王籍離脱したぞ
【王籍離脱したぞ】15歳
『ジュノーか、久しいの。今日はどうした』
『はい。実は、魔法高等学院を2年で卒業ということになりまして』
『ほお。そなたは幼き頃より頭脳は明晰であったが、魔法もいけていたのか?』
『わたくしのスキルなど、まだまだ未熟です。学院で学ぶ必要があるのですが』
『まあよい。昔は神童と呼ばれていたそなただ。そういうこともあろう。惜しむらくは祝福があれではな』
『はい。わたくしが王室にふさわしくないのは重々承知いたしております』
『では、あれだな。前々より言っておるとおり、独立をするということだな?』
『はい。幸運にも学院で講師の職を得ました』
『まあ、ワシとて鬼ではない。衣食住に困らぬようにそれなりのものは用意してやる』
『誠に感謝に絶えません』
『ふむ。では、本日より、そなたは余の後継者の権利を失うことになる。よいな?』
『はい。重ねて申し上げれば、王籍もなくしていただくわけには参りませんか』
『ほう。王籍を離脱したいと』
『はい。後継者の権利を喪失するとはいえ、わたくしに王籍が残っていればいろいろ勘ぐる人も出るかもしれません』
『そうじゃの。よし、わかった。王籍もなくして、今後は平民として生きるというのじゃな』
『その通りでございます』
『よく申した。なかなかの心がけじゃの。では、そのとおりに手続を行おう。本日より、そなたは平民じゃ』
『つきましては、最後のお願いと申しますか、ご提案が』
『なんじゃ』
『わたくしは薬師としても活動をいたしております。ともに働く仲間には上級回復魔法の持ち主や古代魔法の第一人者がおります』
『アニエス教授か?』
『そうでございます。それで、できれば長男であるお兄様の病状を見せていただけないかと』
『うむ。余はずっとそれが気がかりでの。王国中の医者に見せたが、とんと回復の兆しを見せん。アニエス教授の助けを得られるというのなら、一度見てもらおうかの』
父上は、僕が“料理人”の祝福を授かってからは
僕に興味をなくしている。
だから、僕がどうなろうと気にかける訳では無い。
王籍離脱を願っても、あっさりしたものだった。
ひょっとしたら、学院に通っていることも忘れていたかもしれない。
それに対して、父上は長男に対しては
ずっと愛情を注いできた。
側室の子とはいえ、最初の子供であり、
何より、父上と容姿がそっくりであった。
僕も幼い頃に何度か兄上と交流を持ったことがあった。
非常に優しい方であった。
それも僕が6歳ぐらいのときには病に倒れ、
それ以来、病弱で寝たきりのことが多い。
年齢は僕よりも7つ上。
だから、現在22歳だ。
【長男を回復させる】
ライリーお兄様を診てみようと思い立ったのは、
無論、肉親の情があるからだ。
もっとも、彼は7歳年上で
昔は非常に頑強なタイプであったが、
学院を入学後しばらくしてから体調が悪化。
学院を卒業後に、ほぼ寝たきりとなってしまった。
だから、交流が密とは言えなかい。
ただ、僕の母上と彼の母親とは比較的仲が良かった。
おそらく、母上が曲がりなりにも気を許せる、
唯一の存在だったかもしれない。
『北の方様、大変ご無沙汰いたしております』
北の方とは、ライリーの母親に与えられた呼称だ。
城の北の離れに済んでいるから、そう呼ばれている。
『こちらこそ、久しぶりですね。息子を診ていただけるとか』
『はい。私の付き人のエレーヌが上級回復魔法を取得しまして。それと、学院のアニエス教授指導の元、各種薬の研究が進んでおります』
『まあ、アニエス教授が』
アニエス先生の名声は王国中に鳴り響いている。
いかに母親同士が仲が良かったと言っても、
ライリーの母親が僕を信用しているとは言い難い。
彼女はライリーの病気が誰かの攻撃にあったからだ、
と疑っているのだ。
そして、それはおそらく正しい。
だから、こういう時のアニエス先生の名声は頼もしい。
『聞くところによると、王籍を離脱するそうですね』
『ええ。幸運にも学院で講師の職を得まして』
『凄いですわね。アニエス教授以来の快挙だとか』
『いえいえ、教授の足元にも及びません』
『そんなことありませんわ。貴方は幼き頃から名声を得てきました。私はとても貴方が羨ましいわ』
『ご懸念は私も承知いたしております。おそらく、ライリーお兄様と私は同じ敵を抱えているでしょう』
『しっ。そんなことを公言するものではありませんよ』
『ああ、これは失言でした。では、お兄様を拝見いたしましょうか?』
『ええ、お願いします』
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