やや騒がしいスタンドバイミー
「降ってきた、危なかったな」
探索結果、入っていけるのは施設全体の半分以下というのが判明した。 人が住み着いているのはホーム付近のみ、南北に伸びる線路はシャッターが道を塞ぐ。上層の円形通路も等間隔に並ぶ扉のすべてが開かないのを見て早々に切り上げた。扉もシャッターも電子ロックで、開放するには電力を復旧させなければならない、それか大量の爆薬だ。
諦めて地上へ戻り、地下探索の間に偵察ドローンが集めた情報を整理する。内部侵入ができそうな箇所がひとつ、地表に露出したシャッターがふたつ。
それととある一帯で放射線の反応、ユウヤにとっては悪い知らせだが、アステルにとっては良い知らせである、原子炉の存在を示唆する情報に他ならない。見つけた入口から発電室へ向かい、電力を復旧、すべての扉を開ける。内部は広い方がいい、色々予想すると。
それで、現在その新しく見つけた入口の前、ポツポツ降ってきた雨を避けようとバイクを中へ押し入れる。本当に間一髪だった、葉を弾く雨は大粒で激しく、少し経てば一面びしょ濡れになるだろう、このツルツルタイヤで濡れた路面など考えたくない。
「アナタはここで待ってて、この先、生物にはすごく危険だから」
「大丈夫なのか? ここで棒立ちしてても」
「うん」
大きな横穴、破口である、地面にたくさんの足跡がある。どっからどう見ても例のビーストで、サイズは20mに届くかもしれない。他にも体毛やら爪痕やら痕跡だらけ、ここは巣穴なのだろう。放射線もあるし彼を同行させる訳にはいかない、さりとて1人にしてもそれはそれで危ない、この雨では退避もできない。
そこでこれだ。
「危なくなったら無闇に動かないで、実のところあんまり賢くないから、戦闘機動に巻き込まれて踏み潰されるかも」
「おおぉ……」
まず4脚鏡餅、人類側からはグリムリーパーと呼ばれる機体が現れ、横穴の前に立ち塞がった。続けてバトルドール複数、グリムリーパーの周りで防御姿勢を取る。ハンドレールガンも持たせてあるし、巨大化したクマ程度なら追い払えるだろう。できればもう少し欲しかったが、現時点で製造を終えたのはこれだけだ。
「スコードロン1先行、スクアッド1後方警戒、スクアッド2待機」
彼から目を離し、ポケットに入れていたドローンを放る。その横をワンコが4匹追い抜いていき、もう4匹がアステルを囲んで、後方にグリムリーパーの子分がつく。エコーロケーションとナイトビジョンを併用しつつゆっくり奥へ進み、動体反応が無いのを確認してから速度を上げた。
行き先は大丈夫だ、放射線の濃い方へ進めばいい。といっても内部は線路が敷かれた一本道のトンネルである、迷いたくても迷えない。
「……そういえば、名前」
音波を出すのと足を動かす以外にCPUを使う動作が無いので、アステルを護衛するワンコに目を向けてみる。形式番号はuM21であるが、人類側のコードネームみたいなのを付けてもいいかもしれない。暇つぶしにはいいだろう、必要かどうかは別として。
「…………あの、鈴蘭?」
『あ…すてる……?』
名前決めようと思い立ってから他者に助けを求めるまでこの間1秒、このボディの演算能力は優秀だ。通信を繋げた鈴蘭はなんか疲れきっていたものの、理由はたぶん知っている、とてもくだらない話だろう、いや当人達には死活問題なのだろうが。
「今、話せる?」
『大丈夫ですよ……たまに吐き気催すかもしれないけど……』
味はいいんじゃなかったのか、いったい何を食べたんだ。
「犬の名前が欲しいんだけど」
『いぬ?』
「特定の1匹じゃなくて、同じ種別の総称を決めなきゃいけなくて」
『しば』
やっぱり早い。
「え?」
『柴』
「シヴァ?」
『そう、柴犬の柴、気に入りません?』
「シヴァ犬……強そう……」
『?』
とにかく自分でひねり出すよりはマシだろう、このワンコはシヴァと呼ぼう。なんか勘違いがあるようなないような気もするけど、まぁいい。
「もう一個いい?」
『もちろん』
「えっと……大きな虫…?」
『む、うぷぅ……!!』
虫か、虫食べたのか。
『メルぅ……』
『どした?』
『虫の名前……』
『ヨロイモグ』
『それ以外で!!!!』
とかなんとか、タイミングが悪かったようで、今回ばかりは即答しなかった。向こうで相談している間にこちらは駅のホームまで辿り着いてしまい、発電室の案内標識があるのを見てよじ登る。
『ビルマニクス』
「ん、良さそう、ごめんね」
『いえ、これくらいならいくらでも』
よし、決定だ、グリムリーパーの子分はビルマニクス、異論は無い。急いで発電機を直そう、通路の状態からしてそう劣化はしていないだろうし。
『……アステル、エビのクリームソテー食べ』
「それエビじゃないんだよね????」