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魔法オタク

「では今日からよろしくお願いいたします」


「う、うんっ、あたし、が、がんばるっ、よ!」


 むんっと手を握りしめながら意気込みを見せてくれるメル様である。


 場所はカタリナ様が使っている訓練場ではなく、メル様の私室。

 何でと思われただろうが、とりあえず頷いて頑張る宣言してくれるあたりいい人というか、いい子なのかもしれない。


「メル様には当面、座学を中心に授業をしようと思います」


「座学……? か、カタリナちゃん、も、そう、だった?」


「いいえ。カタリナ様は実技中心でした。大きい理由としては既に細剣術に対して一定の理解があったからという点と、単純に頭を使うより身体を動かされるほうが性にあっていると思ったからです」


「え、ええ、えと、カタリナちゃんも、あ、頭、いいんだよ?」


「あぁ、いや、頭悪そうとかそういう意味ではありません。本当です」


 本当に頭が悪いと思っていたら約束組手なんかしてもらってないし、ほんとだよ?

 単純だなぁとは思うけど、げふん。


「き、キミが、そういうなら、そ、そう、なんだよね?」


「はいそうです。ともあれ、メル様には座学を中心に行います。理由としては剣術に全く触れたことがないという点と、既に魔法を一定以上に使えること。また、剣を振るには知識も身体も出来上がっていない点も大きいです」


「う、うん……その、ご、ごめん、なさい。あたし、ずっと部屋にこもってた、から」


「謝られることではありませんよ。ご心配なさらず」


 こうして部屋の中にも関わらず運動着を着てくれているメル様だが、なんともまぁぷにぷにな身体つきである。

 

 太っているとかそういうわけじゃなく、筋力が目に見えて足りない。

 これじゃあ一番軽いとされている剣であっても身体が流されて素振りすら満足にできないだろう。


「ですが一般的な剣術を学べる状態にないのも確かです。そこで、メル様には魔法剣士を目指してもらおうと考えています」


「まっ! まほう、けんしっ!!」


 おっとーなんか急に元気になったぞ?

 いやまぁ響きは確かに格好いいけどね?


「はい、魔法剣士です。座学と言いましたが、具体的には魔法についての理解を深めつつ、無理のない身体作りをしていって、身体が出来上がり次第剣を実際に振りましょう」


「魔法についての、理解……!? はいっ! あたし! がんばります!」


 お、おぉ?

 もしかしなくてもメル様、魔法のこと大好きだったりする?

 そうだったら助かるね、興味がないことを教えるのは大変だし。


「良い意気込みです。そうですね、では早速ですが身近なところから行きましょう。まず、この部屋の陣地化構成術式を例に――」




「だからね? アトリエ式とガーデン式、どっちも無駄が多いと思うんだ。この術式知ってるよね? ハバログ式とカサネリ式。確かに安全性を高めるにはハバログ式一択だとあたしも思う。けど、出力制限が強すぎるんだ、これじゃあ一定以上の効果がある先でしか得られないものは見えないし、逆にカサネリ式の出力を一定に保たせ維持する式だと安全性に不安が残る。だからね、あたしはここの式とここを一部流用して――」


 大好き? いやいや、これはそんなレベルじゃない。


「な、なるほど。出力の限界値を定めるには有効な式です。ですが、メル様が求める状態にするのであれば、カサネリ式にトルティア構文を流用したらよいのではないでしょうか」


「っ!! そ、そうだね! そうだよ! す、すごい! ベルガってほんとすごいね!? そんな発想、誰もできないよ! あたしも完全に見落としてた! そっか! トルティア構文が使えるんだ……じゃ、じゃあここの構成文なんだけどね!?」


 オタクだ。

 魔法オタクがここにいる。


 いつの間にかキミ呼ばわりじゃ無くなったし、もしかして同類みたいに思われた?

 やめてくれよ……確かに魔法は好きだけど、ここまでじゃないよ……。


 むしろ研究に没頭していた時分には、こんな風にほかの人から見られていたんだろうか。

 いかん、ちょっと目の前が真っ暗になってきた。


「メ、メル様?」


「なにっ!? もしかしてもっといい方法があるの!?」


「そろそろ授業に戻りましょうか」


「え? 授業? じゅ、ぎょう……? あ、あわわ……ご、ごめ、ごめんなさぁい!?」


 今更距離が近くなっていたことに気づいたのか、慌てて部屋の隅っこへと隠れるように行かれてしまう。

 さっきまで鼻先に漂っていたミルクみたいな香りが急になくなって、もったいないような、一心地つけたような……いやぁ、メル様ってばいい匂いでした。


「我に返られたならよかったです。しかし、実に興味深いお話であったことは確か。いずれ時間を作ってとことんお話を伺えればと思います」


「ほ、ほほ、ほんと?」


「ええ。嘘ではありませんよ」


「そ、そっか、そか……うん、あたしも。こ、ここまで魔法の話、でき、できた人って、いない、から……ごめんなさい、すごく、楽しくて、つ、つい」


 照れ半分、申し訳なさ半分といった感じでそろそろと近づいてきてくれた。


 うーん、なんというかテレシアとこんなところまで似ているな。

 あいつも遊ぶのに夢中になって俺を引きずっては、我に返ったときに鼻先を押し付けながらピスピス謝ってたっけか。


「改めて。ここの陣地構築文を一部書き換えます。よろしいですか?」


「う、うん。……さらっとできるんだね?」


「プライドに障ったなら申し訳ありません。ですが、実際に見ながらのほうが分かりやすいですし……では」


 部屋に敷かれている構築術式へと干渉する。


 そして。


「わ、わわっ!? ち、ちいさくなるっ!?」


「ふぅ……こんなもんですか。狭い、とは言いませんが流石に魔法の実演する場所としては不向きですから。これなら大丈夫」


 自分たちの身体を小さくして、疑似的に広い場所を作った。


「早速ですが時間も惜しい。まずは無詠唱、短縮詠唱、完全詠唱についてのお話です」

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