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番外編2 天ヶ瀬邸のクリスマスパーティー 後編

開会時と同じように、壇上に上がった理央が挨拶をして、今年のクリスマスパーティーの幕が引かれる。

あちこちでパチパチと上がる拍手が少し名残惜しい。

だが! 俺のクリスマス・イブはここから!

誰かに帰ろうと誘われる前に、そそくさとトイレに隠れて辺りが静かになるのを待つ。

俺だけ残るって知られたら、また騒がれるかもしれないからな。


トイレに籠っている間、プレゼント交換で貰ったべっ甲の櫛を眺めた。

理央が出したプレゼント、思いがけず手に入って本当に嬉しい。

綺麗だし洒落てるよな。

大事に使わせてもらおう、べっ甲の手入れの仕方を調べておかないとな。


不意にコンコン、とドアが叩かれる。

「大磯様」と呼ぶ男の声がした。


「理央様より言伝を預かってまいりました」

「え? あ、はい」


俺が中にいるってどうして分かった?

もしや見ていたのか? ずっとトイレに籠って、腹を下していると理央に思われている?

ち、違う、そうじゃない! 誓って下痢なんかじゃ! あ、あとで釈明するべきか?

男の声は俺に、二階にある扉の脇に薔薇が飾られた部屋へ来て欲しい、と告げると、ドアの向こうで足音が去っていった。


恐る恐るドアを開け、隙間から外を窺う。

誰もいないようだ。

トイレから出ると辺りはしんと静まり返り、パーティー会場の扉も閉ざされている。


「大磯様」


思いがけず呼ばれて振り返れば、そこにいたのは天ヶ瀬邸のメイドさんだ。


「二階へご案内いたしますので、どうぞこちらへ」

「は、はい」


歩き出すメイドさんについていく。

それにしても―――なんと言うか、不思議な感じがするな。

さっきまであんなに賑やかだったのに、今の天ヶ瀬邸は穏やかな静けさで、パーティー客の一人に過ぎなかった俺は特別な場所へ案内されている。

ちょっと、ドキドキしてきた。

俺はこれから、天ヶ瀬 理央の恋人として、二人だけでイブを過ごす。

うっ、そう思うとますます緊張する!

理央も今頃、こんな気持ちで俺を待っているんだろうか。


パーティーの最中はあまり一緒にいられなかった。

でも、ここからは俺達だけだ。

たくさん話してキスもしよう、そして―――理央にこれを贈るんだ。


「こちらでございます」


台に乗せた花瓶に薔薇の花が活けられている。

その隣にあるドア。

この部屋に理央がいるのか。


礼をして去っていくメイドさんを見送り、ドアノブに手を掛けてドアを開けた。

中は広くて明るい。

大きなソファの手前にはローテーブル。

壁際にあるネコ足の棚の上にも薔薇を活けた花瓶が飾られている。

奥に見えるガラスが嵌った格子状のドアは、あの外へ出られるんだろうか。

向こうはベランダか?

床は毛足の長い絨毯が敷かれて、歩くと靴がフカフカと沈み込む。


理央は、いないな?

待っていたら来るのか、取り敢えず座らせてもらうか。


ソファに近付くと、ドアの方から物音がして振り返った。


「やあ」


そのまま固まって―――動けない。

爆ぜた心音がバクバクと早い鼓動を刻み続ける。

―――なんて、綺麗だ。

呼吸さえ忘れそうだ。

そこにいたのは、深紅のドレスに身を包んだ理央。

パーティーではスーツだったのに。

首から胸元、肩まで大胆に露出させて、スカート丈は引き摺るほど長い。

両腕にはレースの長い手袋。

そして鎖骨の辺りで煌めくネックレス、あれはダイヤモンドか? 光を受けて星みたいに光る。


理央自身がまるで宝石だ。

髪の一筋まで光を帯びて、なんて眩しい。


「その、どうかな?」


ハッと我に返り、フラフラと近付く。

俺の―――恋人。


「理央」

「うん」

「綺麗だ」


肩に触れて、じっくり眺めて、改めて感嘆の吐息を漏らす。

理央は恥じらうように微笑む。


「気に入ってもらえてよかった」

「うん」

「ねえ、健太郎」

「うん」

「キスしてくれないかな」


喜んで。

頬にそっと手を添えると、理央は静かに瞼を閉じる。

淡いピンクに塗られた唇。

好きだ。

大好きだ、愛してる。

鮮やかで柔らかな唇に唇を重ねて、俺も目を瞑った。


幸せだ。

理央、好きだ、理央、理央―――


「んっ、んんっ」


僅かに唇を離して、もう一度、もう一度、もう一度。

キスを繰り返すほどに頭の芯が熱く痺れてぼうっとなっていく。

気持ちいい。

このままずっとキスしていたい。


「っは、健太郎、もうっ」

「理央」

「まって、少し、苦しい」

「あ、ああ」


俺もいつの間にか息が上がっている。

全身が火照って―――っと不味い、色々と元気になりかけている。

ちょっとクールダウンする必要があるな。


理央をソファに促して座った。

改めて見てもやっぱり綺麗だ。

大輪の薔薇の花みたいだな、今夜の理央は花の女王だ。


それにしても、その。


「なあ」

「なんだい?」

「お前って、結構」


お、大きいよな?

知らなかった、普段どうやって隠しているんだ?

それにその、全体的にナイスバディというか、セクシーだ。

たっぷり豊かで柔らかそうな胸、キュッと括れたウエスト、尻の辺りも魅力的で―――ゴクリ。


「どこを見ているんだい、いやらしい奴だな」


ハッと我に返ると同時に理央に睨まれる。

うわ! い、いやっ!

確かにスケベな目で見ていたが、これはそのッ、仕方ないんだ、だって俺は理央が好きだから!


「すまん、申し訳ないッ」

「フフ、冗談だよ」


笑いながら俺に凭れ掛かってくる。

うわわわわわッ! む、胸! 胸に限らずなんて言うかもう何もかもが柔らかい!

うわぁーッ、それにいい匂いがしゅるぅッ!

ふぁあああッ、ふぁあああああッ、好きだ理央、破壊力抜群! 理性が焼き切れるぅッ!


「り、理央」

「ドキドキしているね、健太郎」

「まっ、まあな」

「僕もドキドキしているよ、触ってみるかい?」

「ふぇッ!?」


冗談だよ、なんて言ってクスクス笑う。

くぅッ、こいつめ! なんて可愛いんだコンチクショウ!


「ねえ、健太郎」


上目遣いの理央にクラクラしながら「なんだ?」と答えた。

俺は今、試されているのか。

真に紳士たり得るのかと、我を忘れて恋人を襲うケダモノに非ずかと、漢気を量られている?


「君への贈り物は、今日のこの僕だよ」

「えッ!」

「気に入ってもらえたかな」


そ、それってもしかして、エッチなことをしてもいいってやつですか!?

いっ、いやいやいや! 待て!

落ち着け健太郎、これはブラフに違いない。

つまり着飾った姿がプレゼントって意味だ、勘違いするな、下心まみれのスケベ野郎だと一発アウトを喰らうぞ。

そんなのは絶対にごめんだ。

俺はこれから時間をかけて理央と関係を構築し、いずれもっと深い仲になると予定している、それをここでとん挫してなるものか。

目先のエッチより信用第一!

むしろ男を上げる場面だぞ、気合いを入れろ!


「勿論」


嬉しそうに笑う理央! まさにプライスレス!

いいのか?

この世にこんな可愛い生き物が存在していいのか? いいのだッ!!


「じゃ、じゃあ、俺からもさ、理央だけのプレゼントがあるんだ」


呼吸を整え、俺以上に血気盛んな股間の息子にも落ち着けと心の中でよくよく言い聞かせておく。

格好良く決めるぞ。

そのためにバイトして金を稼いで、他にも色々と手間暇かけて、一生懸命頑張ったんだ。

初めてのクリスマス・イブを二人の思い出に残すために!


「プレゼント?」

「ああ、これ」


言いつつジャケットの内ポケットを探り、今日のために用意した『とっておき』を取り出す。


「指輪?」


理央が目を丸くする。

そう、これは―――睦月に頼んで作り方を教わり、俺が一から作成したクレイシルバーの指輪だ。


「石が、嵌っているね?」

「お前の誕生石だ」


この石の綺麗なやつを購入するために金が必要だったんだよな。

リング本体の十倍近くかかった、それでも満足のいく仕上がりになったから、払った以上に元は取れた。


「メリークリスマス、理央」


理央の左手を取り、薬指にリングを嵌める。

よし、サイズもピッタリだ!

どうだ、理央?

気に入ってもらえ、え? な、なんで泣くんだ?


「お、おい、どうした?」


目から涙をポロポロこぼして、泣き顔も綺麗だけど、泣かないでくれよ。

不意に俺の胸に縋りついてくる。

どうしたんだ? 指輪、気に入らなかったのか?


「もしかして嫌だった?」

「違う! 違うんだ、僕は、僕はッ」


しゃくり上げる合間に「嬉しくて」と小さく聞こえる。

理央。

俺も胸がいっぱいになって視界が濁る。

震える肩を抱き寄せて、柔らかな髪に鼻先を埋めた。

愛しい。

こんなにも幸せで温かな想いが胸に込み上げてくる、ああ、理央、大好きだ。


やがて、ゆっくりと体を起こした理央は、涙でクシャクシャになった顔で笑う。

本当に花が咲いたみたいだ。

俺だけの薔薇、俺の理央。

最高に可愛い。

指で涙を拭ってやる。

理央は鼻を啜って「格好つかないな」なんて言うと、改めて俺が嵌めた指輪をじっと見る。


「こんなに素敵な贈り物を貰ってしまって、いいのかな」

「当たり前だろ、お前のために用意したんだ」

「デザインも君が考えたのか?」

「まあな」

「ふふ、手作りだなんて、本当に君には敵わない」


右手の指で指輪を撫でて、今度は指輪の嵌った左手を照明にかざす。

何度も嬉しそうに繰り返す理央の様子に、胸がポカポカと温かい。


あれ? そういえば。


「なあ、それが手作りだって、どうして分かったんだ?」

「分かるさ」

「何でだよ」


理央はフフッと笑って「教えない」なんて言う。

ちぇ、まあいいか。


「もしかして、最近コソコソしていたのは、これを用意するためだったのかい?」

「そ、そうだけど」

「僕のために?」

「そうだよ」

「ふうん、なるほど」


ますます嬉しそうだな。

本当に堪らない。

理央は俺に遠慮なく凭れながら、どこかはしゃいだ様子で機嫌よくずっと指輪を眺めている。

そんな理央を俺も抱きよせて、赤く染まった頬にキスをした。


「健太郎、君って奴は」

「なんだよ」

「大好きさ」

「おう、俺も好きだぜ、理央」


幸せなクリスマスの夜に乾杯。

ずっとこうして一緒にいたい。

来年のクリスマスも、再来年も、その先も、お前を想って贈り物を用意するから、また喜ぶ顔を見せてくれ。


「この指輪、大切にするよ、僕の宝物だ」


可愛すぎる理央をギュッと抱きしめて、もう一度キスをした。

メリークリスマス!

俺にもたくさんの幸せを贈ってくれて有難う。

―――愛しているよ、理央。


(番外編2:了)

番外編までお付き合いくださり、有難うございます!

楽しんでいただけましたでしょうか?

お気に召しましたら、いいねや感想等お待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします。


それではまた、次の話でお会い致しましょう!

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