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其レハ幾度目カノ十六歳  作者: 文月 竜牙
過去編 ≪其レハ克服シタ追憶片≫
15/15

伍 現在

 日差しは暖かかった。


 時代は平成、場所は東京の一般的なマンションの一室。ダイニングテーブルに伏せていたマリユスは、顔を上げて目を擦った。

 自分の居る場所がどこなのかいまいち分からない。綺麗すぎるのだ。昔住んでいた洋館でも、泥臭い戦場でもない。


「俺は……」


「起きたの? おはよう、マリユス」


 黒髪の美少女が視界に入る。外見年齢は彼と同じくらいで、左手の薬指には金色の指輪が光る。彼女の方もいつしか、相手を呼び捨てで呼ぶようになっていた。

 東條華蓮。マリユスの吸血鬼としての眷属で、人間としての妻である。唯一の家族で、永遠を共にすると誓った仲である。

 夢現だった記憶が繋がった。


「おはよう、華蓮」


 優しい笑顔を浮かべて返事をしたつもりだったが、何故か涙が一筋頬を伝った。

 懐かしい思い出が、涙腺を緩めてしまったようだった。

 親友の賢徳、父親のジャック。

 二人とも生きていた時は、今と同じくらいに輝いていたように思えた。華蓮と二人きりであることに、マリユスは一切の不満はないが、彼らも生きていたら、と思わずにはいられないのだ。


「懐かしい、夢を見たんだ……」


 ソファーに座りなおして、妻の手を握って独語する。

 夫の手を握って、華蓮は優しくいった。


「良かったら、教えてほしいな。マリユスのこと、もっと知りたいから」


「辛い話だけれど、良いか?」


 首肯を返した華蓮に対し、東條マリユスは話し始めた。

 それは過去の話だけれど、それがあったからこそ、今があるのだから。

 こんどこそ、いつまでも幸せであることを願って。


 話の最後には、少年と少女が出会って、そして現在。

 日も落ちて。

 涙は枯れて。

 けれども。


 ――幸せを掴んだのだけは間違いなかった。

 これにて過去編も完結です。

 ご愛読ありがとうございました。

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