010 お金がない
「さて、ソ・ウンジェさん?」
「はい?」
「では、車椅子から下りて……こちらへ体を……」
車椅子でリハビリ室へ来たウンジェは、そのまま立ち上がり、隣の治療台へ移った。苦労して腕で手すりに体を支えながら動くと思っていた理学療法士は、介助しようと差し出した手を、宙で止めた。
「一人で……立てるんですね?」
「大丈夫だって言ってるのに、何度も車椅子を持ってくるから乗ったんです。歩くのは問題ありません」
「あ……ああ……そうですか。でも、移動するときは声をかけてください。まずはテストだと思って、こちらに横になっていただけますか?」
「はい」
療法士は、ベッドのような治療台にウンジェを寝かせ、左脚を支えて持ち上げた。
「では……ゆっくり。痛みはありますか?」
「ええと……ないですけど?」
「あ……ああ……いいですね。では、ゆっくり下ろします。痛みがあれば教えてください……」
ウンジェは天井を見た。
脚が上がり、下がった。
反対の脚も、上がって下がった。
あまりにも普通の動きだった。
今、この作業が何をするためのものなのか、まるで理解できなかった。
「うーん……大丈夫です」
「あ……ああ……いいですね。では、自分で膝を曲げて伸ばしてみましょう。あ、もう曲げましたね? 痛みは……」
「ないですけど?」
「あ……ああ……いいですね」
療法士は少し手を止め、記録を確認した。ウンジェは、まだ曲げていた膝を伸ばしていいか考え、結局そのまま伸ばした。体をほぐすように脚を何度か曲げ伸ばしする彼女を見て、療法士は一瞬言葉を失った。
「あ……ああ……いいですね。どこか不快なところはありませんか?」
「体に力が入らないことです」
「あ……どの部分に力が入らないのでしょう?」
「全部です」
療法士はうなずき、治療台の端に座らせた。今度は片膝を伸ばし、足を上げたままにするよう言った。
「そのまま保ってください。下へ押すので、耐えてみてください」
言われたとおりにした。手がすねを押すと、ウンジェは抵抗し始め、つま先が少し震えた。やはり力がない。前なら、この程度は何ともなく耐えられたのに。
「あ……ああ……どうして……耐えられる……??? あ……ああ……いいですね」
「本当にいいんですか?」
「あ……予想を……ええと。思っていたより、よくできています」
こんなに力がないのに、よくできていると言われても、何も言えなかった。
続いて、椅子から立つ、ゆっくり座る、棒につかまって数歩歩くところまでやると、午前がほとんど終わっていた。
「あ……ああ……いいですね」
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「『あ……ああ……いいですね』? 五百回くらい聞いた気がする。いったい何の治療なのよ!」
午前の治療が終わり、ベッドに戻ってどさりと座ったソ・ウンジェが、愚痴をこぼし始めた。いつの間にか枕元に陣取っていたナビが答えた。
「うーん。最初は、体がどれくらい動くかを確認するんだ。リハビリに何か月かかるかわからない人に、最初から無理な動きをさせると思う?」
「いや、本当にまともに動けないじゃん」
「うーん……僕には、もう十分まともに動いているように見えるけど」
「何言ってるの? さっき跳んでみたら、膝の高さまで上がらなかった。普段なら、自分の身長の二、三倍は跳べたのに」
「うーん……二年も寝たきりだった患者は、そもそもジャンプできないんだよ、ウンジェ……」
「じゃあ、どれくらい回復したか、どうやって知るの?」
「今、それを調べるために治療室へ行ったんだろう」
ウンジェはそのまま、ベッドに仰向けになった。脚の動かし方を忘れたわけでもないのに、曲げ伸ばしを人に見せ、よくできましたと褒めてもらわなければならないとは。
「理解できないことだらけ。このリハビリって、本当に必要なの? 病院のやつら、保険金を巻き上げようと過剰診療してるんじゃない?」
「それより、君の体が無事すぎるのが問題だと思うけど……」
「そう? 魂に魔法の痕跡が残ってるからじゃないかな? なんたって、気高い魔女の魂だし?」
「なわけないだろ……」
ソ・ウンジェは驚いてナビを見た。
「あなた……けっこう現代っぽい言い方がうまいね?」
「昨日も今日も、一日中インターネットをしてた。もう現代語は、ほぼマスターしたと言えるね」
「二日で……黙って三か月ROMれ、って聞いたこと……」
「黙れ」
そのとき、病室の外でノックがした。ナビはさっとキャビネットに隠れ、扉が少し開くと看護師が顔を出した。
「ソ・ウンジェさん?」
「はい?」
「昨日お話ししましたよね? 保護者の叔父様と叔母様がいらっしゃいました」
「えっ? あ、そうだった。どうぞ」
ウンジェは体を起こし、しわになった布団を伸ばした。さっきまでナビと話していたときには、あんなに言いたいことがあったのに、家族が来たと聞くと、どんな顔をすればいいかわからなかった。
中年の男と、その妻らしい中年の女が、果物の籠を持って入ってきた。
二人とも、特に特徴のある外見ではなかった。
髪は薄めに見えるが、禿げてはいなさそうな髪型。ゆったりした紺のスーツの下に、ネクタイなしの紫のシャツ。
セルフレームの眼鏡に、ほどよい長さのウェーブのかかったボブ。ピンクのブラウスとジーンズを着た、痩せてはいない体つき。
鋭そうな叔父の目元は、しかし、ウンジェを見ると戸惑いを浮かべていた。おそらく、ベッドに寝たまま、やっと話せる程度の姪を想像していたのだろう。夫婦は部屋に入っても、しばらくその場に立っていた。
ウンジェは叔父の顔を覚えていた。父に似ているようで、似ていない顔。
「叔父さん……」
呼びかけが先に出た。声が妙に詰まっていると気づき、咳払いしようとした。だが、うまく息を吸えなかった。
〈泣いてるの?〉
ナビのテレパシーを聞き、ウンジェは知らぬ間に流れる涙に驚いた。手の甲で頬をこすっても、すぐまた濡れた。この夫婦だとわかった瞬間から、胸が何度も痛んでいた。
「ウンジェ! ああ、ウンジェ!」
健康そうな姿に少し戸惑っていた夫婦は、突然泣き出した彼女へ駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。叔母が声を出した。
「ああ、ウンジェ……本当に目覚めたのね。本当に……」
突然、病室に大きな泣き声が響いた。
ウンジェはこの見知らぬ感情に戸惑いながらも、二人を抱きしめ、思いきり泣いた。誰かが背中をさすってくれると、かえって泣き声は大きくなった。さっきまで考えていた挨拶など、何の役にも立たなかった。
ずいぶん経って気持ちが落ち着いてから、ようやく夫婦は看護師が持ってきた椅子に座った。ウンジェはひとつかみのティッシュで鼻をかんだ。叔父も同じように鼻をかんでいたが、叔母は少し落ち着いたらしく、話を続けた。
「思っていたよりずっと元気そうで、よかったわ。入院が長かったから、私は身動きもできないと思っていたの。さっき看護師さんも、回復が早いって言ってた。この病院で、よくお世話してくれたのね」
「はい。今日はリハビリもしました」
「まあ、もう? よかった。本当によかったわ」
叔母はよく話すほうなので、気まずい空気にはならなかった。叔父はずっと涙を拭いていて、まともに話せなかった。
「いやあ、涙が止まらなくて。ごめんな、ウンジェ」
「もう、本当に更年期かしら。いい加減、泣きやんで」
「まったく想像もしなかったことだから……電話をもらったときも現実感がなかったが、こうして来て、おまえを見ると……ああ、どうしようもないな」
「もういいから、顔を洗ってきて。早く」
涙を拭いていた叔父が、とうとうまた泣き出しそうになり、叔母は急いでトイレへ追いやった。
扉が閉まり、水の音がした。叔母は濡れたティッシュを集めてごみ箱へ捨て、ウンジェの手を握った。泣いた顔は少し赤くなっていた。
「そうね。とにかく、退院も早くできそうね。まだ日は決まっていないでしょう?」
「はい。もう少し検査してから教えてくれるそうです」
「そう。実はね、ウンジェ。この部屋の入院費がかなりかかるから、私たちもそれは本当に助かるし……」
「あ、ここは叔母さんが手配してくれたんですか?」
「ええ……」
ウンジェは部屋を見回した。一人で使うベッドと椅子、窓辺の小さなテーブル、病室に付いたトイレ。他の患者がいないので、ナビと話しやすいとばかり考えていた。この部屋に一日いるのに、いくらかかるかなど考えたこともなかった。
叔母は言い出しにくそうに少しためらい、話を続けた。
「こんな話をしていいのかわからないけど、あなたのお父さんとお母さん……亡くなったことは、知っているのよね?」
「はい……病院にあたしだけいたので、実は察していました。みんな、もう知っていると思っているのか、詳しくは話してくれませんでした」
「まあ……そう……そんなこと、誰が言い出せるかしらね……」
ウンジェは握られた手を見た。少し前は顔を見た途端、涙があふれたのに、その言葉を聞いたときは、落ち着いて答えられた。悲しくないからではなかった。何から聞けばいいかわからなかった。
「二人のお葬式も、私たちで済ませたの。あとで、お墓の場所を教えるわ。少しよくなったら、一緒に行きましょう」
「はい。一緒に来てください」
叔母は手の甲を何度か撫でた。
「あなたのお父さん、大学に行くって、あんなに喜んでいたのに。あのとき、あんなことになって……」
言葉が少し途切れた。ウンジェが返事を選んでいるうちに、叔母はまた話し始めた。
「二人の死亡保険金は、かなり出たの」
「はい」
「それから、家族で住んでいたマンションのチョンセ契約も切れたわ。大家さんが預け金を増やしてほしいと言ったんだけど、あなたはずっと病院にいるし……だから契約を終えて、預け金を返してもらったの」
「家を引き払ったんですか?」
「ええ。誰も住んでいない家を、ずっと置いておくわけにもいかないでしょう」
ウンジェはしばらく叔母の顔を見た。その話を聞いて初めて、帰る場所として漠然と思い浮かべていた家があったことに気づいた。
叔母はウンジェの手を握り直した。
「そのお金は、ひとまず私たちが受け取って管理していたけど、自分たちで使うためじゃなかったの。あなたの入院費で、ほとんど使ったから」
「え?」
突然の言葉に、内容をうまく理解できなかった。
「保険金ですか?」
「保険金と、チョンセの預け金。治療費も、付き添いの費用もかかるし……一、二か月の話じゃなかったでしょう。病室も、一人で楽に過ごせるところを取ったから」
ウンジェはもう一度、部屋を見回した。今度はベッドやテーブルを見る目が、少し違った。
「ほとんど使ったって……」
「入院中に、ちゃんとお世話してあげることがいちばん大事だと思ったの。今思うと、目覚めたときのことまでは考えられていなかったのね……」
トイレでは、まだ水の音がしていた。
叔父が出てくるのを待つべきか、叔母に続けて尋ねるべきか、ウンジェは少しためらった。
叔母が急いで付け加えた。
「でも、お父さんが一人暮らし用にチョンセで借りてくれたオフィステルの部屋は、まだそのままよ。叔父さんは、あれまで解約するのは気が進まなかったみたい」
「オフィステル?」
「ええ、大学の近くに借りた部屋。契約期間も、もうほとんど終わるはずだから、延長については調べないといけないけど……」
ワンルームの契約期間を考える前に、確認しなければならないことがあった。ウンジェは、さっき聞いた言葉を振り返った。
保険金と、チョンセの預け金。
入院費で、ほとんど使った。
遅れて、その意味を理解した。
「あたしには……遺産がないんですか?」
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(だいたい、この小説はフィクションで、作者は脅されていないという内容)
ソ・ウンジェのYouTubeチャンネルも、ご覧いただけると嬉しいです……。
https://www.youtube.com/@WESTEUNJAE




