表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/191

姉妹の語らい

「カタリナちゃん」


「えっ!? メル姉ぇ!? こ、こんばんは。こんな時間にどうしたの?」


「それはこっちのセリフだよ? あんまり頑張ってたら、またベルガせんせに怒られちゃうよ?」


「う……わかって、るんだけどね」


 もうちゃんとマメの処理もするようにしたし、痛いからって治癒魔法をしてもらったりもしてない。

 ちゃんと時間を決めて、決めた時間に声をかけてくるよう申し付けているし、適度に休憩も取っている。


 けど、先生によく注意されちゃう、オーバーワークだって。


「もっと、強く、なりたくて」


「ふふふ、気持ちはわかる、かな」


 口元に手をあてながら、上品に笑って近づいてくるメル姉。


「はい。これ」


「うん、ありがとう」


 私がいるってわかってたんだろうな、タオルまで持ってきてくれて。


 なんというか、久しぶりにメル姉と会えた気がする。

 ずっとずっと何かに追い立てられるように毎日を生きて、私やお姉様、お父様のことなんかまったく眼中に入っていないかのように感じていたから、余計に。


「カタリナちゃんは、変わったね」


「そう、かな? でも、それは私のセリフだと思うわ」


「あはは。そうだね、耳が痛いな。改めて、今までごめんね?」


「ううん、いいの。メル姉が、誰よりも一番お母様の死を悼んでくれたから、こうしていられるって思うから」


「そっか」


 お互い様、なんだと思う。

 メル姉が死者蘇生なんて魔法へ傾倒したように、私も剣へと傾倒した。


 お母様の死を受け入れているようで、受け入れられなかったから。

 少なくとも私は、国とお父様を支えるために強さを求めて夢中になって、考えなければならなかっただろうことから逃げていた。


「せんせのおかげ、だね」


「……うん」


「素直に認めちゃうんだ?」


「先生の前じゃ、強がっちゃうけど……感謝してるの。伸びた鼻を叩き折ってくれたこともそうだけど、何よりちゃんと私を見てくれたことを」


 今まで指南役にとやってきた人たちはいつだって私じゃなくて、姫様を見てた。

 剣派のものも、魔法派のものも。

 私を押し上げるか、引き下ろすかで自分の派閥に力をつけようとすることばかり考えていた。


 アーノイドはちょっと違ったけど、それでも私より強くなかったから。


「先生は、凄い。どうすれば良いんだろうって思ったら、いつだって沢山の選択肢を教えてくれる」


「そうだね。あたしも……そう思う。剣の腕がとか、魔法の知識がとか。そういうのも、凄いけど。悩みを笑ってこうしたら良いんじゃないかって、寄り添ってくれるのが、何より」


「ね。私達、一応お姫様なのにね。ぜーんぜん敬ってないってのがわかっちゃうもの。あの人にとって、真実私達は小娘で、手のかかる生徒くらいにしか思ってないんだわ、きっと」


 前にも思った、ある種の余裕。

 トリアも言っていた、師匠は一つのことに執着しないって。簡単により良い道を見つけて、ずんずんと進んじゃうって。

 そのくせ良いと思った道が失敗に繋がっていても、別の何かと結びつけて成功につなげちゃうって。


「うん。知ってた? せんせってば神級魔法を使えるんだよ?」


「知らなかったけど。腹立つほどに驚けないわ」


「くすくす……だね。驚いて欲しかったけど、カタリナちゃんはせんせのありえなさを、あたしより先に知ってるんだもんね」


「自慢できるほどじゃないけどね。でも、強くなるって意味にはメル姉よりも先に触れられたと思うわ」


 強さは余裕を生み、余裕は選択肢を創り出す、そして選択肢は迷いを与えて強さを試す。


 マルエド……だったかな? この言葉の意味を、今は少しだけ理解できる気がする。


「私は、今でも剣聖になりたいって思ってる。けど、一年後……ううん、明日の私がそう思ってるのか、わからない」


「そう、だね……あたしも、やっぱり母様の蘇生は諦めきれない、諦められるわけがない。でも、もしかしたら、今の気持ちを整理するための別の方法があるかもしれない、そんな風に思うよ」


 あぁ、ほんとにお母様が生きていたころのメル姉だ。

 好奇心旺盛で、いろいろなことをやりたがってはお父様とお母様を困らせていた、あの頃に見た目だ。


「おかえり、メル姉」


「……ただいま、カタリナちゃん」


 そういってにっこり笑ってくれるメル姉は、本当に昔、そのままで。


 あぁ、だめだな。

 まだまだ終わっていないのに、お母様の死で変わったことはまだ多くあるのに。


「……うん、わかってる。あとは、アルルちゃんだけ」


「っず……そうね、うん、そうよ。アルルお姉様だって、そうだから」


 感極まって涙している場合じゃない。


 逃げていた私達が、こんな風に先生をあてにしてしまうなんて、間違っているってわかってるけど。


 それでも。


「また三人で、お話したいね」


「うん。本当に、そう思うわ」


 アルルお姉様のことも、強くしてあげて欲しい。

 私達の分まで、痛いはずなのに痛くないと強がって、矢面に立ち続けてくれたお姉様を。


 私達より弱いのに、ずっとずっと強かったお姉様より強い、先生だから。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ