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強くなるということ

「そうか! メルも指南を受けるとっ! ふははっ! 流石だベルガよ! やはり余の目に狂いはなかった!」


「ありがたき幸せ」


 快諾とは言えないが、メル様に受け入れられたことを陛下へ報告した。

 そろそろメル様にもお声をかけますって言いに来た時の約束だったんだよな。結果をすぐに伝えに来いって。


 ただ、陛下の私室へ招かれたのは予想外だった。

 一国の王にしても貴族相手でもそうだが、プライベートな場所に相手を招くって意味は重い。

 相手を信頼していると示す方法の中でも、最大級と言っていいものだ。

 実際、失礼ながらも部屋の中を感知の魔法で探ってみたが、最低限の備え以外に特筆して挙げられるものはない。


 こうまで信頼されている理由がいまいちわからないってのが本音のところだ。

 

「よい、カタリナの様子は聞いておる。あのじゃじゃ馬が、人の言うことを素直に聞いておる所など想像もつかなんだが。夕食の席で見たあやつの姿を見ればな、納得するというもの」


「お姿を、でしょうか? 失礼でなければどのような?」


「ふふ、そうさな。ベルガも察しておるやもしれぬが、あやつは他人に……いや、実の親にさえ弱いところを見せぬ気丈な娘だ。訓練、公務、いずれの時でも強き姿勢を崩さぬ」


 これまた失礼ながらもなんとなく想像ができる。

 内心で、これくらいなんともないんだからっ! なんて言ってそうだ。


「そんな娘が、食事の最中だと言うのに船を漕いでおったわ! 丁寧に鼻から提灯までぶら下げておったのだぞ? 今までに加えられた予定はぬしとの稽古のみ、それほど密度が高く、熱心に、充実した時間を過ごしておるとわかるものだ」


「そ、それは申し訳ありません」


 それほどキツイ授業をした覚えはないんだけども……いやまぁ、誰だって新しいことをする時は大変か。

 もう少し優しくするべきだろうか、ちょっと考えておこう。


「謝らずともよい、余は嬉しく思っておる。先代剣聖にしても後に続いた高名な剣術士であっても、やつは一週間と保たず追い返した。それがなんだ? 今や少しでも暇ができれば自主訓練へと赴き、あぁでもないこうでもないと剣を振る。少し前には考えられん進歩だ」


「左様で、ございますか」


 ……少し、カタリナ様のことを侮っていたかもしれない。

 成長も早く、伸びが良いとは思っていたけど、そうか、そんなに頑張ってくれていたのか。


「ベルガよ」


「はっ」


「これは一国の主としての言葉ではなく、一人の父親として言おう。ありがとうと」


「っ……もったいなき、お言葉です」


 なんとなく、こうして私室へ招かれる理由が分かったかもしれない。


「メルは未だルリアの死を受け入れておらぬ。父親として情けない話だが、それをどうにかすることは余にできなかった。しかし、カタリナを導いたおぬしにならと、無責任にも思うておる。剣の腕が磨かれなくとも構わぬ、力を身に着けなくとも構わぬ。しかし、どうか悲しみの中であっても自分の脚で立てるくらいに、強くしてやってくれ」


「はっ! 陛下のお言葉! しかと胸に刻み、教導にあたります!」


「うむ」


 陛下はきっと、王としてではなく、一人の父親として――。




「お帰りなさいませ、ベルガ様」


「ただいま。トリアは?」


「カタリナ様と夕食を摂られるとか。ガチガチになって、少し前に登城されましたよ」


 仲が良くなってるようでなによりだね。

 姫様も立場があって心許せる友人なんて少ないだろう、これを機会になんでも言い合える仲になって欲しいもんだ。


 決して性格がどうのって話はしていない。


「それで、その」


「メル様のことか?」


「はい……メル様はベルガ様の剣術指南を、お受けに?」


「その質問へ答える前に。シェリナは剣術を覚える、強くなる、新しい力を身に着けるってどういうことだと思う?」


「どういうこと、ですか?」


 陛下とのお話を終えて、一つ思ったことがあった。

 多分、陛下は今シェリナにした質問の答えを知っていて、この上なく信じていると。


 首を傾げて考えるシェリナだが、いくつも答えが浮かんでいるはずだ。


「究極的に言えば、私利私欲を叶えるためだよ」


「……歯に衣を着せませんね? 悩んだ私の時間を返して頂きた――いえ、本当に返されそうなので聞かなかったことに」


「賢明な判断だ。私利私欲を叶えるため、その本質は豊かな人生を送るためと言える」


「豊かな人生を、ですか?」


 強く……いや、成長することでできなかったことができるようになる、届かなかったものに届くようになる。


 そうなるために、人は力を望み、手段の一つとして剣術が存在している。


「メル様は今、豊かな人生を得るためにルリア様を追っている。死者蘇生という魔法を、俺から得るために剣術を学ぶことを受け入れられた。そして今までは、誰かの豊かさのために、利用されていた」


「……はい、ですから私は」


「だが、豊かさとはそうじゃない。豊かさとは多くの選択に溢れている状態を指すべきだ。これしかないと思い込み、身を心を削って手にすることが豊かであるなんてたまったものじゃない」


 シェリナは解放という言葉を使った。

 その言葉がどんな思いから生まれたものかはわからない。

 だが、極めて正しい単語であると思った。


「強さや力は余裕を生むものだ。こういう道があるかもしれない、こういう手段があるかもしれないと、視野を広げることができる。カタリナ様は剣聖になるためと今は思っていらっしゃるが、もしかしたら一年後には違う目的を持っておられるかもしれない」


「強さは余裕を生み、余裕は選択肢を創り出す、そして」


「選択肢は迷い与えて強さを試す。マルエドの言葉、知っていたようで何よりだ。俺も、そして陛下も。この言葉は真理だと思っている」


 今は何も持っていないメル様だ、その世界は小さく、視野もまた狭い。


「俺はメル様を強くするよ。望みを叶えるためじゃない、望みを選び取る心を持ってもらうために」


 それこそが、解放されるということなんだと思う。

 その時自信をもって、後悔しない選択肢を選び取れるようになることこそが。


「はい……どうか、どうかメル様のこと、よろしくお願いいたします」


「あぁ。任せろ」

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