がーるずとーく
「トリア、伺いたいことがあります」
「はっ、お答えできますことであれば」
馬車に揺られること半日。
目の前に座るトリアは、ベルガより預けられた親衛の任を全うすべく警戒を緩めない。
「率直に聞きます。ベルガのことをどう思っておりますか」
「……はい?」
わたくしとしては面白くないのだ。
いや、面白くないというよりカタリナに嫉妬しているというべきでしょうが。
「その、陛下? 師匠のことをどう、とは? もちろん、尊敬する師ではありますが」
「違います。そのままの意味ですわ、一人の男性として……夫として迎えたい、もしくは自身を捧げたい殿方かどうかと聞いているのです」
あ、でもこのトリアの顔は面白いですね。
ぽかんと顎が外れたかのように口を開いて、目を点にして。
「へ、へへへ、陛下っ!?」
「もう、カタリナとはこういったお話をしているのでしょう? カタリナとできてわたくしとはできないのですか?」
「いぃっ!? いえっ! そのですね!? 恐れ多くもボク――あぁいえ私がそのような!?」
「楽に話して頂いて結構ですわよ? 近衛ではありますが、今は親衛の任についているのです。わたくしとしてもある程度気楽に話してもらえたほうが落ち着くというものです」
カタリナとトリアが親しげに話しているところを見て羨んだものです。
わたくしには、そういった友人のように話せる相手はいませんから。
「と、とは申されましても……」
「もう少し言ってしまえば、わたくしとも友諠を結んでいただきたいのですわ。わたくしに、お友達はおりませんので」
ベルガと出会ってからというものの、本当に身分なんてものはくだらないと思うようになった。
元々身分といった飾り物よりも中身のほうが大切なのではないかと思っていたところだからこそ、余計に。
「陛下……」
笑っているつもりではあるのですが、わたくしの顔を見て何を思ったのかトリアは少し複雑そうな顔をしている。
あるいは、わたくしの中にあるベルガを逃さないという考えの一助になるかもしれないなんて、打算を見抜かれてしまったのかもしれないけれど。
「私……いえ、ボクは。カタリナ様にもお返事したことではあるのですが、やっぱり今までの貴きにおられる方へは敬服せよという考えを簡単には変えられません」
「そう、ですか」
「ですが、同じ師を仰ぐ身としてその、姉妹弟子といった間柄としてなら……そして、いつか陛下が仰るような実力という中身こそという世がやってきて。ボクが自分の胸を張れるようになったその時は」
自信なさげに言っているというのに、トリアの目には力が込められていて。
「では、その時を楽しみに待っておりますわ」
「はい。ありがとうございます」
ベルガのおかげで強くなれたのか、それとも元々持っていた強さが表に出てきたのか。
わたくしも、負けていられない。
「それで、です」
「う……やっぱりお話しなければですか……うぅ」
「もちろんですわ。ささ、ずずいっと胸の内をお聞かせください」
とはいえそれはそれなのだ。
ベルガを女で包囲するなんて下心とは別に、いわゆるがーるずとーく? というものへと興じてみたいという気持ちはあるのだし。
それにこう、もじもじしながら視線をあっちこっちに飛びまわせるトリアは可愛く、いぢめたくなってしまう。
「……間違いなく、言えることは、やっぱり尊敬しているということです」
「わかりますわ。師であることはもちろんですが、彼の動じない姿勢は見習わなければと常より思います」
余裕とも言うのだろうか。
どんなことがあっても対処、対応して見せるという雰囲気は、周りにいるものへ安心感を与えてくれる。
「ですが、師匠は厳しい人でもあります。決して自分を委ねさせてくれない。今でもたまに思うことがあるんです、何もかもを師匠に渡して捧げて。あの人の言うことだけ聞いて生きることができたら、すごく楽なんだろうなって」
「……それも、わかります」
ベルガは人の心を掴んでも、奪わない。決して楽な……依存の道を許さない。
「そういう意味で、自分を捧げたいとは思いません。これはカタリナ様とも話していたのですが、師匠は好きになりたいのに好きにさせてくれないから……もしも未来で、師匠が欲しいと思ったのなら。やっぱり力ずくでモノにしないといけないな、と」
「ふふっ。それは、実に……実に、彼を射止めるに相応しい言い方ですわね」
「ええ、何かおかしいと思うのですが、どれだけ考えてもおかしくないと思えるのがおかしいです」
「もう、笑わせないで下さい。全部おかしいですわ」
二人で笑いあう。
あぁ、こういう他愛のないお話もやっぱり楽しいものです。
いずれ、メルやカタリナを交えて女の作戦会議でもしましょうか。
「それでその」
「はい? どうしましたか?」
「恐れ多くも、陛下は、師匠のことをどう思われているのでしょうか。師匠からため息混じりに夫にされそうで怖いと聞いていますが」
「怖いとはまた失礼な……女の魅力が、足りないのでしょうか、むむむ」
大きな胸は嫌いなのかもしれないですね、さすがに削るなんてことはできないのが悔しいですが。
あれ? どうしましたトリア? なぜそんな顔を?
「トリア?」
「いえ、申し訳ありません。不躾な視線を失礼しました」
「え、ええ」
「それで陛下? 陛下は師匠のことをどう思われているので?」
な、なんだか言葉にトゲを感じてしまいますが。き、気のせいですわね? うん。
しかし、どう思っているか、ですか。
わたくしの致命的な失敗をただの失敗に変えてくれたという感謝はもちろんある。むしろいくら感謝しても足りないと思えるほどに。
ただ、ベルガを夫にという考えは、やはりこの国に縛り付けるためというものが強い。
けれど。
「素直に言えば、わからないのです」
「わからない、ですか」
そう思えば思うほど、胸が痛くなる。
「ベルガはわたくしの剣です。使い方を少しでも間違ってしまえば、容易く我が身すらをも切り裂いてしまう、鋭く危うい刃です。だから……まずは、その力を扱うに足る自分となるまでは」
「気持ちを定めるべきではないと」
「ええ。冷静に、冷静でいられる内に。彼を使うということが、どういうことなのかを確かめなければならない」
まずは、この戦いで。
わたくしが彼を使うに足る資格を、手に入れ示さなければならないと思うから。




