表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/191

作戦会議

「状況設定、ですの?」


「恐らく……いえ、十中八九は」


 アーノイド団長、いや将軍が酷く深刻な顔をして口を開いた。

 深刻ながらもわくわくしている、なんて風に思えるのはボクの気のせいじゃないと思うけど。


 状況設定、かぁ。


「将軍? どうしてそう思うの?」


「ベルガ殿は何も言及しませんでしたが、あの御仁が何の意味もない訓練をするとは思えない」


「あ、うん、そうだよね。せんせが無意味なことをするとは思えないよね」


 アーノイド団長の言葉にカタリナ様が頷いた。


 そうかなぁなんて思ってしまうのは、なんというか少しでも師匠の素を知ってしまってるからだよね。

 色眼鏡を外して思い出してみれば、確かに師匠は無茶も無謀も無理も言うけれど、無駄なことを言ったり、やったりはしない。


「陛下にダメージを与えられてしまえば我々の負け。これはつまり、護衛戦、あるいは防衛戦を想定していると言えるでしょう」


「そう、ですわね。勝利条件は15分間守りきるですし、ベルガは自身の打倒をとは言っていません。なるほど、わたくしにはいまいちまだ見えませんが、防衛戦とはまさしくですわ」


 ある意味盲点だったかも知れない。

 ううん、考えていなかったことに気づけたからどうだって話なんだけど……うん?


 もしかして。


「あ、あの。これは陛下を暗殺から守るという状況設定なのでは?」


「そうだなトリア、自分もまずそう思った。だが、この場所だ。見通しは良く暗殺には不向きであると言えるだろう。なら、何と設定しているのかを考えなくてはならない」


 う、ちょっと足りなかったみたいだね。


 でもやっぱりって言ったら失礼なんだけど、だんちょ……将軍もすごい人なんだよね。師匠がちょっと規格外すぎるだけで。


「アーノイド? 何故状況設定を考えなくちゃならないのかな?」


「相手の出方を少しでも推測するためです。ベルガ殿に倣って言うのであればセオリーを知るためと言えますか。強襲に対する防衛なのか、トリアが言うように暗殺からの護衛なのか。強襲も暗殺もそれぞれ理が異なります」


「なるほど、わかった。ありがとね」


「っ!? い、いえ! メル様! 勿体なきお言葉です!」


 あぁ、師匠がアーノイドさんをって言った理由が少しわかったかも知れない。

 

 こうしてボク達より少し上にいる人って存在が欲しかったんだ。

 身近なんて言えばまだまだ烏滸がましいけれど、師匠よりも近くにある目標として。


「ねぇ、アーノイド」


「は、はい。如何なされましたか? カタリナ様」


 そんな風に考えた時、カタリナ様静かに組んでいた腕を降ろして。


「私、今まであなたのことを侮っていた。格下に見てた。とんでもない思い上がりだったわ、ごめんなさい」


「いいいっ!? か、カタリナさまぁっ!? あ、あああ、頭をお上げ下さい!? じ、自分のようなものにっ!」


「私が言うことでもないけど。改めて将軍としてよろしくおねがいします。まだまだ未熟な私だけど、これでも近衛兵団長になったから、よろしくご指導ご鞭撻の程を」


「は、ははっ! 勿体なきお言葉です! わ、我が身命、国へと捧げます!」


 ……なんというか、なんというかだよ。


 こういっちゃなんだけど、ほんとにカタリナ様は変わったなって。

 これもそれも全部あの師匠が悪い。いや、良いことだから良いんだけど!


 陛下もメル様もニコニコしちゃってさ。

 うー、同期と言えるボクもちょっとはいいところ、見せないとなぁ。


「師匠が、どうやって来るか、か」


 強襲か、暗殺か、それとも別のなにかか。

 間違いなく言えることは師匠ならどっちもできるだろうって部分だね。


 強襲は無理矢理と言っていい位の勢いでの突破襲撃。

 暗殺なら存在を気取られないままに対象の殺害。


 どちらにしても、ボクたちの想定を超えてくるはずに違いない。


「トリア」


「メル様? あ、あぁいえ。師匠はどういう形で攻めてくるのかなって思いまして」


 将軍が言うよう、それぞれに理がある。

 少なくともこの二つならまったく真逆の理と言っていいと思うし、どちらかって決めてしまうのもダメだとは思うんだけど。


「そうだね。でも、あんまり考えすぎてもなとも思うんだ。どういう形で構えても、しっかり裏をついてこられそうだし」


「あはは、本当に師匠は常識を――裏を、つく?」


「あ、あれ? あたし、変なこと言っちゃった?」


「申し訳ありません、お待ちを」


 なんだろう、引っかかる。

 確かに師匠ならどっちもできるって嫌な信頼があるのは確かだ。

 こっちの想定を見抜いて、じゃあこっちねなんて切り替えられてしまえばボクたちに為す術はない。


 つまり、最初から詰んでいる。


「それこそ、無駄なこと……だよね」


「トリア?」


 皆の共通認識として、師匠は無駄なことをさせないというものがある。 

 それがまさしく真実だって言うなら、この訓練に意味はない。


 じゃあ意味を持たせるためには?


「しかし、困りましたわね。わたくしはまだ自分の身を守る術に自信がありません。15分は短いと思いましたが、アーノイドの話を聞いて長く感じてしまいます」


「やはり、基本的には陛下の御身から離れないように耐えるという点は変えられませんな」


 耐える、耐えるしかない……そうか。


「あ、あのっ!」


「む、どうかしたか? トリア」


「意見がお有りですか?」


 確信は持てない。

 けど、あの人なら。

 しれっととんでもないことをやってくる、あの人なら。


「ボクに、妙案があります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ