搬機の状況はそんな感じ、そこから円を描くように視認できる部隊をすべて捕捉、味方に情報を送信する。
『あ』
『どった?』
『メルのタブレットにも送ってる』
『送らないよりゃいいよ、逐一報告しちゃえ』
これまでの嫌がらせみたいな攻撃とは違う、迫っているのは大部隊だ。こんな戦力、こんなへんぴな場所にあったかと疑問が浮かぶレベルである、予測される総戦力はバトルドールだけでこちらの人数を上回る。ファイブナインは間もなく安全な後退ができなくなろう、味方と合流したいなら敵中突破しかない、まぁ中隊長が打ち出した方針に従うなら味方がファイブナインに合流してくるくらいでないといけないので何も問題ではない。
しかし、何を思ってあんならしくない事をしているのか、あの女は。
『HQからファイブナインへ、まだ動くな、その場所はどの部隊も通らないから、確信が持てるまでじっとしてること』
『いいのかね? そんな悠長な事を言っていて』
『今キミが話してるのは防衛戦で勝率9割の指揮官だぜ? バンカーに接近すらできなかった悪夢さんは安心して隠れていたまえよ』
『ギギギギ』
とにかく、サイクロプス2に触れるまでにはまだかかる、
しばらく地面の虫をしていよう。