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崩壊世界紀行

 1時間後




「名前、聞いてなかったけど」


「あ、ごめんな、ユウヤっていうんだ」


 その名前は極東のとある列島で生まれた者の特徴だ、アステルが"彼女"に付けた名も、咄嗟だったが同じ出処の筈である。地球の反対側とまではいかないものの相当な距離がある、乗り物がこんなボロボロになるのも仕方ない。

 必須なのはキャブレターのみだが、ヴァニタスの助言によりレギュレーターと燃料ポンプもサービス、まもなく交換作業を終えようとしている。燃料ポンプは名前の通りタンクからガソリンを引き上げる部品、レギュレーターは発電機が余剰に作った電気を熱に変える部品だ。壊れやすい、というよりは共に壊れたら連鎖して色々まずい事になる箇所となる。


「どうしてこんな大陸の西の方まで」


「それは……ああっ!」


 交換を終え、後は分解した部分を戻すだけ、という所で投げた質問。至極当然の流れではあったが、明らかに彼は挙動を乱し、相棒を倒しかけた。45度ほど傾いたあたりでアステルがハンドルを片手でキャッチ、ぐいんと引き戻す。


「移動し続けるだけでも相当な負担のはず」


「おっ……えぇ……」


「そこまでの理由?」


 200kgに届くかという車体を易々支えたアステルにユウヤというらしい少年は唖然として、それをじっと見つめると慌ててスタンドを戻した。


「探さないといけない奴がいる」


 作業を再開しつつも顔はやや暗い、好きで旅を始めた訳ではなく、そしてその訳は話しにくい事らしい、少なくともアステルに対しては。


「3年前までは大陸の隅の方に住んでたんだ、両親は海の向こうの出身だけど。昔の大都市跡地に作った町でさ、危険は多かったけど、土地は肥えてたし見つかりさえしなければ不自由はなかったな」


 危険、というのはAI兵器の事だ、話し相手が話し相手なので明言を避けたのだと思われる。続きを聞きながら戦術ネットワークにアクセス、大陸東側の戦力配分を見てみた。確かにこの辺りよりは多い、10年ほど前までまとまった人間の勢力があった事が原因のようで、付近で言えば北約1000km先、クレムリンと呼ぶ事になった集団の拠点周りとほぼ等しい戦力密度だ。既にその勢力は壊滅を見たが、再起を懸念して増員体制が続いているとのこと。


 まぁ、どちらにせよバンカーとカチ合ったら一瞬で消し飛ぶ程度の規模ではあるが、今しているのはあんなイレギュラーの話ではない。


「わざわざ言う事じゃないだろうけど、俺達は常に隠れ続けなきゃならないんだ、目立つ場所に家は建てられないし、火を起こすにも気を使う、見つかったらその…まずい事になるからな。逆に言えばそれだけ守ってれば生きていられた、食べるものもたくさんあったし」


 修理が終わった、彼は立ち上がりイグニッションキーを回す。若干妙な音を出すセルモーターがエンジンを始動させ、バイクはひとまず息を吹き返した。


「でもある日、1人の子供がでっけぇ電波塔を再起動して電波を撒き散らして、町は消えてなくなった」


「あぁ……」


「それで、西の方に逃げたそいつがまだ生きてるって話聞いてからどうにも許せなくなって、気付いたらこんな所まで」


「それは恨む相手を間違えてる……」


「わかってる、でも……それしかできないんだ、俺にあんた達と戦う力はないよ」


 同じく会話も終了、何度かスロットルを吹かして状態確認を行うユウヤを無言でしばらく見つめ、その後、なんとなく目を伏せる。


「いけるぞ。後ろに乗って、集落に行くんだろ?」


「そうだけど、いいの?」


「助けてもらった分は返さないとな、殺しに行く訳じゃないんだろ?」


「まぁ」


 やりたいのは位置の確定と状況調査だ、場合によっては慌てんぼうのサンタクロースごっこ(物資支援)まである。そこには補給所になって欲しいのだ、推定1ヶ月以内に山越えしてくるだろう集団との間で戦闘を行うつもりなのだが、諸事情あって万全な状態の相手と戦わなくてはならない。

 小型ドローンを回収、コートのポケットへ入れ、ゴーグルを着けバイクに乗る彼の後ろ、タンデムシートに腰掛ける。跨ぐのではなく横向きに座り(絶対に真似しないでください)、右手をユウヤの腰へ、左手でポニーテールを押さえる(絶対に真似(ry


「すぐそこだ、地上からじゃわからないけど、地下に広い空間があって」


 どうしても異音のするエンジンを唸らせバイクは移動を開始。

 紅葉の森を走っていく。

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