五寸釘クルミ
五寸釘レオは、氏家の屋敷から母である五寸釘クルミの目の前に降りた。通常の民家より屋根が高く、ほぼ3階のベランダから降りたのと同じ高さがあった。
意識を足の筋肉と全身の骨に集中し、衝撃は吸収した。体への負担を最小限にするため、地面にひざまずく姿になった。
「レオ? あなた、何をやっているの?」
クルミは体も小さく、声が高い。実年齢は高齢者でありながら、知らない人間はレオの妹と勘違いするほど、外見は幼い。巫女衣装がよく似合った。中身が別物であることは、レオは身を持って知っていた。
レオが地面に降りる前から、レオの存在を把握して氏家の使用人たちは動きだしていた。もともと、クルミを出迎えるために居並んでいたスーツ姿の男達だった。鍛えられた人間たちではない。暴れたくはなかった。レオは、地面にうずくまったまま口だけを動かした。
「母さん、何をしようとしているんだ? レイカのこと、聞いたよ。今更、どうしようというんだ?」
氏家の使用人たちは、クルミが手で制した。クルミのことを『母さん』と呼び、クルミが受け入れた事実が、使用人たちの動きを奪っていた。レオの顔を知っている者もいた。レイカとレオが小学生だった頃までは、毎日のように遊びに来ていたのだ。
「レオ、あなたには関係ないことよ。時間が惜しいわ。納得いかないなら、力で示しなさい」
言うと、クルミはレオの存在を無視するかのように歩き始めた。レオがうずくまる場所を避ける。だが、遠く離れたわけではない。手を伸ばせば届く。
レオは手を伸ばした。
巫女特有の赤い袴に包まれた、クルミの足を掴む。指に力を込めれば、人間の足なら骨ごと握り潰すことも可能だ。相手がレオと同じ半人間であっても、体の構造や強度は人間と変わらない。破壊するのは難しくない。
だが、すべては相手が対処しないという前提でのことだった。
骨の折れる音がした。レオの腕の骨が折れた。
レオは左腕を抑えて地面に倒れ、わらじの感触を頬で受けた。




