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改革と変革

「ベルガ殿、本当に自分のようなものが入っても良いのか?」


「自分のようなって、一国の将軍様が言っていい言葉じゃないと思いますよ、アーノイドさん」


「い、いや、わかって……うぅむ、その通りと思えるようにならねばいかんのだが、中々な」


 城の中を王族専用訓練場に向かってアーノイドさんと一緒に歩く。

 未だに、というほど時間は経っていないが、将軍という肩書に慣れていない様子で心なしかいつもの堂々とした雰囲気は感じられない。


「それは俺も同じですよ。ですが、上に立つものとなった以上いつまでも狼狽えている姿を見せるものでもないでしょう」


「耳が痛いな。自分もベルガ殿を見習いたいところだが……」


 改革と変革は似ているようで違う。

 改革とは出来上がっていた基盤を維持しつつ改めることであり、変革とは基盤すらもひっくるめて変えてしまうことだ。


「ベルガ殿は、率直にどう思っている?」


「できれば酒が欲しい話ですが。そう、ですねぇ……」


 その上でアルル様が行ったことは変革と言える。


 形だけを見ても王族が要職に就いたし、身内国営への舵切りと捉えられてしまうものだ。

 今まで要人として位置していた人間たちの多くは閑職へと回されてしまったし、逆にアーノイドさんのような騎士団長とは言えど一介の騎士を将軍なんて地位に就けた。


「戸惑いが蔓延していますし、露骨な反発が散見されています。正直、現状だけを鑑みるのなら先が怖くて仕方ありませんよ」


「……うむ。ベルガ殿だから言うが、ここまで胃を痛めながら城内を歩くのは初めてだ。早くも音を上げてしまいそうだよ」


 冗談めかしながらも、お腹をさすりながら眉尻を落としてアーノイドさんは力なく言う。


 割と深刻なのかもしれない、戦いに生きる人が急に国の中枢に据えられたんだもんな、気持ちはわかる。


「だからこそ、とまでは言えませんが」


「うん?」


「本日訓練場へ案内するのは、アーノイドさんの胃を休めて頂くと言った目的もあるのです」


「……はは、それであればありがたい話だ。もしやベルガ殿の稽古でも受けられるのか? そうだというのなら――」


 あ、半分は正解。流石アーノイドさん。


「――いや、冗談のつもりだったのだが、まさか?」


「ええ。頻回にとは立場のこともあり難しいですが、今日はそのことについてもお話できればと」


「さぁ行こう! すぐ行こう! ベルガ殿! 自分は将軍になれて良かった! こんなにも空が明るく思えたのは初めてだ!!」


 えぇ……?

 ここ、廊下だし、外見えないし。


 でもまぁ、アーノイドさんはこうじゃなくちゃなぁ。


「であれば良かった。姫様方もお待ちです、どうぞこちらへ」


「うむっ!!」




 そんなわけで、いつもの場所へとアーノイドさんを連れてきた。


「……なんというか、想像と違うとでも言うのか、カオスだな?」


「トリアと同じことを言いますね。ですが、未だに同感です」


 相変わらず庭園チックな場所のくせに木人が置かれていたり、更には俺が持ち込んだ訓練用具もあってと、ここに初めて訪れる人はこぞって今のアーノイドさんみたいな顔になる。


「あ、来た来た。せんせー! アーノイドー!」


 訓練着へと着替えたメルが手を振りながら駆け寄ってきた。

 後ろではカタリナが腕を組みながら、もっと早く来なさいよねなんてポーズをしていて。

 トリアもこちらへ一礼した後、これからの準備を進めてくれている。


「アーノイド。お呼びだてして申し訳ありませんわ」


「い、いえっ! 女王陛下っ! ほ、本日もご機嫌麗しゅう! く、訓練着もよ、よくお似合いです!」


 メルの後ろをゆっくり歩きながらやってくるのはアルル様だ。

 やっぱり薄着なせいで目のやり場に困って仕方ない。


「もー! ここじゃそんな風にしちゃだめなんだよ! ほら、立って立って!」


「メ、メル様っ!? し、しかし自分はっ!」


 どもり癖も随分と改善されたメル様がアーノイドさんの丸太みたいな腕を持って立ち上がらせようとしているが、残念ながら筋力が足りない。


 当のアーノイドさんは困った目を俺に向けるばかりだ、ちょっとおもしろいな。


 っと、いかんいかん。


「お言葉に甘えましょう。この場では遠慮は無用であるべきですし」


「む、無用とは言うがな。これでは余計に胃が痛くなるばかりだぞ?」


「いえ、ベルガの言う通りですわ。稽古の際にいちいち気にしてしまうのは無駄というものですし、何よりも、わたくしは率直で素直な意見を聞きたいのです、アーノイド」


「っ……」


 アルル様の言葉、雰囲気にアーノイドさんの肩が震えた。


 ちゃんと言っていることの意味を理解できた証拠だろう、少しだけ恨みがましい視線を俺に向けてきて。


「謀ったな? ベルガ殿」


「そのことについても。としか俺は言っていませんよ」


 嘘は言っていない。

 ただ全てを言わなかっただけ。


 自分の失態に気づいたアーノイドさんは、小さくため息をついて肩を落としながら立ち上がり。


「自分が納得するまで稽古に付き合ってもらうことで許すとしよう」


「そんなことであれば喜んで、ですよ」


 苦笑いを浮かべながら許してくれた。


「うふふ、申し訳ありませんわ、アーノイド。しかし、どうか聞いて、聞かせてほしいのです」


「自分にお答えできることであれば」


「ありがとう。そうですね、ではまずわたくしの話をお聞き下さい」


 諦めたのか、腹を括ったのか。


 緊張感を高めたアーノイドに向けて。


「わたくしは、この国に棲まう病巣を纏めて切除しようと考えています」

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