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「あ……これ走って追いつかないといけないやつだ……」

「ヒナっていっつも体狙われてるのに浮ついた話聞かないよね」


「……また?」


「聞かないってか、アトラが集めた記録にないって事だけど」


 なに集めてんだあのアホ。


 無事に扉が開いたので、駐車場から出てトンネルへ戻る。本来の調査対象だった山の貫通路は出口から真横に伸びていて、そのため左右どちらからも円滑に出入りできるよう道は別れており、緩やかなループがそれぞれに伸びる。右側に向かってしばらく歩くとバギーの走行音が聞こえてきたので、小走りに近付いていく。聞いたところによるとブービートラップは見つけられなかったとか。


 あと施設内にも何もなかった。


 なかった。


「興味ないのかい? その、結婚とか」


「いい。戦闘隊から離れられない契約になってるし」


 契約というのは義手義足義眼の話だ、戦う事を条件としてあらゆる費用をゼロにしている。契約書類を保管してあるバンカーは陥落、当時の人物は1人として残っていないので、その契約が未だ有効なのか誰にもわからないのだが、どちらにせよだ、全滅したらメンテナンスは受けられなくなる。


「どうせ子供も作れないし」


 トンネル本線に合流直後、ようやくバギーの姿が見えた。サーティエイト車が先行していて、2台同時に停止、前後を警戒し出す。急ぎ乗車し、タブレットを見ていたメルに臭そうな顔をされた。いや臭いのは雨水かぶったせいであって。


「あ、ちょっと待って瓦礫の山が崩れる音した」


「え、ちょ、待」


 フェルトのゴーグルに頼るまでもなく、ガラガラという崩壊音はトンネル中に響き渡った。直ちにヒナは左眼を最大望遠、ナイトビジョンに切り替える。


「おいアンガス牛だかなんだか知らんが突っ込んでくるぞ!」


「だぁークソ今は牛肉の気分じゃねえ他当たれ!!」


 初動は遅れた。アトラとシオンはそれぞれアクセルペダルを踏み潰し、ガソリンエンジンも真っ青の勢いで高出力モーターが回り出したものの、低速域での瞬発力こそあれ最高速度ではどうしても見劣りするものがあり、そもこの車は悪路走行専門のバギーカーだ、アスファルトの上を走る想定をしていない。

 ギアの範囲が狭いのである、自転車でも1速〜3速やら1速〜6速のギアが付いているものもあるので、乗った事があるならわかるだろうが、ギアボックスにあるそれぞれの歯車は担当する速度域に差異がある。3速までしかない自転車は低速から高速までを3個の歯車の切り替えだけでこなすため、それぞれの切り替えタイミング付近ではペダルが軽すぎたり重すぎたりするので動力(漕ぎ手)にかなりの負担を強いる。これを解決するには歯車を増やしてそれぞれの担当域を狭めるか、これ以上の速度は出せなくていいと割り切って、低速ギアのみでギアボックスを組まねばならない。

 その考えの極地を行ったのがバギーカーやラリーカー、レイドカーである。目的通りに使うとしたらどう考えても100km/h内外より上のギアなんて必要無いので、6速どころか8速も10速もあるにも関わらず、アスファルトでの最高速度は普通乗用車にも負けてしまう。


 なので当然こうなる。


「止めてこい!」


 後続の車両が吹っ飛ぶまで数秒、というタイミングで車からティオが飛び降りた。最高速度で突っ込んでくる暴れ牛に立ち向かおうとする彼女はアトラのスナイパーライフルを持ち出していて、両足で着地、減速しつつ仰向け寸前の姿勢でライフルを胸の中央に構える。轢かれる寸前に1発だけ発砲、相手腹部の3連装砲を見事に捉え、損傷したところに今度は銃身刺突。

 腹の下に潜り込んだ後のティオが何をやったがよく見えなかったが、砲身に突っ込まれたスナイパーライフルがアスファルトの割れ目に突っかかって本体を跳ね上げ、そして体勢復帰した時には左後脚にも直刀が突き刺さっていた。明らかに動作がぎこちなくなり、武装も体当たり用の衝角のみ。だがそれでも僅かに速度で負けていて、しかも路上はゴミだらけ、どうしても直進できない。


「脚撃って! ヒナ先生脚!」


「無茶言うな…!」


 言いつつも後部座席で半立ちして後ろを向く、腰にメルがしがみついて固定した。後ろの車両でも鈴蘭が同じ姿勢、既に射撃を始めている。


『あーもう当たんないんですけど!』


 いつものド卑怯ホーミング射撃は猛威を振るってくれなかった、赤光は発現するのだが、誘導が始まる前に後ろへ抜けてしまい、追い縋ろうと旋回しても壁に突き刺さる。という事は魔力貫通弾でも同じ目に遭うという事で、通常弾に金属を撃ち抜く力は無いわけで。


「C4!」


 というわけで、頼るべきはクロが持つ爆薬の余り、すぐさま乳白色の物体が投げ込まれた。絶妙なタイミングで起爆、トンネルへの被害を最小限に奴を揺さぶった。すぐに爆煙から飛び出してきたが、彼我の距離50m、連射し続けていた鈴蘭がようやくドド卑怯(2回目)魔力誘導炸裂弾を暴れ回らせる。


 そこにヒナが1発だけ撃ち込んだ、青い閃光が突き刺さる。


「しゃーー!! ざまーみろ安物がー!!」


 まさか本当に当たるとは思わなかったのでシオンみたく絶叫してしまった。右前脚をいきなり失って面白いくらい前転した牛さん、こちらがトンネルを抜け出すとほぼ同時にアスファルトとの摩擦に負けバラバラとなる。


「おっ……痛ててと!」


 急停止、明るくなって上を見上げると大量の破片に襲われた。


「おぅ…森だ……」


 下界が荒野だった反対側とは違い、針葉樹の森が広がる地域だ、核ミサイルとか受けなかったらしい。高度3000mから見る限り大部分が紅葉に染まる森、遠くに町がちらほら見える。


 後ろを見てみる、牛の残骸がトンネルを塞いでいた。


 帰れない。


「……」


「…………こちらサーティエイト、およびファイブナイン、応答求む」


 通信繋がらない、あのへん常時ジャミング状態だし。


「…………」


「………………キャンプ場所探そ」

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