海賊姫ミーシア 船長と魔の秘宝 第2章『消えたライフパルス号』
ライフパルス号が樹洞の中に消えてから、真実の泉にはその後のミーシア達の映像が映らなかった。私は泉を通じて大御婆様に交信を試みたが、一向に大御婆様からの返答はなかった。
一体どこにミーシア達は向かって行ったのだろう……。数々の不安が私の中で錯綜していた。
そんな時、真実の泉に孫たちの姿を映してもらおうと試みたが、どういう訳か孫たちの姿も真実の泉に映らなかった。それどころかジョセフもスコットとイザベラの行方を、兵らに言って城内を隈なく捜索させていた。もしやと思われる事はあったが、それを認めたくない気持ちが私の中で先行していた。
「エレーナわしの声が聴こえるか?」
大御婆様の声が泉を通じて聴こえ始めたのは、しばらく経ってからの事だった。
「はい、大御婆様……」
「まず先に言っておくが、わしらは無事じゃ! それとそちらに映像が届かないのは、ここが異世界だからなのじゃが、しばらく待っておれ! わしがこの異世界で結界を張り巡らせ終えれば、そちらにも映像が届くであろう……。もうしばらく待て……」
それを聴いて私は胸を撫で下ろした。
「はい、大御婆様」
大御婆様が結界を張り巡らせ終わったのは、もうしばらくしてからの事だった。私は即座に泉に向けて、樹洞に消えた後を映し出してもらった。
泉に映る映像は、異世界にライフパルス号が出現する映像だった。異世界での海も地球と同様に青く、澄んだ青空の下、海面に突如としてライフパルス号のバウスプリットが出現したかと思うと、続いて船首、更には船体中央、そして船尾が空間から出現した。
「大御婆様ここは……?」
「恐らく地球と時空間で結ばれた、並行線上にある異世界だろう」
ミーシアの質問に大御婆様が答えた。
「大御婆様、知らせておきたい事が……」
泉に向けて私は話し掛けた。
「どうしたのだエレーナ」
大御婆様の思念が泉を通して聴こえた。
「先ほどスコットとイザベラを泉に映し出してもらおうとしたのですが、スコットイザベラが映し出されないのです。そしてラドゥール城では子供たちの捜索をしているのですが、一向に見当たりません。もしやと思いますが……、そちらに……」
「なにっ、スコットとイザベラがッ! よしわかった。それでは其方はもう一度スコットとイザベラを泉に映し出してみよ。こちらはこちらで探してみるとする」
「承知しました。大御婆様」
もう一度異世界での映像の中に、スコットとイザベラを映し出してみると、泉は船尾に置いてある大小様々な樽を映し出した。その中の小さな樽と中程の樽が少し甲板から浮き上がったかと思うと、小さな樽からは足が二本、それと中程の樽からは足が二本と四肢が見え、その複数の足がちょろちょろと移動を始めた。
「大御婆様、船尾に置いてある樽におそらく二人が……」
もう一度大御婆様に報告すると、大御婆様はミーシアの肩から飛び立ち、上空から船尾の樽を眺めた。大御婆様の視界に映る樽は、ちょろちょろと横移動しては立ち止まり、船員達に見付からないよう、樽に開けた覗き穴から甲板の様子を窺っていた。スコットとイザベラは樽の中に隠れていたのだ。
大御婆様は再度ミーシアの肩に止まると、
「ミーシア、驚かないよう聞くがよい」
「どうしたのですか大御婆様?」
「残念な事なのじゃが、どうやらスコットとイザベラが付いて来てしもうたようじゃ!」
「ええぇぇぇ~~~~っ、あの子たちがぁ~~~っ⁉ それで何処に居るのですか?」
「どうやら船尾の樽の中に隠れておるようじゃ!」
「もぉ~う、あの子たちったらぁ~~っ!」
ミーシアは即座に船尾に移動すると、二人が隠れているであろう樽の前に仁王立ちし、両手を組んで樽に向かって言い放った。
「あなたたち、一体どういうつもりなのかしら!」
「スコット、どうしよう?」
イザベラの声だ。
「‥‥‥」
スコットは声を出せずにいる。
「イザベラ、ちゃんと声が聞こえたわよ! 二人とも早く出てらっしゃい!」
二人は恐る恐るそれぞれの被っている樽を脱いだ。ミーシアの前には母を恐れる二人の子供たちが、サルサと共にしょんぼりと項垂れている。
「どういう事か説明しなさいスコット、イザベラ!」
「冒険の旅がしたくって……」
先に口を開いたのはスコットだった。
「冒険の旅ってスコット! もう元の世界には戻れないかも知れないのよッ!」
「えっ、ここは地球じゃないの?」
景色を見ながらイザベラも口を開いた。イザベラの視線の先には、太陽が二つ輝いている。
サルサはクゥ~ンと申し訳なさそうな鳴き声を発している。
「あなたたち、この旅がどれほど危険かわかっているのッ! 勿論わかってないから付いて来たのでしょうけど、あなたたちを守らなければならない事で、みんなの命も危険にさらす事だってあるのよッ!」
「ごめんなさい……」
二人が声を揃えた。
「やれやれ、いつの世も母は強しじゃな」
大御婆様が言った。
ライフパルス号はどの方角に向かって航路を進めれば良いのかも、現段階では推測すらも立てられない状態だった。
「ミーシアどうする?」
ジミーの声に、
「もう少し浅瀬を目指して、そこで今晩は碇泊しましょう」
と、この日ライフパルス号は碇泊を余儀なくされた。
地球の月とは違い、この異世界での月は、不気味な薄赤い光を放っていた。
甲板で、赤子となってしまった船長を腕の中に抱くミーシアと、その肩に止まるオウムに憑依した大御婆様は、不気味にぼんやりと赤く染まる夜月を見上げながら、この旅の行く末を案じていた。
「ミーシア、明日も早いゆえ、もう寝るがよい」
「はい、大御婆様」
ミーシアが船内に入ろうと踵を返そうとしたその時、海の彼方に、ぼんやりと発光する小さなオーブがミーシアの視界に映った。オーブはゆっくりとだがこちらに近付いて来ていた。
「大御婆様あれはッ?」
「わからんが、次なる糸口やも知れんのぉ~」
しばらくミーシアは甲板に立ち止まり、そのオーブが近付いて来るのを待った。
「とうさんを中に置いて、臨戦態勢を整えた方が良いですか?」
「いや、あのオーブからは禍々しい覇気は感じ取れん。むしろ船長に話し掛けていた妖精の波動と同じものを感じる。恐らく我々に接触を試みて来るのだろう」
ゆっくりと近付いて来たオーブは、甲板に立つミーシアの前まで来ると、船縁の手すりに降り立った。
「お待ちしておりました」
「それって私たちの事?」
「正確にはジョンの事なのですが、ジョンのお連れの方々も私達にとって、長年待ちわびた、この世界を救う救世主だと認識しております」
「それってどういう事なのですか? それととうさんが、こんな姿になってしまった事と関係あるのですか? とうさんは元に戻れるのですか?」
ミーシアが矢継ぎ早に尋ねた。
「説明するのは少し長くなりますが、まずジョンは勿論元に戻れます。しかし今ここで戻す事は出来ません。それはジョンにとっても、そしてあなた方にとっても、更には私達にとっても得策だとは言えないからです」
「ミーシア、尋ねたい事がたくさんあるだろうが、中でじっくりと話を聞く事にしようぞ」
大御婆様の言葉に従い、ミーシア達は船内に入った。
船内では船員達が初めて見る妖精の姿に驚きを隠せないでいる。スコットとイザベラなど、絵本でしか見た事のない妖精を前に大はしゃぎだ。妖精がテーブルの真ん中に降り立つと、ミーシアはその正面に腰を下ろし、船員達はテーブルを囲んで腰を下ろした。テーブルの脇には、大御婆様が降り立つ止まり木が用意されていた。スコットとイザベラの二人は、赤鼻のじいさんと料理長のそれぞれの膝の上に腰を下ろしている。食堂のテーブルを囲み、これから行われようとしている妖精の重大な話に、皆、緊張を露わに、固唾を飲んで妖精の説示に臨んだ。
「まずこの世界とジョンの因果関係を知らない皆さんには、ご迷惑をお掛けしている事を心から謝罪致します。この世界に引き込んで本当に申し訳ありません」
妖精が深々と頭を下げた。皆、妖精の謝罪を黙って見つめていたが、子供たちだけは、真似るように頭を下げ返していた。
「私達とジョンは古き昔から、家族とも呼べる関係なのです。といっても本人のジョンは何も記憶が無いと思いますが……」
「話の腰を折って悪いのじゃが、こ奴はこの世界の住人だったという訳か?」
大御婆様が言った。
「はい、そうです。ジョンは巨人族の長の息子で、この世界では、最後の生き残りなのです」
(なにぃ~っ! 俺が巨人族の末裔だとぉ~っ!)
ミーシアの腕に抱かれる船長の思念が、泉を通して私に聞こえた。
「えぇぇぇぇ~~~~っ、船長が巨人族ぅ~~~~っ!」
皆、驚愕に目を丸くしている。
皆の驚きを他所に、妖精は話を続けた。
「この世界にはあなた方の地球でいう所の動物以外に、大きく分類すると、以前は四つの種族が暮らしておりました。しかしジョンが生まれて間もない頃、」
『続きは執筆中ですので、しばらくお待ちください』




