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うちの娘には××癖があります  作者: 志月さら


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38.花火大会①

「茜、こっちこっち!」

「柚香ちゃん、なずなちゃん、お待たせ……!」

「全然。私たちもさっき着いたばかりだし」


 約束した時間より少しだけ早く到着すると、待ち合わせ場所にはすでに柚香となずなが立っていた。余裕を持って家を出てきたつもりだが、履き慣れない下駄で歩くのは思っていた以上に時間がかかってしまった。


「茜の浴衣かわいいね!」

「ありがとう……!」

「なずなのもだけど、自分で作ったってすごくない?」

「ちょっと大変だったかも……でも、楽しかったよ」


 ね? となずなにも問いかけると、彼女はこくこくと頷いた。

 茜が着ている薄桃色の生地に金魚柄の浴衣も、なずなの生成り色の生地に朝顔柄の浴衣も部活で作ったものだった。帯と下駄、巾着袋は浴衣に合わせて市販のものを購入した。

 浴衣を作ったといっても本格的な和装ではなく、手作り用のキットを使ったセパレートタイプのものだ。キャミワンピースの上に羽織を着て帯を結ぶだけなので着付けも一人でできた。


 試着したときには帯を結ぶのに少し苦戦したけれど、事前に動画を見ながら何度か練習したおかげで当日は綺麗に結ぶことができた。

 手作りではなく既製品だが、柚香も浴衣を着ていた。爽やかな水色を基調とした菊唐草模様の浴衣は彼女によく似合っている。下駄を履いてきている茜やなずなと違い足元は動きやすそうなスポーツサンダルだが、そんなところも柚香らしくて可愛い。


「日向さんも、浴衣めっちゃ似合ってますね!」


 茜の隣に佇む夏癸に視線を移した柚香がはしゃいだ声を上げた。なずなもこくこくと頷いている。

 シンプルな濃紺の浴衣に身を包んだ夏癸は、少し申し訳なさそうな様子で淡い笑みを浮かべた。


「お邪魔してしまってすみません。私のことはただの財布だと思ってください」


 元々は柚香となずなと三人だけで花火大会へ行くつもりだったのだが、夏癸も一緒について来ることになったのだ。――事の発端は一週間前に遡る。


***


「――花火大会ですか?」

「うん。柚香ちゃんとなずなちゃんと三人で行こうって誘われて。……だめですか?」


 夕食のあと、友達から花火大会に誘われた話を夏癸にすると、彼は考え込む素振りを見せた。

 毎年地元で行われている花火大会だが、例年混雑するので人混みが得意ではない茜はいままで一度も行きたいと言ったことがなかった。花火は一応家からでも見えるので、それで充分だと思っていた。

 小学生のときに一度だけ母と夏癸と一緒に行ったことがあるのだが、そのときに迷子になったうえにトイレに間に合わず粗相をして懲りたというのもある。


 けれど、今年は中学生最後の夏休みだ。

 せっかく部活で浴衣を作ったのだからどこかで着たいねとなずなと話していたところ、それなら花火大会に行かないかと柚香から誘われたのだった。

 柚香は中学生になってからずっとテニス部の友達と一緒に花火大会へ行っていたが、今年は真っ先に茜たちのことを誘ってくれた。去年も一昨年も一緒に行かないかと誘ってくれたのを断るのは申し訳なさもあったので、今年は行きたいという気持ちが強い。

 柚香となずなの保護者の許可は出ているので、あとは夏癸の許可が必要なだけだった。


「だめでは、ないですけど……夜ですし、人も多いですし、つい心配になってしまって。二人の親御さんは良いって言っていますか?」

「二人ともおうちの人は良いって言ってました。柚香ちゃんは毎年行ってるし、クラスの子も友達同士で行っているみたいだし……わたしも、もう、迷子になったりしないように気を付けますから!」

「そう、ですよね。もう中学三年生ですし……」


 そう言いながらも、夏癸は思案顔のままだった。

 少しの間沈黙したのち、彼は再び口を開いた。


「無粋だとはわかっているんですけど……それ、私も一緒に行ってもいいですか? 邪魔にならないようにしますので」

「えっと……二人に訊いてみます!」


 自室に置いてあるスマホを取りに行く。『花火大会、夏癸さんも一緒に行ってもいい?』とメッセージを送ると、すぐさま既読がついた。「いいよ!」「OK!」と二人からスタンプが返ってきた。


***


 ――という経緯があり、花火大会に夏癸もついてくることになったのだった。

 浴衣を着てほしいと夏癸にリクエストしたのは茜だった。せっかくなら、彼とも浴衣で並んで歩きたいという欲が出てしまった。夏癸は快く茜の頼みを聞き入れて浴衣を購入してくれた。


 四人で連れ立って会場まで歩いていく。会場となっている公園内に入ると、あちこちに屋台が並んでいた。花火が始まるまでまだかなり時間があるが、既に大勢の人が訪れている。近くにあるかき氷の屋台を見て、柚香が声を上げた。


「あ、かき氷食べたい!」

「いいよー。茜ちゃんもかき氷食べる?」

「うん、食べたいっ」


 屋台の購入列に並びながらメニュー表を眺める。いちごにメロン、抹茶、ブルーハワイ、レモンと定番の味が並んでいてどれにしようか迷ってしまう。百円値段が上がるが、練乳もトッピングしてもらえるようだ。


「私は抹茶ね」

「あたしは……メロンかブルーハワイか悩むな……茜はどうする?」

「えっと……いちごミルクにしようかな」


 抹茶味が好きななずなは決めるのが早かった。一方、迷っている様子の柚香に応えてから、ふとした不安が茜の脳裏を過った。


(全部食べると多いかな……?)


 トイレの心配もあるので、過剰な水分の摂取は控えたいところだ。そんな茜の不安を見抜いたのか、夏癸がそっと声をかけてくれた。


「よかったら半分こしましょうか? 少し量が多そうですよね」

「お願いしますっ」


 茜たちの順番が回ってきたので柚香がまとめて注文をしてくれる。彼女は結局ブルーハワイに決めたようだ。

 本当に財布を出そうとする夏癸を茜となずなで止めて、三人それぞれでお金を出して支払いを済ませたのだった。


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