表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/191

トリア VS シェリナ

「よろしくおねがいします」


「よ、よろしくおねがいしますっ!」


 若干トリアが浮足立ってるか、まぁシェリナの盤外戦術の効果と思っておこう。


「合図はこのコインが落ちた時な」


「はい、かしこまりました」


「はは、はい!」


 リーチの差だけで言えば1,5倍。

 それはトリアが常にカタリナ様と相対する時にあった差だが、今回はまるっきり逆となる。

 約束組手で実感して、懐に踏み込む重要性は嫌というほどに学べただろう、それも逆になるわけで。


 トリアは如何にしてシェリナに間合いを潰されないかがキモになる。


 普通はそう考えるし、常道としては重要な点といえるが……さて。


「両者尋常に勝負――」


「っ」


「くっ」


 コインを指で弾いて、くるくると回りながら浮き、沈み。


「シッ――」


「は、はや――」


 始まった。


 シェリナの踏み込みが冴えている。

 コインから視線を途中で切っていたし、流石にわかっているな。


 短剣の理は如何にして自分の間合いへ入るか、その一点だと。


「お見事」


「こ、これくらい、ならっ!」


 飛び込みながら振るわれた短剣を、なんとかといった感じで防げたトリアだが。


「ですが、ついてこられますか?」


「え? あ、う、うわっ!?」


 甘い。

 そもそも刀身で受け止めるなんてやっちゃだめだ。

 間合いを潰されないようにと思ってのことだろうが、短剣の方が刀身が短いということは、より刀身に力が伝わりやすいということ。


 器用に短剣でマインゴーシュを巻き上げ、トリアの体勢が崩された。


「っと……流石、ベルガ様の愛弟子ですね」


「は、はぁっ、はぁっ」


 シェリナとしては詰ませたと思っていたんだろうな、巻き上げた勢いそのままに身体を半回転させて横に回り込みながら短剣を薙いだ。


 だが、トリアは詰みを自覚して崩れた体勢のまま前へと転がるように回避し、途中で巻き上げられたマインゴーシュも回収した。


「はぁ……はぁ……強い、ですね」


「お褒め頂き光栄の至り」


 シェリナは少し力を入れすぎたな、追撃体勢を取れなかった。

 もしかしたら途中でトリアが悟ってそうさせたのかも知れないけど、約束組手で思考力を鍛えたかいがあったってもんだ。


 ともあれ仕切り直し。

 さっきみたいな速攻はもう出来ないだろう、手段の一つとしてトリアに知られてしまった。


「仕掛けて来られないのですか?」


「ふ、ふぅ……マインゴーシュは、守りの武器ですから」


 にらみ合いの時間が始まる。

 同時にしっかりトリアは呼吸を整えているな、偉いぞ。


 シェリナとしてはここからの仕掛け方は工夫が必要になってくるが……さて。


「っ」


「ふふふ」


 ……へぇ?

 動いてこないトリアを見て、なんでもないように歩いて近づいていく、か。


 さぁトリア? お前の読み筋にない手順が来たぞ?


「く、ぅ……」


「残念、近づけてしまいまし、たっ!」


「っつぅ!?」


 動と静、いわゆる緩急というもの。

 ゆったりとした動きを見せながら体勢を作り、鋭い短剣の突きがトリアの頬を掠めた。


「疾い、ですか?」


「近づけちゃ、ダメだったね」


 トリアはまだ手を出せない。

 シェリナがトリアの間合いの中で、再びゆっくりとした体捌きをみせているにも関わらず。


 そりゃそうだ。

 さっきの突き速度を見たら、何の考えもなく追い払おうとすればカウンターが待っていると思ってしまうだろう。


 これは誘いだ、乗ってはダメだ。

 だからこちらがカウンターを狙えばいい。と。


「くっ、う、こ、このっ」


 が、当然短剣術師相手にその考えはご法度ってもんだ。


 短剣に応手で勝てるのは体術しかない。

 同時に、それこそがトリアの勝ち筋でもあるが……気づけるかな?


「は、なれろぉっ!」


「あらあらそれは――」


 残念、やっちゃった。

 シェリナの突きを選んでカウンターをしようとしたは良いけど。


「お待ちしておりました」


「あ――」


 シェリナにしてみれば選ばせた一撃。

 追い払うようなマインゴーシュの払いの上を、突いた身体をそのまま流すように前宙返りして躱す。


 これでチェックメイト。

 トリアが体勢を立て直すよりも、シェリナが立て直すほうが疾い。


 うーん、トリア有利だと思ってたんだけど――おおっ!?


「それはボクの台詞ですっ!」


「なっ!?」


 トリアがシェリナの宙返りした身体の下へ、潜り込むように自ら体勢を崩した。

 中途半端に払いの剣閃を高くしていたのは、落下までの時間稼ぎと潜り込むスペースを作るため、か。

 

 やるじゃん、トリア。


「やぁああっ!」


「え、ちょっとおまち、このたいせ、うけみっ、あぐっ!?」


 そのままマインゴーシュのハンドガードで、がら空きのシェリナの腹を殴りあげる。


 ……トリアの体勢が悪いからそこまで威力はないだろうけど、痛そうだ。というか絶対痛い。


「そこまで!」


「は、はぁっ! はぁっ!」


「ふぎゅぅ」


 哀れ殴り飛ばされたシェリナは顔面から地面に突っ込んだ。後で慰めておこう。


 突き上げていた腕をばたりと地面に降ろしたトリアは。


「あーもうっ! 勝った! 勝ちましたよ師匠! これでいいんですか! こんちくしょおおおっ!」


 空いていた腕で目元を隠しながら、強く勝利を叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ