008 インターネット?
[地球、ソ・ウンジェ、二十二歳]
「さて、今日は……一月二十一日ですね。ソ・ウンジェさん?」
「はい、先生」
「今日の気分はどうですか?」
「まあ、大丈夫です。まだ力が入りません」
朝の回診をする教授の後ろに、研修医らしい医師が何人も続いていた。二年近く意識のなかった患者が目覚めた珍しい例だけに、誰もが興味を示すのも、当然かもしれなかった。
何人もの視線を受け、ウンジェは胃が痛むように感じた。後ろの医師たちは、彼女の答えをすべて書き留める勢いだった。
「力が……入らないのは当然ですが、基本検査の結果では、二年も寝たきりだった割に筋肉の状態は悪くありません。当院のケアプログラムは、なかなか優秀ですからね」
「そうですか? こんなに体が弱く感じるのは、ちょっと変なんですけど……」
ウンジェは布団の外へ手を上げ、握ったり開いたりした。指はもう、思ったとおりによく動いた。だが力を入れると、当然ついてくるはずの何かが欠けている気がした。
担当教授は少し首をかしげ、カルテを見直した。
「昨日はトイレまで歩いたそうですね?」
「はい」
「めまいや息切れはありませんでしたか?」
「足に少し力が入らないだけでした。看護師さんがずっと支えてくれたので、転びませんでした」
「しばらくは一人で動かないでください。大丈夫だと思っても、転ぶことがありますから」
教授の視線は、ますますカルテを射抜くようになった。
「少しずつよくなるでしょう。今日は午後にCTを撮ります。明日までに残りの検査を終えたら、本格的にリハビリを始めます」
後ろを振り返り、誰かに尋ねた。
「ご家族には連絡がつきましたか?」
「はい、教授。ソ・ウンジェさんの叔父様が保護者として登録されていたので、ご連絡しました。今日は難しく、明日お越しになるそうです」
「そうですか。よかったですね」
叔父さん。
その言葉で、ウンジェの頭に男の顔が浮かんだ。初めて聞く呼び方でも、初めて見る顔でもなかった。だが、会ったら何を話せばいいのかは、わからなかった。
返答を聞いた教授は、ベッドに座るウンジェを見た。
「認知機能の検査には大きな異常はないようですが、以前のことは全部覚えていますか?」
「はい、全部覚えています」
「事故の前のことも?」
「はい」
その答えは嘘ではなかった。問題は、医師が聞いていない記憶まで、あまりにもたくさん思い出せることだった。大海原の真ん中で三つ首のシーサーペントと戦った記憶や、雪山で五つ首のドラゴンと戦った記憶まで、説明する必要はないだろう。
「そうですか、わかりました。今日はここまでにしましょう。午後の検査も、よろしくお願いします」
回診が終わると、医師の一団が教授に続いて、ぞろぞろ病室を出た。教授は出るときも、不思議そうにカルテを見ていた。遠ざかる会話が聞こえた。
「体組成の検査をもう一度。二年間寝たきりの患者で、この体重に対してこの骨格筋量はおかしくないか? 水分状態も確認して」
「はい、教授」
「最初に目覚めたときの評価記録も、もう一度持ってきて」
最後に残った看護師がウンジェを見た。彼女は疲れた様子で答えた。
「少し眠りたいので、一人にしてください」
「もちろんです。電気を消しましょうか?」
「はい、ありがとうございます」
全員がいなくなると、部屋の隅のどこかからナビがのそのそ出てきた。すぐにベッドへ飛び乗り、ウンジェの顔色を調べた。
「確かに顔色はよくないけど、二年も寝ていた人にしては、健康すぎるように見えるんじゃないかな?」
「健康? 全然力が入らないんだけど?」
「初日は手もろくに上げられなかった。一昨日は起きて座ったし、昨日は歩いてトイレへ行ったよね?」
「え、歩いてトイレに行くのも変なの?」
「うーん……僕も負傷者をたくさん見たわけじゃないから断言できないけど、人間の体は筋肉を使わなければ弱くなるのが当然で……」
「そんなことある? 増えはしなくても、維持はされるでしょ」
ナビはウンジェの腕を見た。彼女もつられて見た。
マジアンの腕より細かったが、どこがどうおかしいのかはわからなかった。
「さっきの医師も、おかしいと言っていたよ」
「病院でよくケアしてくれたって言ってたじゃん」
「そのあと言ったことは聞かなかった?」
「聞いたよ。測り間違えたんでしょ」
ウンジェはベッド脇の水のボトルを取り、ふたを開けた。ナビはしばらくその手を見て、口を閉じた。実際、今は数日前とは比べものにならないほど、いい状況だった。
考え込んでいたナビが、再び口を開いた。
「まあ、まずいい知らせがある。アカシックレコードへの接続が非常に危険なので、別の方法を探し続けていた。この世界には、これまでどの世界でも見なかった規模の通信ネットワークがある。魔法なしでも、長距離通信がかなり簡単にできるんだ」
「長距離通信?」
「それどころじゃない。ここの人間は独自のデータベースを作り、特定のプロトコルでデータをやり取りできる。それをアップロードし、拡散し、共有し、ダウンロードする端末まで、すでに開発しているんだよ!」
「な……何の話? 何それ?」
ナビはベッドの上で姿勢を正した。尻尾の先が少しずつ動き始めた。
「名前までかっこいい! インターネットというものがあるんだ。そこには大量のデータが共有されていて、それをもとに地球について多くの情報が得られる。驚くほど高解像度の、世界全体の地図や座標データまで共有されている!」
「冗談でしょ? そんなの、スマホでGoogleマップを検索すれば出てくるに決まってるじゃん」
「何?」
ナビは口を開けてウンジェを見た。魔法なしで通信プロトコルを設定するために、どれほど苦労したと思っているのか。なのにウンジェは、すでにインターネットとスマートフォンを知っているようだった。
「君……これを知っていたの?」
「うーん……どうしてかわかんないけど、知ってる。ただ、仕組みとかは全然知らないし……ここでは、かなり常識的な知識なんじゃない?」
「じゃあ、どうして言わなかった?」
「聞かれてもないこと、どうやって教えるの?」
「知らないことを、どうやって聞くんだ!」
「あなたが何を知らないか、どうやってわかるのよ」
ナビの尻尾が止まった。
ウンジェは無意識にベッド脇を探った。スマホという言葉を口にして、習慣で手が伸びたのだった。水のボトルとティッシュ以外、何もなかった。
「あたしのスマホ、どこだろ?」
「僕が知るわけないだろう」
「そっか。事故のとき壊れたのかな」
言ってから、ウンジェは少し手を止めた。マジアンにスマホがあったことなどない。それなのに、今はないと不便だった。
ナビの声がまた聞こえた。
「ふむ……地球の常識に関しては、ソ・ウンジェのほうが一枚上手ということかな?」
真剣な顔を見て、ウンジェは首をかしげた。
「整理しよう。とにかく、あなたがあれこれ、いろんな努力をした結果、インターネットが使えるようになったんだよね?」
「もちろん。僕はもともと、アカシックレコードへ接続する通信プロトコルを持っていた。その設定を少し変えて、地球のインターネットが使えるようになったんだ」
「……格安スマホなら、月五千ウォンで済むんじゃないの?」
「五千ウォン?」
「たぶん……キャンペーンなら無料のもあるんじゃない?」
「五千ウォンって……どれくらい?」
「果物でいうなら、リンゴ二個くらい?」
「僕の死ぬほどの苦労が、そんなに安いのか!」
ナビの叫びが外へ漏れるのを恐れ、ウンジェは慌てて前足をつかんだ。
「ちょっと、静かにして。人が来るよ」
「僕は何日も……」
「五千ウォンで怒ってる猫が見つかったら、また魔法を使わなきゃいけないでしょ」
その言葉にナビは黙った。前足を離されると、ベッドの上にどさりと座り込んだ。
「ああ、急にやる気が消えた」
「いや、でもよくやったよ。あたし、今スマホもないし。あなただけでもネットを使えるなら、いいじゃん」
「全然慰めにならないね」
「そんなにがっかりしないで。魔法の力さえ取り戻せば、あなたは最高の猫なんだから。取り戻さなくても、かわいいから存在価値は確かだよ」
「くそっ。でも、それが問題なんだ」
「何が? 魔法を使えないこと?」
ナビは首を横に振った。
「使えないんじゃない。使うことはできる。Systemfaringのあと、危険から逃れるために、かなり使いまくったくらいだ」
「じゃあ、使うとちょっと気分が悪いだけ?」
「そんな程度じゃない。魔法を使うたびに自殺を試みる気分だと言えば、わかるかい? すさまじい警告の感覚が、全身を通り抜ける。一度味わうと、本当に命が危ないときでも、簡単には詠唱できなくなる」
ウンジェはボトルを置いた。
「あたしが目覚めたとき、看護師に使ったのも?」
「あれも」
「あのときは、普通に使ったじゃん」
「考える暇がなかったからね。でも今は、考える暇がたっぷりある」
ナビは前足を見下ろした。
また誰かに見つかったら、そのときもためらわず同じ魔法を使えるだろうか。
「この世界では、魔法の副作用がひどすぎるから?」
「違う。これは……アカシックレコードが直接警告を送ってくる感覚に近い」
「何をするなっていう警告なの?」
「正確にわからないのが問題だ。調べるために接続すること自体、危険に感じるから」
ウンジェはナビを見つめ、そっと手を伸ばした。黒猫の頭から背へ手のひらを滑らせると、固くこわばっていた体が少しゆるんだ。
「だから、インターネットを探したんだね」
「せめて、この世界の仕組みくらいは知らないといけないからね」
ナビはため息めいた声で鳴いた。ウンジェは手を止めなかった。
「心配しすぎないで。体がよくなったら、あたしが手伝うよ。とにかく、元の肉体の脳損傷を治す方法を探せばいいんでしょ? ここにもレモンの飴は売ってるし、少し回復したら、あたしも魔法を使えるだろうから……」
気持ちよさそうに手に身を任せていたナビが、顔を上げた。
「君が? 君は魔法を使えないよ」
「何の話?」
「君、今の状況をまったく理解していないね? 今の体は普通の人間の肉体だ。魔女じゃないんだよ。レモンの飴を食べたからって、魔法を使えるはずないだろう」
背中を撫でる手が止まった。
「待って。あたしはマジアンでしょ」
「魂はね」
「魔法だって、全部覚えてるのに?」
「ほうきに乗るくらいはできるだろう。ユジャは今もよく飛んでいるからね。いや、違うな。今の君は、ほうきにも乗れないんじゃないかな?」
ウンジェはベッドの上で体をひねり、少し、ほうきに乗る姿勢を取ってみた。
ナビは呆れたように鳴いた。
「できそうな気もするけど……」
「いや、無理だ」
「断言しすぎだよ、あなた……」
「知ってる」
ウンジェは両手を上げた。目覚めたばかりのときは、それさえ難しかった。今は、ずっとましだった。だから、もう少し待てば以前のように動けると思っていた。
だが、その「以前」の基準は、いつなのか。
マジアンがスライムと戦う前か。ソ・ウンジェが事故に遭う前か。
ウンジェの目が大きくなった。
「何? いや、ちょっと待って! じゃあ、今こんなに力が入らないのって、もしかして……人間の普通の体力なの?」
「うーん、そうかもしれない。人間の肉体が初めてなら、ありえるね……前の魔女の体と比べれば、弱いのは当然だろう」
「ありえない! こんなに弱いの?」
「まあ、その年齢の女の子なら、普通はそれくらいだろうけど……」
絶叫するウンジェを見て、ナビは心の中で一つの疑問を抱いた。
『もう、すっかり治ってるんじゃないか?』
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この小説は、マジでフィクションです。作者がある魔女に脅されたり、洗脳されたりして彼女の物語を書いているわけでは、決してないことを、あらかじめ申し添えておきます。誰にも誤解されませんように。
ソ・ウンジェのYouTubeチャンネルも、ご覧いただけると嬉しいです……。
https://www.youtube.com/@WESTEUNJAE




