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141話 ハローハロー、こちらハッカー01



 今日でカミラ・セレンディアは十八歳になった。


「今宵は、満月が綺麗に見えるわ」


 セレンディア領一の高層ビル、もとい領主の館の屋上庭園でカミラは月にグラスを掲げた。


 なお、中身は諸事情により葡萄ジュースである。



 ――――カミラは、転生者“ではない”。



 前文明に生きた、誰かの記憶を持った。


 何百というループを経験した。


 ただの、ただの人間である。


(時が経つのは早いものね…………)


 結婚式や、第一子の出産、赤子を抱えての学生生活――――は、今も継続中だけれど。


 語り尽くせぬ程の幸せな日々と、騒々しい、楽しい日々であったのだ。


 カミラは幸せな溜息を一つ落とすと、優しく腹部を撫で。


 それから、銀の懐中時計を大事そうに両手で持つ。



「…………そろそろ、丁度良い頃合いだわ。ふふっ、何て言おうかしら?」



 楽しそうに笑うカミラの後ろから、一人の少女――――アメリが呼びかける。


「また、何か思いついたのですかカミラ様? お腹の子に障りがでてはいけませんから、事の次第によっては若旦那様に言いつけますよ」


「あらアメリ、シンシアも連れてきてくれたの?」


「はい、カミラ様のお姿が見えないとぐずっていましたので。此方に来る途中ですぐに寝ちゃいましたけど


 カミラはアメリから、齢一歳の子供。


 ユリウスとの第一子、シンシアを受け取る。


 髪はカミラと同じ水色で、顔はユリウス似の、カミラ的にはこの世の至宝とも断言できる愛娘。


「ふふっ、毎日見てるのに可愛いわ。親馬鹿になってしまいそう」


「いやぁ、あんどろいど?とかいう機械兵士を何十体と護衛に付けている時点で、十分親バカなのでは?」


「何言っているのアメリ、あと一個師団は欲しいわよ。ねーシンシアちゃん」


(そんな事言っていると、大きくなった時に過保護だって嫌われますよ)


 アメリは言葉には出さなかった。


 それは後にでも考えればいい事であり、何より。


 幼い我が子を抱き抱え、慈しむ母親の姿からしてみれば、無粋というものだ。


「よしよし…………ああ、そういえばユリウスはどうしたの? もうパーティは終わったのでしょう?」


「今は、酔っぱらった旦那様に絡まれていますよ」


「もう、パパ様ったらしょうがないのだから」


 カミラはクスクスと笑いながら、月と眺める。


「思えば、色々な事があったわね」


「どの事でしょうか? 月からの使者、空の新大陸、海底からの侵略者…………」


 指折り数えるアメリに、カミラは呆れ顔を向ける。


「どれも戦争にならずに終わったじゃない。もっと違う事があったでしょう」


「ああ、カミラ様が赤子抱えて学生生活を続行した事で発生した、空前の学生婚&学生出産ブームですね」


「その時は、授業にならなくて大変だったわねぇ…………」


「終わったみたいに言ってますけど、ブームは続いている上に、カミラ様は第二子を妊娠中ですし、何より関係各所に働きかけて、育児と学業を両立する体制を整えたのはわたしとセーラなんですけど?」


 シンシアが寝ているので、大きな声ではないが。


 しかしてはっきりと言うアメリに、カミラは視線を泳がせる。


「そーれーにー。わたしまだ、婚約者を紹介してもらってないのですけど。その辺りはどうなっているんです?」


 不満気なアメリに、カミラは笑う。


「ふふっ、貴女も往生際が悪いわねぇ…………。月の王国のイケメン第三王子から婿入りの打診が来ているでしょうに」


「はぁ…………? あのドグサレ陰険眼鏡ですか? そんなの、とっとと断っちゃってくださいよ」


 言葉では脈ナシに思えるが、その実、満更でもなさそうに頬を赤く染めるあたり、心配する事はなさそうだろう。


(しかし、劣化品とはいえ他にもユグドラシルがあって、それぞれが国を作っていたなんて…………)


 カミラ達のユグドラシルとは違って、洗脳装置などの物騒な機能はオミットされていたとはいえ。


 そのどれもが『聖女の為に鐘は鳴る』の会社が作った別ゲームの世界観のシステムが流用されているあたり。


(これ絶対、開発者の中に乙女ゲー好きが居たわよねぇ…………)


「きっと来年辺りには、金星や火星から、新たな国の使者が来ても不思議ではないわね」


「…………その、もっと仕事が増えそうな事を言わないでくださいよカミラ様ぁ」


 情けない声をだしたアメリに、カミラは冗談よ、と笑う。


「そうそう、話は戻るのだけれど。後で用意して欲しい物があるのよ」


「さっき言っていた、“丁度良い頃合い”ってやつですね。今度は何をするんです?」


 やや座った目を向けるアメリに、カミラは魔法で銀の懐中時計。


 即ち、タイムマシンを宙に浮かして見せる。


「私もね、前例に習おうと思うのよ」


「と、言いますと?」


「過去の“私”に、――――恐らく、シーダ0が行った世界の“私”に、エールを送ろうとね」


 その言葉に、アメリは得心が行った。


 しかし同時に、疑問も浮上する。


「何故今なのですか? あれから一年以上経っていますが…………?」


「ふふっ、時を超えた通信よ。こちらの経過時間は関係ないわ。それに…………」


「それに?」


 カミラは複雑な思いでその時計を見た。


 かつて、繰り返しを強要した元凶。


 今に続く、幸せをもたらした福音。


 シーダ0を平行時間軸に送った事、そしてその前の全てのシーダとユリウスの召喚は、カミラのタイムマシンに過大な負荷をかけ、その機能を停止させるという結果に終わった。


 事が発覚したのは後日で、その時はその時で苦労したのだが兎も角。


 この十八の誕生日に、漸く自動修復が終了し、使用可能となったのだ。


「簡単に言うと、一時的に壊れていたのが直ったから、使ってみようかなって」


「それはまた、エラく単純な理由ですねぇ…………。で、何時するんです? わたしも昔のカミラ様と会話したいです」


 はい、はいっ! と好奇心に溢れた様子のアメリに、カミラもテンションが上がる。


「じゃあ、今から少し、試してみましょうか。本番にはユリウスも呼ぶとして、練習という事で」


「やりましょう、ええ、やりましょうカミラ様!」


 銀時計にタキオン粒子を注入しながら、カミラとアメリはワクワク顔でその時を待つ。



 ――――どうか、幸せになります様に。



 ――――善き結末が、訪れます様に。



 カミラは祈る、願う。



 今度は貴女達の番だと。



 そして、銀の懐中時計は光り輝き、昔のカミラの像を結ぶ。


 間が良かったのか、どうやら隣にはアメリの姿も。


 カミラは、シンシア顔が見えるように抱え方を変えると、戸惑う昔のカミラ達に向かって第一声を発した。



「ハローハロー、――――――――」





 乙女ゲーに転成したらモブだったけど、ループの末に魔王を簒奪したので、今度は隠し攻略対象を堕として幸せになります!(完)


これにて完結です。

宜しければ、次の作品でお会いしましょう。


面白いと感じて頂いたなら、ブクマや評価をお願いします。

ではでは。


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