「こういうのはティーとかにやらせりゃいいんですよ」
『あくまで3人一緒がいいんだね……わかった、わかった! 正直まったく好みじゃないけど僕も男だ! ゴールまで辿り着けたらまとめて相手』
スピーカーに4.6mm弾が撃ち込まれた。学校などによくある壁設置タイプのそれに30発くらいだろうか、なんであれ必要最低限かつスマートなクリアを好むフェルトが単なるスピーカーに1弾倉の半分以上を消費した、跳弾は無かった。
「それで、どうすれば先に進めるのぉ?」
「あっ…こっ…この水槽に設定ぴったりの水を入れればいいらしんだ!」
少しはすっきりしたのかいつも通りのふんわり笑顔になった彼女にクロが慌てて言う。
サイズの違う複数の容器を使って規定量計量しろ、みたいな問題である。5ℓと3ℓの容器を使って4ℓ量る例題と解答が壁に記述されており、まず5ℓ容器をいっぱいにし、その水を3ℓ容器に移す。で3ℓは捨て、5ℓ容器に残った2ℓを3ℓ容器にまた移し、そしてまた5ℓ容器をいっぱいにして、1ℓしか入らない3ℓ容器がいっぱいになるまで移せば5ℓ容器に4ℓの水が残る。
通路奥の部屋に置いてあったのは10ℓと7ℓと3ℓの容器、蛇口や予備の水は無く、10ℓ容器のみに水が満たされている。秤に乗せろとかそんな凝った仕掛けはやはり無く、容器の前にカメラ1台、量ってるとこ見せろ、という事らしい。
「あ、それ知ってるよぉ、2リットルを上にぶん投げて」
「うぅーーん違う!」
バカっぽく振る舞っていても高性能CPU搭載のAI、一目見た瞬間にクロは答えまで行き着いている。10ℓ容器に手を伸ばして今にも解き出すところだったが、これ少し待ったら楽しい事になると確信したらしい、手を引っ込めた。
ちなみにフェルトのやり方で例題を解くと、
5ℓ容器に満タン入れる
5ℓ容器から3ℓ容器に移す
3ℓ容器の水全部捨てる
5ℓ容器に残った2ℓを空にぶん投げる
5ℓ容器に満タン入れる
5ℓ容器→3ℓ容器に3ℓ移す
空から降ってくる2ℓを受け止めると5ℓ容器に4ℓ残る
「5リットルになれば正解だよ、ヒナは解ける?」
「えー……じゃあ中と小いっぱいにして」
「7リットルと3リットルになった」
「大に移して……」
「10リットルに戻ったね」
「あれ……」
「ヒナ?」
「あれぇ?」
「え、ヒナ? 話は聞いてたけどそこまでの逸材だったのかい?」
ここで正解を述べておくとだ。
10ℓ容器から7ℓ容器に移す(3:7:0)
7ℓ容器から3ℓ容器に移す(3:4:3)
3ℓ容器から10ℓ容器に移す(6:4:0)
7ℓ容器から3ℓ容器に移す(6:1:3)
3ℓ容器から10ℓ容器に移す(9:1:0)
7ℓ容器から3ℓ容器に移す(9:0:1)
10ℓ容器から7ℓ容器に移す(2:7:1)
7ℓ容器から3ℓ容器に移す(2:5:3)
これで完了、7ℓ容器の中に5ℓの水ができた。
「メルは?」
『今マクロ作ってる』
「はいボツ!」
『つまり10リットルか3リットルの容器が残り2リットルしか入らない状況を作ればいいんでしょう?』
「その通り! シオン頭いい! さすが隊長!」
『3リットル容器にだいたい1リットル入れて』
「でも算数でだいたいはダメ!!」
『であれば2リットルペットボトルを7リットル容器に沈めて』
「別の道具持ってくるのもダメ!!!!」
で、
取れ高十分、最後に鈴蘭にも聞いてみたがそもそも問題の趣旨を理解してくれなかったため、素直にクロが水の移動を始める。最初は楽しげだったものの、このトンチキカルテットに負けまくり追い払われ続けた4脚三角錐時代を思い出してしまったらしく、5ℓができあがる頃にはなんか沈黙してしまっていた。「戦力では勝ってたもんね……頭で負けたんだよね……頭で……」などと呟くクロに代わってヒナが容器をカメラの前へ、ロックされていた扉の開く音がした。
先は……また通路。
「朗報よ、まだ終わってない」
「はははははヒナちゃんは面白いこと言うなーーあはははははははは」
オーケー余計な事言うのやめよう、足だけ動かそう。