長男を回復させる
【長男を回復させる】
ライリーは寝たきりどころではなかった。
ほぼ意識不明状態で、
気の毒なほどガリガリに痩せている。
肌色も黄色く、危険な状態にあった。
『カトリーヌ、どうだろう』
カトリーヌは薬師として、スキルを向上させていた。
今では、患者を診ると悪い場所が見えるまでになっていた。
『患者さんを診る前に、この部屋、なにかおかしい』
『どうおかしいの?』
『極微量だけど、うっすらと空気が汚染されてるわ。何か不穏な物質が漂っている気がする』
『それはいけないな。すぐに換気だ』
『待って。それよりも患者さんの部屋を変えたほうが良いかも』
『わかりました。別部屋に移動させましょう』
『この部屋を封鎖して下さい。あとで調べてみます』
『わかりました』
◇
部屋をかわり、ライリーを診察するカトリーヌ。
『患者さんには全身になにか阻害物質が蓄積してる感じね』
『阻害物質って?』
『簡単に言えば毒ね。でもなんの毒だかわからない。特に肝臓が危ないと思うわ』
『肝臓が攻撃されたということか?』
『もしくは、毒を与えられて結果として肝臓がおかしくなったか』
『そうなると、さきほどの部屋での汚染物質が鍵ということか?』
『ちょっと部屋を調べましょう』
◇
『ロベルト、どうだ。部屋におかしいところがあるか?』
『私もこの部屋に違和感を感じているのですが、それがどこにあるのかまではちょっと』
『お坊ちゃま、呪いの毒、という線はありませんか?』
『呪いの毒?』
呪いの毒は、文字通り呪いの一種である。
極めて長期にわたりゆっくりと対象者の心身を壊していく。
術者が施術を秘匿したい時に使う技だ。
ごく自然に対象者が死に至るように見せかけたいのだ。
『そうか、そんな呪いがあるのか。では、場所を変えたぐらいではお兄様は治らないのでは?』
『対象者そのものを呪う場合と、特定の場所を呪う場合があると聞きます』
『エレーヌ、どちらかはわからないけど、結局は術者を排除したほうが手っ取り早いんじゃない?』
『術者もそうですが、術を施した現場の破壊も必要ですね』
『術者を排除しても患者の容態は好転するわけではありません。とりあえず、回復薬を与えて様子を診てみましょう』
『それから、患者さんはこの城を離れてどこかで静養したほうがいいかもですね』
『じゃあさ、お兄様に学院まで来てもらうってのは?』
『ああ、できるならそのほうがいいですね』
ということで、現状を北の方様に説明し、
学院への転移をおすすめした。
『でも、安静にしろと言われています。学院までの長旅は……』
『これはお兄様の命にかかわること。北の方様、転移については私が保証します』
僕は北の方様に鉄の誓約をしてもらい、
転移魔法陣の秘密を明かした。
◇
『まあ。ここが学院なのですか?』
北の方様に転移魔法を利用してもらった。
『はい。この通り、安全に学院にお連れすることができます』
『わかりました。陛下に申し上げて、転移の相談をしてみます』
『アニエス教授がついていますから。心強いでしょう』
『ええ』
◇
ライリーお兄様を学院の僕たちの家に連れてきた。
回復薬を与えているのだが、好転する兆しがない。
『アニエス先生、こんな状態なんですが』
『呪いの毒といったわね?私も聞いたことがある。確か、古代書にアンチ・カースの魔法があるはずよ』
アンチ・カースは呪いを反転して
術者に跳ね返す魔法である。
僕たちは急いでその呪いの書いてある本を探し出し、
不眠不休で解読、魔法陣をかきあげた。
『患者さんを魔法陣の上に横たえて』
『じゃあ、魔力を注入するわよ』
魔法陣が眩しく光りだした。
すると、お兄様の体から黒い瘴気が溢れ出し、
空中を彷徨ったかと思うと、
どこかへ向けて飛んでいってしまった。
『ううん……』
『ああ、ライリー!』
『お兄様が意識を回復した!』
『魔法は成功したみたいね』
『解呪に成功したとしても、診た感じだと、うっすらと呪いの毒以外の毒攻撃にさらされた痕跡があるわ』
『しつこい攻撃を受けたのか』
『そうね。おそらく、最初の毒攻撃の効き目が不十分だったから、呪いの毒に切り替えたのかもしれないわね』
『でも、快方に向かうんだろ?』
『もちろん!長期にわたる体力の低下を回復させるには少し時間がかかるけど』
『ああ、ありがとうございます……』
なお、王国のどこかで一人の術者が
瀕死の状態に陥ったのは言うまでもない。
◇
お兄様と北の方様には引き続き、
こちらで静養してもらうことにした。
お兄様はぐんぐんと体力を回復していった。
しっかりと僕たちの料理も口にできるようになった。
体力を取り戻すにつれて、学院でより強度の強い訓練を始めた。
長男は次男ほどではないが、
成績優秀で、学院を3位で卒業している。
魔法よりも肉体が壮健なタイプだ。
ボンズに似たタイプである。
王になれない、または望まないのであれば、
学院で講師の道もあるだろう。
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