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魔法剣士団

 つまるところアルル様が望む状態とは膠着だった。


「お互いがぶつかりたくてもぶつかれない。そんな状況を作りたいのですわ」


「その裏でいつか訪れるだろう衝突に備えて技術を磨き発展へ繋げる、ですか」


 千年戦争と銘打ったキモはその部分。

 確信を持って相手を打ち払える状況を目指しながらも、決してその状況を与えない。


「けど。当然実際にぶつかる、じゃあないけど。相手の技術を目にする機会は必要だとも思うんだ。あたしがせんせの魔法を実際に見て、いろんな着想を得たみたいに」


 それはそうだとしか言いようがない。

 超えたい、あるいは超えるべきという何かを実際に見るか体験しなければどこまで行っても絵に描いた餅だろう。


「もちろん。ベルガの力を見せつけるつもりはありませんわ」


「ええ。むしろ見せつけろと言われれば本当にいいのかと聞いていたところです」


 見せつけたくないのではなく、見せつけてはならないと言うべきだろう。


 当たり前だが提示する力を目標として設定するわけだ。

 仮に俺を提示したのなら、俺を超える何かを相手は考えなければならなくなる。


 そうして生まれるだろうものは、俺を超えられるかもしれないものであり、俺でしか阻害できないだろうもの。

 安定した千年戦争を目指すアルル様にとって、そんな不安材料があってはならない。


「そこで、です。メル」


「うん。魔法剣士団の設立を考えているんだ」


「ほう!」


 思わず声が出てしまったが、素晴らしい発想だと思う。


 剣と魔法。

 これは完全に分担して軍として動かすことが常識とされている。

 前衛として存在する剣士が相手を受け止め、後方からの広範囲殲滅を目的とした魔法を撃ち合う。

 基本にして王道、それでいて完成された戦法であり、多くの状況に対応できる優秀な戦術だからだ。


「うふふ、その反応を頂いたことで正解かどうかはともかく、武器になりえるものだと確信出来ましたわ~」


「やったねアルルちゃん! ……でも、やっぱり遊撃部隊扱いになっちゃうとは思うんだよ。そう数は揃えられないだろうし、何より訓練をつけられる人がいないもん」


 もっともだ。

 そもそも魔法剣士という存在が少ない。

 特化主義とでも言うべきか、剣なら剣、魔法なら魔法と志したほうがわかりやすく強くなれる。


 少ない上、そこから更に人へ教えることができる人間となると。


「あー……メル? アルル様?」


「いえ、ベルガへ教官になれとは言いませんわ。それこそ、強くなりすぎる」


 強くなりすぎるとはこれ如何に。

 でもまぁ一安心ではある。これ以上姫様方への授業時間を削られるのは御免被りたいのが本音のところ。


「だからね? あたしへの授業、優先的に進めて貰えないかな?」


「なるほど。メルがその役目に収まると」


 自信なさげに言うあたり自分のことをよくわかっているのだろう。


 優秀な魔法使いが、優秀な師であるとは限らない。

 特にメルは魔法に才能があっても、独学で磨いてきた魔法使いだ、むしろよき師となる可能性は低いだろう。


 なにより。


「メルは魔法オタクだからなぁ……」


「お、オタクって……じ、自覚はある、けどさぁ」


「身内以外と喋るのも苦手ですし」


「ひ、姫としてなら大丈夫だから! だ、大丈夫だったよね?」


 そんなメルの様子にアルル様は苦笑いを浮かべている。


 まぁ、初めて会った時の様子を思えばなぁ。


「ともあれ。教える時間を増やす、優先するといったことに関して否はないです。メルの大目標である、強くなって俺から死者蘇生の魔法をという点に限って言うなら近づけるともいえる話ですし」


「ええ。わたくしとしても、魔法剣士団の設立は優先的に進めたい案件です。必要な時間の捻出はなんとかしましょう」


 環境的な問題が解決できるのであれば構わない。


「う、うんっ! あたし、頑張るからっ!」


 メルに提示した、魔法剣士という選択がこういう形に活かされることになるとは思わなかったけど。


「ええ。頑張りましょう」


 やる気を増す一因になったのなら、先生としては何よりである。




「さて。それでは早速ですが、現状の確認です」


「うんっ! よろしくお願いしますっ!」


 久しぶりに二人きりの授業だ、なんというか気合が入る。


 それはメルも同じなのかむんっと両手を握ってやる気を見せてくれるけど、中々に多くの問題を抱えている。


「最初にお伝えすべきこととして、今のメルはかなり優秀な魔法使いであるというものがあります」


「え、えへへ。ありがとう」


「何度か行いましたパーティでの模擬戦ですが、いずれも良い動きをされていました。課題としては魔力消費、つまりはリソース管理という点が挙げられますが、経験から学ぶ以外に方法はありませんし。現時点においても完成された魔法使いと言って差支えはないかと」


「も、もーっ! せんせってば褒めすぎだよぅ! や、やだなー! 照れるなー! カタリナちゃんに悪いなー!」


 何故カタリナの名前が出てきたのか。


 いやまぁそれはいいとして。


「しかしながら、魔法剣士としては未熟以下、半人前にすら至っていません」


「う゛……持ち上げて落とすの、やめよ? ねぇ? ほんと」


 がっくりと肩を落とすメルだけど、自覚はある様子で何より。


「大きな理由としては二点。剣の扱いがまだまだなっていないということ、そしてリソース管理に慣れていないという点です」


 基礎体力に関しては着実についてき始めた。

 十分とは言えないが、時間があるなら問題にはならないだろう。


「剣の扱いはわかるけど。リソース管理は経験から学ぶしかないって言わなかった?」


「魔法剣士としてのリソース管理は魔法使いのものとは別です。正確に言うなら管理すべきものが一つ増えるのです」


「あー……もしかして、体力?」


「正解です」


 足を止めて魔法に集中できるわけじゃない。

 むしろ積極的に動いて相手を思うつぼにはめようとする姿勢が求められる。


「だったら身体能力きょ――」


「強化でなんとかするのならそれはリソースの無駄遣いとしか言えませんね」


「うぐっ」


「このように。端的に言えば、メルは現状魔法使い的思考に染まっています。まずはその辺りから解決していきましょうか」

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