「姐さんはガチなモテ方するからモテるねなんて言われないし」
「ヒナっていつも体狙われてるの?」
「は??」
『"このバカなら最悪土下座すればいけんじゃね?"って思われてるのは確かだね』
「は????」
とかなんとか、クロとメルの会話を聞くと同時に管制室の奥へ足を踏み入れた。サブマシンガンのアイアンサイト越しに見えてきたのはまず通路、左右に部屋などは無く、少し先に階段のみがある。トラップは無いように見えるものの、車が壁を突き破ってくるかもしれないし、警戒しながら階段まで進む。
ただし、喋りまくりながら。
『でもかなり強引な口説き方したアンちゃんが手首を複雑骨折して以降、メカニックねーちゃんず以外からストレートに愛を囁かれたことはないよ』
「待ってなんでアンタが私の事を説明すんの」
『そりゃあこれまで何度も年頃の男性から相談受けてるし? 勇気を振り絞ったさりげないアプローチが無為になる瞬間も見まくってるし?』
「えぇ……」
『ハハ、気付いてくれなきゃ形無しですな。駄目でしょ先生少しはそういう可能性を考慮しないと』
『姐さんがそれ言うの?』
『え?』
『本部行く時に必ず家の前通ってく爽やかお兄さんがなんで遠回りし続けてたか考えたことないの?』
『え??』
『テストの時にアイスくれた人も別に鈴蘭目当てじゃないよ?』
『……え???』
『ていうか姐さんはまずアラドくんの処遇を』
以下略
通路を進む間、ここぞとばかりに愚痴を垂れ流すメルに苦笑するフェルトがやや先行、階段の1段目を踏む。踊り場の無い(折り返さない)ストレートな階段で、真下まで行けばもう上階が見えており、クロに後方警戒させつつフェルトと一緒にサブマシンガンを上へ向けた。
「あ、これ……」
ロープが1本、垂れ下がっているのが見えた。階段の先に置かれる"何か"と繋げられたもののようで、たるみを持たせて天井の滑車に向かい、反転、奥の方へ消えていく。
『1人で来いって言ったよねボクぅぅ!?』
そのロープがいきなり引かれる、
滑車を介して"何か"が階段へ落ちる、
ヒナとフェルトが同時にトリガープル。
「古典的ィィ!!」
ワインだかウイスキーだかを熟成していたと思しき巨大な樽である、ただの樽である。階段を転げ落ちて勢いがつく前に左右両端のタガを4.6mm弾が破壊、脱落させ、その時点で液体を噴出し始めていたが無視、クロが8.6mm弾を掃射して中央付近のタガも壊す。
「だりゃっっ……ばっ……!」
で、衝突直前にヒナが全力で蹴り飛ばしたところ、樽は崩壊、詰まっていた雨水だか何かを撒き散らした。
「うわぁぁぁぁぃ!」
難を逃れたのは距離があったクロのみ、蹴り飛ばしたヒナは当然、すぐ近くのフェルトも綺麗とはとても言えない生水を頭からぶっかけられた。樽の残骸がカラカラと鳴る中、両者沈黙。先に動いたのはヒナで、既に危険域にあったフェルトのバロメーターがどうなったか確認するべく視線を横へ。
「…………………………殺す」
うーんド直球。
「あのさぁ……」
『説明不要だ、クロのカメラ映像は私も見てる』
ボブカットの髪から滴る水滴を眺めつつ、状況報告をしようとしたら通信口にはアトラが出た。アンドロイド3人衆はそれぞれデータリンクしているらしい、つまり視覚を完全に共有していて、クロが見たものはアトラも見たことになるのだ。だからだろう、声が震えてやがる。
「シオンは……」
『ガラにもないというか似合わないというかもはや気持ち悪い顔してうずくまってる、でそれに鈴蘭が目輝かせてまとわりついてる』
『私達もまとわりつこ……?』
『離れろ。……離れろ!!』
とりあえず、とぼとぼした感じで階段を上り終えた。今使われた仕掛けは電動だったが、スイッチ切り替えで作動する単純なもので、奴は十数秒前までここにいた筈。
『ちょ……なーに何何!? パワフルすぎるよコートちゃん!?』
やっぱり、息切れしてる、作動させてから走って逃げたのだ。
この放送、言い返したら奴に聞こえるのだろうか、命運が完全に尽きた事を伝えたいのだが。
『とにかくこれ以上! 3人で進むのはいけないからね! パスワード教えないよ! 二度と外出さないよ!』
まぁいい、無視だ無視。
「先、進む」
『ああ、その拷問姫とやらをそのままの状態で連れてくるのだけはするな』
他人事に言いおって。