続きましてエンジン応急処置講座
「…………こいついっつもバイク壊してんなとか思わないでくれ……」
「何を言ってるのかさっぱりだ」
音源と接触してすぐ警戒は解かれた、休憩切り上げて移動再開しようとしたらエンジンかからなくて焦ってるただの少年だ。メルの背後ではアケビの収穫が再開され、そのうちひとつを割りながらシオンだけが近付いてくる。黒髪にゴーグル乗せた少年はとりあえずといった風にアスファルト道路の路肩にあるバイク横から立ち上がり、2人を交互に見始めた。
「なんだよコレほぼ種じゃねーですか」
「あんた達は……」
「私ら? まぁアレですわ、人類最後の希望とかそんなん」
「は、はぁ……」
革製ジャケットとジーンズパンツ姿の彼を一瞥、武器を持っていないと見るやシオンは興味の大半を削がれたようで、アケビにかぶりつき、ぷぷぷと種を連射する作業に集中し出してしまう。続いて必要量を採り終えたヒナが地上へ帰還、代わりに近付いてきた。
「このへんに住んでる人?」
「いや、ずっと東の方からこいつで。でもここらが限界みたいだな、あれだけして貰って100キロも走れないんじゃ……」
「貰って? 近くに人が住んでるの?」
「あ、いや……近くの集落じゃないよ、このあたりに人が住んでる場所はない。この間まではひとつあったんだけど、今は誰も居なくなってて」
「あ、そう。……うわ何コレ苦労してとったのにほぼ種じゃん」
彼女の質問は以上、シオンと同じく反転して種飛ばしに加わった。それを見届けてから改めてメルは視線を少年へ、彼から得られる情報はまだありそうだ。
「こないだまで人が住んでた場所っていうのはここから近いのかな?」
「ああ、10キロくらいかな」
「とりあえずそこまで行けばそのバイク、修理できる?」
「どうだろうな、パーツが落ちてればいいんだけど……それにちょっと安全じゃない、熊がよく出て」
「熊肉?」
「いや熊肉じゃなくて熊そのもの……」
「「熊肉!?」
「あっ、みなさん生き物って書いてタベモノって読むタイプなんすね?」
野草講座終了のお知らせである、重量的にも体積的にもカロリー数で草は肉に勝てない。最も効率よく仕留めてくれるのはアトラだが、奴はライフルを失ってお通夜状態なので、巨大動物を仕留める火力があるのはヒナとクロか。まぁいいや全員起こしちまえと直ちにタブレットから再起動命令を送信、ヒナはシオンから指示を受け痕跡の捜索を始めた。
とはいえこの場に猛獣の足跡なんかあったら悠長に草むしりなんかしてなかった訳で。
「とりあえず案内して貰っていいかな、その場所。安全は確保できるし工具も一式持ってるからさ」
「それは願ってもないけど、コイツをどうやって持っていくか……」
「セルモーターだねぇ」
「うおっ……」
いつの間にか、本当にいつの間にか自走不能バイクにフェルトが取り付いていた。クラッチとギアを操作しつつ何度もイグニッションキーを回してうんともすんとも言わないのを確認、次に他の部分をカチカチやって、それで故障部位を特定する。
セルモーターはエンジン始動の際最も最初に動く部品だ、バッテリーから電力供給を受けてエンジンのシャフトを強制的に回し、始動のきっかけを作るのである。これが壊れれば当然エンジンはかからない、とはいえマニュアルトランスミッションの車両なら対処は可、エンジンシャフトはタイヤとも繋がっているのだからタイヤを人力で回せばいいのだ。
「他に壊れてそうなとこいっぱいあるけど…10キロくらいなら走れるかなぁ」
「バイク、詳しいの?」
「そういえばあったねバイク好きっていうキャラクター成立当初からあるのに毛ほども役に立ってこなかった設定……」
セルモーターの位置を特定後、フェルトはバイクから離れた。腰から分割されたままの槍の柄を片方引き出し、少年に名前を問いつつイグニッションを指示。
「ユウヤ」
「あー、そりゃあバイクもこうなるよねぇ」
その語感から出身地を即時に特定、棒を構える。セルモーターを狙っているらしい、少年ことユウヤ君がバイクにまたがって鍵を回し、やはり応答が無いのを確認してからスイング開始。
「えいやっ!」
カツーンとモーターが良い音を出した直後、よくわからない理由でよくわからない部品が噛み合ったセルモーターは動き出した。続いてエンジンも始動、異音まみれのエキゾーストを響かせる。路肩から道路へ出てスタンバイ完了をアピール。
「今回だけだからね、エンジン止めたらまた動かなくなるからね」
「ごめんな、ありがとう」
これで彼は移動可能になった、セルを無理矢理動かした後は修理工場へ直行が絶対である。じきにアトラとかクロが車を持ってくるのでそれに乗って彼を追えば、今のキャンプよりマシかもしれない場所へ
「あったー! ありましたよ四つ葉のクローバー!!」
うわなんか違うの来た。