ベルガ派
「纏めて切除、とは?」
「そのままの意味ですわ、アーノイド。今回閑職へと追いやった者たち、彼らはそのまま国のガンと言える存在です。既に多くの場所へと転移し、切除する他にないとわたくしは考えております」
トリアが用意してくれたテーブルを囲んだのは俺とアーノイドさんにアルル様。
メルやカタリナ、トリアには基礎トレーニングとして話は聞こえるけど口をはさみにくい位置で体幹を鍛えてもらっている。
今回の人事刷新、アルル様の狙いとしてはそれだった。
「つまり、処刑をお考えに?」
ピリリとアーノイドさんの緊張感に別の色が含まれた。
明らかにそういった暴力的な発想は嫌いだと顔に書かれている。
「必要で、あれば」
「……陛下、それは」
アーノイドさんの考え方を理解した上でアルル様は顔色を変えずに言い切った。
遠慮はなし。
その言葉通り、アルル様はアーノイドさんに一切気を使っていない。
「無論、理解しています。わたくしが必要ないと判断したからといった程度の理由で処刑を選んでしまえば、あっという間に暴君と呼ばれてしまうことになるくらい」
「ご理解された上でそう仰るのなら……それほどまでに、ということですか」
小さくアルル様が頷いた。
そう、言葉を借りるならそれほどまでにってレベルだった。
「ベルガ」
「はい。アルル様が王となられてからこの一週間、毒殺未遂が四回、暗殺者が三名、その他事故に見せかけた殺害未遂が六件。いずれも閑職へと追いやった者たちの配下であると調べがついています」
「なっ!?」
驚きの声を上げたまま固まってしまったアーノイドさんだが、事実だ。
正直に言えば俺も驚いている。
普通どんな方法であっても一度失敗したのなら練り直す。
一週間に合計13件という数はもうやけっぱちどころじゃないのだ。
「わたくしはこれを誘われていると判断しています」
「さそ、われて?」
「アーノイドさん、追放や処刑を誘っているという意味ですよ。あえてバレるようなやり方で、それを理由に自分たちを処分してみろと誘い、不当だとアルル様へと反旗を翻す機会にしたいのです」
「……そんな」
俺もアルル様の見解を聞いてなるほどと納得した身だから、気持ちはわかる。
実直なアーノイドさんだ、国の陰でこういった動きがあるなんて想像できなかった。あるいは、考えたくなかったのかも知れない。
「その上でアーノイド」
「は、はい」
「わたくしに……いえ、剣聖派に身を寄せませんか?」
「け、剣聖派……ということは、ベルガ殿の?」
非常に不本意ではあるものの、そうとしか言えないのも事実で。
「下手人は剣派、魔法派を連合したものたちです。派閥とは言いますが、わたくしの下に力を一本化したい。そこで民衆からの人気も高く、相応以上の実力を有しているベルガを旗に纏めたいのです」
「なる、ほど……確かに、ベルガ殿への民からの支持は絶大でありますからな」
納得してほしくないんだけどなぁ。
勘違いしたかったこととして、新国王お披露目のパレードみたいなものが開催されて、親衛を任されていた俺は当然、手を振るアルル様の隣に立っていたんだけども。
アルル様に向けての万歳コールよりベルガコールの方が多かったんだ、ほんとなんでだよ。
「アーノイドに立場を約束すると言った話は魅力的に思えないでしょう。そこで、こちらにお呼びしたのです」
「……派閥に属すれば、ベルガ殿の稽古を受けられる、と」
「はい。もちろん、他に望みがあるのであればお伺い致しますが」
そこでアーノイドさんは腕を組んで熟考の姿勢に入る。
この一週間でアルル様と接して改めて感じたが、メルとカタリナを足して割ったような人間とは言えなかった。
むしろ足して倍にして、更に陛下の豪胆さを混ぜたような傑物だった。
気安く触れてしまえば火傷では済まない。
そんな人だから、慎重にもなるさ、アーノイドさんほどの人物ならなおさら。
「一つ、お伺いしたい」
「いくらでもどうぞ?」
やがて考えが纏まったのか、アーノイドさんは酷く真剣な表情を浮かべて。
「自分は、将軍と言われても足りないものが多すぎると自覚しております。ベルガ殿の稽古は、そういったものをも学べるのでしょうか?」
「もちろんです」
「えっ!? アルル様!?」
なぁに二つ返事してるんですか!? っていうかそれ、俺が返事することですよね!?
あっ! ちょっとお茶目に笑ってるんじゃないですよちくしょう! まぁたこの人やりやがったな!?
「自分はこの国に忠義を捧げた身であります。そして国に相応しき自分になりたいとも常より願っております。その願いが叶うのであれば、否はございません。どうか存分に、使い潰して頂きたく思います」
「よかった! うれしいですわ~! これで一安心です~。ねぇ? ベルガ?」
「……はいはい、陛下の喜びは私の喜びでございますー」
ほんっとに敵わねぇなぁ……へーへー、ご期待にお応えしますぅ。
「であれば、早速だがベルガ殿?」
「そんな目をキラキラさせないでください。最初に言っておきますが、俺は軍の動かし方なんてわかりませんからね? 教えることができるとするのなら……そうですね、この間の公開訓練、あの続きを今日はしましょうか」
「是非にっ!」
まぁアーノイドさんが稽古に来てくれるならできることも増える。
毎回は難しいだろうが、来てもらった時にしかできないことをやるとしましょうか。