第一話:神に見捨てられた賜物 (改稿)
第一話:神に見捨てられた賜物
黄金色の太陽が砂丘の彼方へと没し、空が焦げた琥珀色から深い群青へと塗り替えられていく。
峻険な岩山の断崖を削り、天を突くように築かれた「静寂の修道院」。
その堅牢な石門の前に、三つの命が置き去りにされた。
熱を帯びた夜風が砂を巻き上げ、赤子たちの細い産声をさらっていく。
一つは、死地にあってなお獅子の如き力強い咆哮を上げる男児。
一つは、涙を流すことさえ忘れ、星を射抜くような鋭い瞳で闇を睨む男児。
そして最後の一つは、命の灯火が消え入りそうな死の淵にありながら、触れる者を凍てつかせるほどの冷徹な静寂を纏った女児。
彼らに血の繋がりはない。
ただ、神の気まぐれか、あるいは魔王の呪いか。それぞれが異なる宿命の刻印をその魂に刻まれ、同じ夜、同じ場所に集められたのだ。
「……おお、慈悲深き主よ。これは試練か、それとも報いか」
重厚な石門が、永い眠りから覚めた巨人のように軋みを上げて開いた。
門の隙間から滑り出したのは、一人の修道女――シスター・エレーナである。
彼女は齢五十を越え、その顔には峻厳な修行と、数多の孤児を看取ってきた歳月の皺が深く刻まれていた。使い古された灰色の修道衣は、潮風と砂に晒されて端が擦り切れているが、その背筋は一本の槍のように真っ直ぐに伸びている。
彼女の瞳は、絶望に満ちたこの荒野にあってなお、湖の底のような静謐な慈愛を湛えていた。
エレーナは右手に古びた真鍮のランプを掲げ、震る左手を握りしめた。ランプの橙色の灯が、砂まみれの産着に包まれた三つの命を照らし出す。
彼女は自らの恐怖を打ち消すように、深く、重い吐息をついた。
「この汚れなき魂たちが、何をしたというのです。……なぜ、これほどまでに小さき器に、これほどまでに重き荷を背負わせるのですか」
彼女は地面に膝をつき、砂の冷たさを厭わず一人目の男児を抱き上げた。
たくましい四肢を動かし、エレーナの指を強く握り返すその熱量に、彼女の目から一筋の涙がこぼれ落ちる。続いて、鋭い眼差しの男児を、そして最後に、氷のように冷たい肌の女児を、その細い腕の中に壊れ物を扱うように収めた。
エレーナは、自らの古びた修道衣の合わせを大きく開き、体温を奪われかけた三つの命を、自らの肌に直接触れるように滑り込ませた。
彼女の心臓の鼓動が、赤子たちの不規則な脈動と重なり合う。
それは、母性という本能を超えた、絶望的なまでの使命感であった。
背後の砂漠では、夜の深まりと共に飢えた魔獣たちの遠吠えが、野卑な嘲笑のように響き渡っている。
神話が終わり、人間の時代という名の「退廃」が始まろうとしていた。
「……さあ、中へ。ここから先は、私が貴方たちの盾となりましょう」
エレーナは石門の中へと下がり、己の全身の重みをかけて、重厚な門を閉ざした。
ガラン、と重い閂が下ろされる。
その硬質な音は、三人の赤子を外界の冷酷な運命から一時的に切り離す、唯一の福音であった。
それが、後の世に「三人の預言者」あるいは「三人の大罪人」と呼ばれることになる者たちの、あまりにも静かで、あまりにも孤独な産声であった。




