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地王伝  作者: 蓮葉橋架
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第四章:双星の進撃 (改稿)

第四話:双星の進撃

「おお、騎士様……それに放浪の剣士様! どうか、どうか我らをお救いくだされ!」

震える声で訴え出たのは、この村を束ねる老村長であった。泥に汚れた衣服を震わせ、今にも崩れ落ちそうな足取りで縋り付くその顔は、極限の恐怖に引きつっている。彼が枯れ木のような指で指し示した先には、黒い暗雲が不気味な渦を巻き、陽光さえも拒絶するような峻険な山の麓が聳えていた。

「先ほどの獣は、氷山の一角に過ぎませぬ。山の洞穴に、あのラーテル共の親玉……山をも喰らうという『大貪狼エルダー・ラーテル』が住み着いたのです。すでに数人の若者が、悲鳴を上げる間もなく餌食に……」

村長の言葉が、嗚咽と共に途切れる。その絶望が空気を支配する前に、シーザーが静かに、だが鋼のように揺るぎない響きを持つ声で断じた。

「案ずるな、長老。民の嘆きを聞き届け、その暗雲を切り裂くのが、聖教会の、そして私の掲げる正義だ」

シーザーは白銀の外套を美しく翻し、一点の汚れもない愛馬の手綱を引いた。その背中は、一点の曇りも、迷いも許さぬ「秩序」の具現そのもの。彼の言葉には、まるで神の法典を読み上げるかのような絶対的な重みが宿っていた。

だが、その気高くも冷徹な横顔を、隣でアレクサンダーが鼻で笑った。彼は無造作に、自らの体躯ほどもある漆黒の鉄塊を担ぎ直す。

「おい、シーザー。正義だの何だのと御託を並べてる間に、あのデカいのは俺が細切れにしちまうぞ。お前さんの綺麗好きな鎧が汚れる前に、終わらせてやるからよ」

「……ついて来る気か、野蛮人。これは聖教会の騎士団としての公務であり、法に基づく平定作業だ。部外者の介入は本来、認められていない」

「公務だか何だか知らねえが、獲物は早い者勝ちだ。あの『親玉』、俺の剣を叩きつけるには丁度いい硬さに見えるんでな。久しぶりに、思い切り『肉の感触』が味わえそうだぜ」

二人は互いに視線を合わせることこそなかったが、その魂の根源で火花を散らしながら、同時に山の麓へと歩を向けた。

荒涼とした山道を、対照的な二つの影が突き進む。

先を行くのはシーザーだ。

彼の歩みには一分の乱れもなく、白銀の装甲がカチリと鳴るたびに、周囲に展開された目に見えぬ聖なる圧が、物陰から様子を窺う小魔たちを畏怖させて退けていく。彼の存在自体が、混沌を拒絶する「絶対領域」であった。

その後ろを、重厚な地響きを立ててアレクサンダーが追う。

彼が通るたび、担いだグレートソードの重圧と彼の迸る覇気によって、地面には深く険しい足跡が刻まれていった。整えられた美しさを嘲笑うかのような、荒々しき開拓者の歩み。

かつては同じ釜の飯を分け合い、同じ星空の下で体温を寄せ合って眠った二人。

今は、片や神の威光をその身に纏う「法の番人」となり、片や獣の如き覇気を全身から溢れさせる「宿命の破壊者」となった。

「アレクサンダー、一つだけ忠告しておく」

前を行くシーザーが、一度も背後を振り返らぬまま、冬の刃のような冷徹な声で告げた。

「お前の剣は、死と破壊を撒き散らすだけの凶器だ。しかし私の剣は、その先にある命を生かすために振るわれる。剣の根源を履き違えるな」

「ケッ、相変わらずうるせえ男だ。生かすも殺すも、最後は力が強い方が決めるんだよ。法だの命だのと飾ったところで、結局は叩き潰した奴が正しい。……ほら、見えてきたぜ。神様も匙を投げそうな、最悪の面構えだ」

山の影が、二人を深く飲み込む。

その暗い奥底から、大地を芯から揺らすような低周波の咆哮と、あらゆる生命を噛み砕かんとする強烈な飢餓の臭気が、瘴気となって溢れ出してきた。

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