障子にメアリー
「王族専用の訓練場も随分と変わったものよね」
「も、申し訳ありません! あ、あた、あたいみたいなのが、こ、こんな立派なとこに」
「いいのよ。一人で黙々と剣を振ってた頃より素敵になった。これからよろしくね」
「は、はい! 微力を尽くしやす!」
そんなわけで本日は魔法の授業日、あるいはリアさん改めてリアが初めて訓練場へやってきた日になった。
「え、えとえと、えぇと……め、メルだよ、よろし、よろしく、ね?」
「やっ!? 止めて下さいメル様っ!? あ、あたいこそよろしくおねがいしますといいますか! あーもうベルガっ!?」
人見知りが発動したメル様だけど、なんとかと言った感じで挨拶をすれば面白いくらいに動揺するリアだ。
カタリナ様に聞いたけど、メル様は公務とかで表に出ている時はこんな感じではなくちゃんとお姫様をやっているらしい。
晩餐会の時はめっちゃ気怠げだったけど所作はキレイな物だったし、喋らなきゃ大丈夫とかなんだろうか。
「まぁまぁ。親しき仲にも礼儀ありとは言うけれど、あまり意識しすぎて剣士と鍛冶屋という関係に影響が出るのは面白くない。慣れるためにも頑張ってくれ」
「う、うぅ……もうなんか夢でも見てるんじゃないかって話だよ。剣聖様に会ったと思ったら姫様方が行われている稽古に参加しろって、はぁ……」
「わかります。リアさん。ボクも通った道です」
肩を落とすリアへとトリアは慰めるように肩を叩いた。
思う存分二人で結託して欲しいと思う。
「リアに関しては魔法の授業のみに出てもらうつもりです」
「うん? 剣の方は良いの? 私達の動きを知ることも大切じゃないのかしら?」
「ごもっともですが、やはりまだ発展途上。ある程度形になってからのものを見てもらってからのほうが良いです」
「研究途中でまだまだ変わっていくから、か。うん、そうね、話の腰を折ってごめんなさい先生」
いえいえ、気軽に質問を言ってもらえるようになって何よりというものですとも。
「リアには付与魔法を覚えてもらうつもりです」
「付与魔法っ!? あ、あたしも覚えるっ!!」
「なんであたいより先にメル様が反応されるんですかね……?」
「そういうお方なんだ、慣れてくれ。ともあれ、そういうだろうとは思っていましたが、キャパオーバーになります。まずは先の課題をこなしてからですね。その頃にはリアもある程度付与魔法が扱える様になっていると思いますので、リアから聞いて下さい」
「む、むむ……残念。だけど、わ、わかったよ」
ともあれ今日は魔法の日、まずは共通して覚えるべきことからお話していきますか。
「――なるほど、確かに聞く分じゃあたいでもできそうさね」
共通事項を皆に話して。
カタリナ様には魔力制御を、トリアとメル様には基礎魔法理論の文献を読むように言った。
その後こうしてリアへと付与魔法について詳しく話しているわけだが。
「まず間違いなくできる。というか、リアは付与魔法を使わないと鍛冶師として大成しないだろう」
「んなっ!? ど、どういうことだい!?」
「作った作品をいくつか見せてもらったが、どれも極めてバランスが悪い。重量にしても、スウィートスポットの位置にしてもな。もちろん、刃の形であったり加工工程にあたるだろう部分は見事なんだが」
レイピアなのに切っ先ではなく、剣の腹の方が切れ味鋭くなっているのとか見た時は頭を抱えたね。
「あ、あたいには、才能が、ない?」
「そうじゃない。カタリナ様にも話したことなんだが、短所は長所を裏返したものだ。つまり、リアは加工技術に神がかった腕前を持った代償に、そういった鍛冶の基礎行程技術が未熟なんだろう」
正直ここまででこぼこな鍛冶師はそういない。
得手不得手は誰にでもあることだろうが、リアまで行くとその範疇を超えて異常と言える。
「じゃ、じゃあまずは基礎行程技術の見直しをするべきじゃないのかい?」
「それはつまり尖った長所の先端を引っ込め、短所を埋めるということだ。そうなったリアにはきっと魅力を覚えないだろう。まぁ鍛冶師ギルドには歓迎されるだろうがな」
「う、うーん……まぁひとまず納得しておくよ。で? それがなんで付与魔法を覚えることに繋がるんだい?」
「鍛冶技術ではなく、魔法技術によって短所を埋めることができるからさ。重さのバランスにしても、一番威力の出るポイントの設定にしても、付与魔法で解決できる」
それもリアの加工技術あってものものだけどな。
特に部位によって使用する材料を変えることができるリアだから、材料自体に魔法を付与してバランスを整える事ができるはずだ。
「たとえばあのランスにしてもだけど」
「あぁ、親父と一緒にボコボコ言われたアレね」
「いじけるなって。曲線が見事であるが先端の鈍さによってそもそも突き刺せないという代物だが、逆に言えば先端だけ材質を変えて、その材料に刺突力向上の魔法を付与するだけで名工が打ったランスに引けを取らない代物に早変わりだ」
「っ……」
実際、突き能力をもっと高めたいという意識から先端の材質をより尖らせられるものを使おうとしたんだろうしな、意図はわかっているよ。
「全体の重量に関しても同じだ。バランスを崩しやすい部分の材質を変えて、重さ軽減の魔法を付与すればいい。が、今のリアは致命的にそのセンスに欠けている。まずは何本も打って感覚を掴む、同時に付与魔法も勉強する。そうしている内に、姫様たちに必要な武器ってのが見えてくるさ」
「……わかった。どちらにせよ、ベルガはあたいの雇い主だ、指示に従うさね」
よろしい。
さて、大分と環境は整ってきたが、後は。
「壁に耳あり姫様は、どう動いてくれるかね」




