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「初級者は迷う、中級者は迷わない、上級者はそもそも入らない、常識だぞ」

 壁に地図が貼ってあった。

 この通路を先に進むと非常に大きな部屋があり、方眼紙みたいなマス目だけ書いてある。そこを抜ければUターンして戻ってきて、この地図が貼ってある壁の反対側に小部屋があって、


 あ、これ大部屋に入る必要ねえや。


『ついにお披露目する時が来たか、この僕が2年の時間をかけて作り上げた巨大迷路が!』


 奴さんの意図としては「これでマッピングしていいよ」だったのだろうが、ゴールの位置を記してしまったのが運の尽き、誰もそれを剥がそうとはしなかった。一言も発さず目配せだけで意思疎通を終え、クロの背中にあった小型バックパックが降ろされる。


『そこを越えた先に僕はいる、でも簡単に通れるとは思わないでよね。史上空前の大迷宮だ、仕掛けも盛りだくさん、右手左手の法則対策もちゃんとしてあるぞ』


 だいたいこのくらいかな、と、壁にC4爆薬を押し付けた。擦り付けるように練れば子供がイタズラした粘土みたく粘着し、信管セット、できるだけ離れる。


『でも君たちならきっとクリアできるはず、さあスタートしたまえ』


 起爆


『止まるんじゃねえぞ(ここで壁が吹っ飛ぶ)』


 見事なタイミングである、1カメ2カメ3カメで追いたくなる爆破だった。轟音と瓦礫が室内を襲い、スピーカー音声が即座に停止、通路は粉塵で満たされる。伏せたまま視界の回復を待ち、手頃なところで破口を覗きに行く。

 人間1人がギリギリ不自由無く生活できる設備を整えた小部屋だった。目測10畳、風呂無し、トイレ無し、築数百年、最寄りの人里まで徒歩2日。家賃タダなら住んでもいいかなって感じの物件だ、いやこのご時世、屋根があるだけで満足するべきであるが。

 まぁ冗談は置いといて、見た感じ元は給湯室兼キッチンだったらしい。貯水タンクまでのパイプは修理したようで、雨水ながら蛇口をひねれば水が出る、すぐ横の電気コンロで煮沸もできる。ちょうど良く鍋でお湯が沸かされており、安全確認が済んだのち、何を思いついたのか考えたくないが悩む余地の無いフェルトが駆け寄り煮沸作業を引き継いだ。具体的に言うと、お湯を熱湯に変え始めた。


「あ、そぉーー……。ブリーチングとか、あるんだぁーー……」


 その部屋の中央に設置されたパソコン1台、複数のモニターが繋げられ施設中の監視カメラ映像を映していたようだが、モニター群は瓦礫の直撃により全滅している。デスクの下にあった本体は難を逃れたようで、そちらにはクロが取り付きごそごそやり始める。じきハードディスクの中身がご開帳されるだろう。




 それはそれとして




「来たわよ」


「ふひひ…そうかそうか、じゃあ愛し合おうか」


 右手人差し指がサブマシンガンのトリガーにかかろうとするのを必死にこらえつつ床で転がる男を見る。

 明日食べるものにも困るだろう雪山でよくそんな肥えられたと称賛すべきメタボ体型の男性だ、腹はぶよぶよ、シャツはパツパツ、しかし足や腕に関しては脂肪の下にそれなりの筋肉があるようで、たぶん所謂"動けるデブ"。ちらりと横を見れば時代遅れながらよく整備された軍用ライフルがあり、これで狩猟をしていたと思われる。


「HD内にパスワードらしきものなーし」


「じゃ、教えて」


「えぇーそれは約束と違うでござるよぉ? 渾身の迷路も遊んでくれないしぃ」


 約束なんざしてないだろうが、つーかこの状況でその余裕はなんだ。

 メタボ男は転がったまま抵抗の様子を見せない、かといって屈服もせず、ただちょいちょいとベッドの方を指差すのみ。


「…………」


「オフフいい顔!」


 うん無理、いろいろ無理。


「うぅん仕方ないなぁ、でも僕は簡単には言わないから」


 しかし


「吐かせたいなら拷問でもなんでもするんだね!」


 それは駄目だそれは駄目だマジで駄目だ


「今すぐ取り消しなさい!!」


「けひゃひゃどうしたどうしたやってみろよぉ〜」


 道徳的な話をしているのではない、お前の背後で急に上機嫌になった幼女の事を言っているのだ。ものすごい勢いで湯気出してる鍋にカップを突っ込んですぐに上げ、満面の笑みで(ゴジラのテーマを伴いつつ)背後に立ち、代わりにヒナが反転。


「ほれほれほれほれ〜、ほ……」


「お湯加減どうです、かぁーーーー!」




 以下略

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