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終末会議2

『この音声記録を聴く者へ。君がこのディスクを拾い、再生する事ができたのなら、人類は未だ絶滅していない筈……』


 最後まで聴き終えた音声データが最初からリピートされる、デスクトップパソコンに繋がるマウスをカチカチやって止めたティー、今いる旧陸軍施設B1の司令室をつかつか歩いて地上へ伸びる階段の前へ。そこで足をやや広げ前屈みになり、両手は口の横、息を大きく吸い込む。


「遠いわボケェェェェーーーーッ!!!!」


 ボケーーボケーーボケーー、と室内に叫びが反響する、続く大量の文句も合わせて天国のジョシュアさんに届けばいいのだが。とりあえず出入口で外を監視していたヒナが驚いた様子でわたわた降りてきたが、構わず彼女は叫び続ける。

 なんでこんな場所に自宅建てた、開発担当なら片道30分のとこ住めや、つーか遠いどころじゃねえ間に5000m級の山脈あんぞこれお前の通勤路か毎日山越えしてたのかバーカバーカハゲ散らかしやがれ、というシオンみたいなのがティーの言い分。

 マツタケ狩りのついでに、いやマツタケ狩りがついでだったか、偶然見つけた金庫から回収した超分厚い冊子、管理者のソースコード全記述らしいそれに挟まってた地図によると管理者サーバーはここから直線距離で3000kmくらい、間には巨大な山脈が横たわる。山脈に関しては北連どもがやってこれた以上トンネルなり何なりあるだろうが、バンカーが所有する車両の航続距離は500km、ヘリコプターの行動半径は1000km、行ったっきりで考えても2000kmである。3000kmは固定翼機の領域だ、そんなものはどこにもない。しかも戻ってこなければならないのだ、そんな北の果てに永住なんぞ考えたくもない。


「そもそも、その管理者とやらを止めれば戦争は終わるんすか?」


「人類を目の敵にする理由がなくなるのは確かだな、AIがお前達を攻撃するのは管理者からの命令が100パーセントの理由なのだから、管理者を破壊すれば率先して襲ってくる事はなくなると思うぞ」


「壊さず乗っ取ってすべてのAIに自爆命令送信とかは?」


「こんなバケモノに正面からハッキング仕掛けるの? 接続した瞬間に乗っ取り返されるし防御姿勢取られてありとあらゆる敵が集まってくるよ? ジョシュアっちの言う通り壊すのが一番だって、物理的に」


「ジョシュアっちはやめろ、偉い先生だったんだぞ一応たぶん」


 その巨大冊子の内容を理解できるアトラとメル、部屋の奥でそれのスキャン作業(アトラとタブレットを有線接続→アトラが読む→タブレットに打ち込み)をしていたが、シオンが質問を飛ばせば一時中断して返答する。さらに奥ではティオがディスク再生に使ったものとは別のパソコンと接続し、USBメモリやチップの復元を試みている。


「……ま、それもそうだし、管理者がいなくなればAIにも自由意志ってやつが生まれると思うんだよね。彼らも人間と同様に考えて行動できる事がほぼ確定的な今、問答無用に自爆させるっていうのもどうなんだろう?」


「生存権ってやつか」


「私らが"生きて"いると仮定するならな」


 言いたい事を言い終え、ふむ、とシオンが漏らせば2人は作業へ戻った。シオンもテーブル上の地図に目を戻し、移動方法の問題はひとまず棚上げにして、管理者への直行ルートからやや外れた位置にあるもうひとつの重要地点に注意を移す。


「ティー、このパスワードがあるかもしれないっつー場所の情報は?」


「あぁ……捕虜を尋問したらすぐに得られた、彼らの本拠地だ。バンカーと同じく城壁の内側に立てこもって町を築いてるらしい。だからまぁ北連、えーと…なんちゃら北部うんぬんの事は今後クレムリンと呼ぼう」


「なるほど……ではどうやるにしろ我々はまだ北連改めそびえ立つクソに関わらなければならねーっつー事で」


「クレムリンね」


 こちらも一通り文句を言い終えて少しはすっきりしたようだ、ティーがパソコン前まで戻ってくる。

 なお、あの遠征部隊は壊滅した、末路を見届けず撤退したので詳しくはわからないが、普段のノリでAI部隊を撃退しようとして瞬殺されたようだ。ここはバンカーの装備をフル動員してなんとか拠点維持ができる程度の激戦区である、そんな装備で大丈夫か?と言うより他は無い。


「生き延びて逃げ帰った人もいるでしょ、和解は不可能だ。忍びこむしかない、戦闘要員はまだ500人以上いるみたいだしね」


「誰が?」


「君達が」


「たまには期待を裏切れよ……っと」


 なんて、指差されたシオンが悪態をついた頃、背後で呻き声が上がった。


「はっ!」


 バネと骨組みしか残っていないソファに鉄板を乗せ、ありったけの布を敷いた簡易ベッドで寝かされていた鈴蘭である、目覚めるなり勢いよく上体を起こし、控えていたフェルトに肩を押さえられた。フリースジャケットは左袖が千切れて血まみれだったのでワンピースに着替えさせてあり、髪が若干赤いものの体は健康そのもの。彼女はまず自分の左腕を眼前まで持ってきて、ちゃんと指が5本あるのを確認すると、見るからに顔を渋らせた。


「あの……私……」


「あー……そうですね、あなたが眠っていた棺部屋からデータの回収はしておきました、それによると鈴蘭、あなたは現在6歳、血液型はOでRHー」


「はい……え? あ、はい」


「他に興味がある情報はなかったのでよく覚えていませんな、知りたいなら後で見てください、知りたいなら」


「は…はい」


 で、とりあえずという風にキョトン顔の彼女は寝かされた。あと6時間はここに留まる、外に出ているレア隊が回収できるすべてを回収したのち、まず工場へ。その後は決まっていない、この情報を有効活用するかどうかも含めて。


 だがまぁ、死にたくないならおそらくは。


「休みましょう、空前絶後の大遠征させられるかもしれんし、とにかくそれから、それからですわ」

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