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2002

 廃基地 鉄道車両基地

 第1中隊 指揮小隊

 ティー




「ここに防衛線を張る。505は高台を見つけて観測所を設置、サーマルとナイトビジョンを持っていけ、111と356に護衛させる」


 ズン、と、施設内部へ入り込んでいたグリムリーパーが崩れ落ちる。攻撃を行った部隊は直ちに銃口を逸らしそれぞれ別方向を警戒、正面から人影が現れたため一度そちらへ照準を向けるも、静止のジェスチャーを送られればライフルを降ろし警戒を解く。


「敵はどっちから来る?」


「方位で言えば東と北西、北西のが本隊じゃないすかね。この廊下をずっとまっすぐ行って突き当たりの階段を上ると小山の上に出ます、ファイブナインは今そこに」


 すぐにシオンはティーの近くまで駆け寄ってきた、怪我は無し、ぶっ通しで襲われ続けた訳でもないようで、遅れて現れたヒナとフェルト含め適度に休憩を取れているようだ、1人を除いて。


「よくわからん攻撃です、勢いがよかったのは最初の奇襲だけで、後はなんつーか、攻撃を続けてるって言い訳してるような、しょぼくれた感じ」


「私の到着で態度変えるかもね、包囲されてるのは事実だし、地下じゃなくて地上通ってたらたぶん熱烈な歓迎受けてたでしょ」


 突然の救援要請を受けて拠点構築もそこそこに駆けつけてきた、というのが中隊の現在状況、シオンはああ言うがあまり芳しくはない。とにかく攻撃を仕掛けてくる方向に防衛部隊を配置、遅れてやってくるレア中隊の到着まで待つ。


「……メルは?」


「中央司令室に閉じこもってから32時間経過、呼びかけても応答なし、無線に反応なし。扉の前にメシ置いたりはしてますけど」


 新設の部隊に前面を任せて歴戦のサーティエイトがここでだらけていた理由はそこだ、1人足りないのである。

 過去に事件があったらしい、当時まだ10歳かそこらだったと思われるメルは1人で電波塔を修理して再起動、AI側にとって盛大な灯台を打ち立てた。その結果集落は壊滅、逃げるようにしてバンカーまで流れてきた。


「件の少年は?」


「彼も彼で色々思うところがあるみたいで、しばらくドアの前で話しかけたりしてましたけど、今は雑用やってくれてます」


「復讐って聞いてたけど」


「それも含めて思うところなんでしょう」


 であれば時間的制約はそう気にしなくてよかろう、彼も拘束の必要はなくなった。


「とりあえず引きずり出す可能性について……」


「 中央司令室は強固な防御を施されておりますので、物理的な破壊は不可能とお考えください、あそこの壁をブリーチングできるだけの衝撃を与えると中にいる彼女もぺしゃんこです。扉のヒンジも外側には露出しません、内側からは容易に分解できますが」


「うひっ!?」


 いきなりコードリールを引っ張ってきたメタボ体型の包帯男である、ガーゼの端から重度の火傷が覗く。頭にヘッドホンを着けて、というかスクラップ寄せ集めの拘束具で固定されており、表情は優しい、仏のような笑顔。


「唯一強硬手段として取れるのはメインサーバーのハッキングですが、アトラ様、ティオ様、クロ様は権限を握られているために接続すらできません。私? ええ嫌がらせくらいならできますとも、しかし確実に反撃してきますから、そのようなつまらない行いで残り少ない彼女の体力をすり減らすのは、ねえ?」


「誰……?」


「私が誰かなど瑣末な問題、貴女は貴女の役割を果たせば良いのです。ええそうすべての事象は等しく瑣末、男と女の差も人とAIの差も、この夢も希望もありゃしない世界も、このヘッドホンが自力で取り外せないようになっていて、フェルト様がボタンひとつで私に150デシベルオーバーの不協和音を流せる事実も瑣末な問題なのです」


 繰り返し言うが表情は仏のそれである、満身創痍の体とまったく噛み合わない。コードリールを引き終えて何らかの機械に接続、その機械からさらにコードを伸ばしていく。


「……とにかく、安全を確保しよう、その間に我慢できなくなって出てくるかもしれないし」


「じゃあま、ここはじきにトラップまみれになります、その間、東の敵は追い払うだけで構いません」


「なら戦力の大部分は北西に当てよう、ストレートな手段で攻撃を頓挫させればたぶん、主力を東に切り替える。その後増援を含めて敵をこの場へ誘引、先方を吹き飛ばし、レア中隊にトドメを刺させる。……おっと、女神様のご到着だ」


 後方からのズン、という地響きを感じてティーは後ろを振り返った。人型のロボットが着地した音と振動である、大小のうち大の方。

 まもなく基地内へ歩いて入ってくる、黒いボディに大型のブースター、複眼を構成するカメラがこちらを捉えて蠢く。空間内ほぼ中央で停止、胸のハッチを開き始めた。


「彼女は大物狙いで遊撃してもらうかね、バトルドールと戦わせても仕方ない。あーそこのキミ、設置するトラップの種類と所要時間は?」


「すべて爆発物、有線による遠隔手動起爆です、爆破すればこのフロアは崩落するでしょう。2時間頂ければ完了致します、それよりも威力が低くてもよいというならこの限りではありません」


 2時間に渡って1歩も退かないのは厳しいだろう、北西側は打って出るべきだ。仏スマイルの包帯メタボ男の情報をもとに部隊の配分を調整、次に指揮所として使えそうな場所を尋ねる。


「この先の部屋に通信設備と監視設備を整えてありま……」


「大丈夫? メル出てきた? 天井抜く?」


「かっ……」


 と、非常に丁寧な口調で喋り続ける包帯男だったが、人型ロボットことランドグリーズから降りたフェイが駆け寄ってくるとフリーズしてしまった。いきなりの沈黙に彼女は困惑、ティーに目線を送ってきて、こちらは小首を傾げる。シオンだけが何かを察して助走のための距離を取る中、包帯男が持っていたコードの端とニッパーを放棄、目にも留まらぬ速さでフェイの両手を掴み


「結婚を前提にお付き合いしてくださおぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 シオンに飛び蹴り喰らって吹っ飛んでった。


「ちょ痛ってぇぇぇぇマジ痛てぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 熱湯と明らかに違う!! タンパク質が固まってる感じする!!」


 途端に彼は口調を変える、仏スマイルはどこかへ消え失せ、世俗を極めたようなねちっこくてうっとうしい喋り方というか叫び方をしつつ床をのたうち回り出す。フェイは硬直状態だ、訳がわからなすぎたため目を点にしている。


「いい加減に反省しやがれぇぇ!!」


「そうじゃない勘違いはやめたまえ好感度が下がる流れはやめるのだこの方だけには嫌われたくない! いいか者ども君達が暇な時に丁度よく現れたどストライクじゃないんだけど可愛いことは可愛いからちょっとちょっかい出してみようと思った程度の別にどっちだっていい存在だったのに対しこの女神は!!」


 後ろで眺めてたフェルトの手がジャケットのポケットに入った。


「ガチなやつ……あがーがががががあ゛ーーフェルト様困ります!! あーフェルト様!! あー困ります!!」


 またのたうち回り始めた。


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