信頼と転校生 1
LOOP:9
Round/Delulu
―――目を開く。
何度か瞬きをしてから、枕元を探って携帯端末を手に取り、日付を確認した。
文化祭の二日前。
今朝に時間が巻き戻っている。
「や、やった」
ほ~っと息を吐いて枕に顔を埋めた。
よかった、ループした、あのまま死なずに済んだのか、俺は賭けに勝ったんだ!
有難う、どこかにいる魔女、また俺を助けてくれたんだな。
今となっては魔女と言うより最早女神様だ、本当に有難う、感謝します。
まあ実際のところループの原因が魔女かどうかは分からないんだが、もし魔女なら絶世の美女に違いない。
それにしても磐梯、あの野郎。
色々と気になることを言っていたような気もするが、奴が卑怯だって事実に変わりはない。
許さん、絶対に。
三度も殺された恨みも込めて、今度こそ泣きを入れさせてやる。
―――死ぬのって、マジで慣れたりしないんだ。
毎回痛くて怖くてつらくて、次は無いんじゃないかって恐怖に晒される。
それなのによくも、クラスの奴らを盾にして、俺に選択を強要してくれたな。
磐梯の野郎はループ前の出来事を覚えていないだろうが、関係ない。
教えてやる義理もないが、きっちり落とし前をつけさせてもらう。
でも、本音を言うと、委員長にあんな風に言われて流石にショックだった。
魅了の術のせいとはいえ、誰も俺に味方してくれなかったし。
もしや俺ってそんなに人望無いんだろうか。
磐梯にしてやられた二度目の時にも思ったけれど、皆、表面は調子を合わせてくれているだけで、本音じゃ俺なんかどうだっていいと思っていたり、とか。
あいつらに会っても今は普段通りに振舞える自信がない。
どうすればいい?
ベッドの上で横になったままぼんやりする。
磐梯の野郎は絶対に許さん、あいつだけはもはや紅薔薇王とか関係なく潰す。
だが俺は、実際、紅薔薇王に選ばれたんだろうか?
これまでの努力は報われたのか?
勝負以前にそもそも王の器じゃなかったとか。
―――弱気だな、ガラじゃない。
でもキツい。
誰も俺のことなんて好きじゃないような気がしている。
はぁ、薫がいたら何て言うかな。
理央にもたくさん協力して貰ったのに、俺はそれを無駄にしただけじゃないのか?
不意に着信音が聞こえて、端末を見た。
―――理央だ!
飛び起きて通話ボタンを押すと『健太郎、大丈夫か?』と俺を気遣う声が聞こえてくる。
胸に熱いものが込み上げる。
今、一番聞きたかった声だ。
有難う、理央。
「おう、平気だぜ、全然問題なし、おはよう理央」
『僕に気を遣うな』
バレた、か?
やっぱり敵わないな。
「本当は結構きつい」
『そうだろう、辛かったな』
「なあ、お前さ、あの時あそこにいたのか?」
『いや』
そうか。
じゃああの時聞こえたお前の声は、最期に理央を想った俺の幻聴だったのか。
『だが、おおよその事情は把握している』
「へえ、凄いんだな」
『阿男は、いや、あの男は―――超えてはならない一線を越えてしまった』
不意にゾクッと寒気を覚える。
理央?
どうしたんだ急に、なにか雰囲気がおかしい。
『もう君は関わらなくていいよ、始末は僕がつける』
「え? ちょっ、どうしたんだ理央」
『よりにもよってあんな真似をするとは、今度ばかりは流石に見損なった、あれは身内の恥だ、罰せねばならない』
「おい落ち着けって、なあどうした?」
『だが、そもそもは僕が間違っていたんだ、最初に君に害をなした地点で処罰するべきだった、それを身内だからと判断が甘くなって、すまない健太郎、全ては僕のミスだ』
「いやそれは」
『だから、後の始末は僕がする、君にはもう指一本触れさせない』
「ま、待てって、理央、だから落ち着けって」
俺の言葉に訊く耳を持たない、理央がかつてないほど怒っている。
まあ、今回はクラスの奴らも巻き込んじまったし、それもやむなしか。
俺だって一番腹に据えかねているのはそのことだ。
他の奴らを人質に取った挙句傷つけたり辱めたりしやがって、あまりに卑怯が過ぎる。
紅薔薇王の勝負すら元よりまともにやり合う気なんかなかったとかぬかしやがったよな。
あのゲス野郎め。
改めてムカついてきた、落ち込んでいる場合じゃない、奴がこれまでしたこと全部、まとめて熨斗つけて返してやらないと気が済まない。
「お前の気持ちは分かるよ」
端末の向こうからまだ理央の怒りが伝わってくる。
「あんな野郎が身内だなんて天ヶ瀬の恥だよな? 確かにお前は怒って当然―――」
『違う!』
おおっ? 食い気味に否定されたぞ。
そうか、違うのか。
だったら―――うーん、何だ?
まあ理央には理央なりの理由があるんだろう、その辺りを追及すると藪蛇になりそうだからそっとしておくか。
「と、とにかく、これは俺が売られた喧嘩だ、だから悪いが譲れない」
『健太郎!』
「お前が言っても聞かないよ、俺は自分の始末は自分でつける男だ」
『だがッ』
「今理央が怒ってくれている分も上乗せして、ちゃんと決着をつけるから、だから俺に任せてくれ、頼む」
端末の向こうが不意に静かになる。
『分かった』
渋々、といった雰囲気の声が返ってきた。
どうやら少しは矛先を収めてくれたようだな、ほっ。
『健太郎、今から君の家に伺ってもいいか?』
「え? ああ、どうぞ」
『有難う、君に伝えなければならないことがあるんだ、すぐそちらへ行く、待っていてくれ』
「分かった」
伝えなければならないこと?
何だろう、気になる。
『では後ほど』
声の後で通話が切れて、俺はベッドの上でまたぼんやりする。
今日も昼からの登校でいいか。
買い出しは手伝えそうにないが、その辺りは俺がいなくても多分どうにかするだろう。
また星野が粉まみれにならないといいんだが。




