母上の実家へ
【母上の実家へ】
夏休みは7月下旬から9月中旬まで。
僕はこの機会に、母上の実家を訪れることにした。
行くのには馬車で約2週間近くかかる。
距離でいうと、おそらく1500km。
東京からだと、鹿児島へ車で行くような距離だ。
あらかじめ便りは出しておいた。
僕は、3歳ぐらいの時に行ったことがある。
その記憶はあるが、流石に朧気だ。
何にしても、10年ぶりということになる。
◇
『おお、セフィーナの息子よ、よくぞ参った』
セフィーナは僕の母親の名前だ。
『ご無沙汰しておりまして申し訳ございません』
『いやいや、遠いからの。こちらこそ、なかなか城に参上できずに不義理をしておったわ』
お祖父様はロベール・アンドレ。
男爵である。
この辺りの領主だ。
まだ、50歳ぐらいで老いを感じさせない。
『エレーヌとロベルトも久しぶりじゃな』
『ご無沙汰いたしております』
エレーヌとロベルトは僕たちの親戚だ。
『まあまあ、こんなところで立ち話はなんですから、早く家の中に入ったら』
お祖母様はセリーヌ・アンドレ。
やはり50歳ぐらいで、母上に似て、
上品な美貌の持ち主だ。
しばらくは積もる話をいつ終わるともなく語り合った。
『お祖父様、お祖母様、僕がここに来た理由なんですが』
『うむ』
『勿論、ご無沙汰していたことがあります。もう一つは、僕の本当の姿をご覧いただこうかと』
『本当の姿じゃと?』
『僕の祝福が“料理人”ということはご存知だと思います。そして、おそらく残念なお気持ちであろうことも』
『いや』
僕はお祖父様を静止して続けた。
『まずは、僕の授かった“料理人”のスキルがどんなものがお見せ致します』
僕はみんなにやってきたように、
僕の特製ジュースを渡した。
今回のはマンゴーベースにバナナとヨーグルト、
ミルクと砂糖をミキサーにかけたもの。
それに、薄めた魔石水溶液を垂らしてある。
魔石の魔力回復力については誰もが知ることだが、
同時に体力回復力もあることも良く知られていた。
だから、僕たちは魔石を少しだけジュースに含ませて、
一種の健康飲料水みたいにしたのだ。
『おお、なんと美味いジュースじゃ』
『本当に。心から元気が出てくる気がしますわ』
『では、ステータスをご覧下さい』
『?……!』
『+20ってどういうことなの?』
『それが、僕のスキルの一つです。僕の料理には強化効果があります』
『え』
『現状では、最大+200まで強化することができます』
『200って』
『では、次に私の魔法をご覧頂きましょう。どこか広大な土地に地下室を作りたいのですが』
『うむ。どこでもいいぞ』
『では、この辺りで』
僕はすぐさま掘削土魔法を発動した。
あっという間に、縦横30mの地下室が出来上がった。
そして、上モノを簡単に作り上げた。
『なんと、その大きさの地下室をわずかの時間で』
『僕は、4属性魔法全てで上級魔法を発動することができます』
『おお、4属性、しかも上級となると、国の魔導師のトップレベルでもできるかどうか』
『ええ。でも驚くのはこれからです』
僕はマジックバッグから長い魔導紙を取り出した。
『これは転移魔法陣です』
『転移?そんなおとぎ話のようなものを?』
『これから一緒に魔術高等学院に向かいましょう』
◇
『ここが、魔術高等学院?なんと豪奢な校舎、優美な庭園、広大な土地じゃ』
『本当に私たちは転移したのですか?』
『はい。この学院にはアニエス教授という有名な先生がおられます。彼女とともに開発しました』
『信じられん。いや、信じざるをえんが、それでも信じられん。お前は小さいときから神の子とも言われた頭脳の持ち主じゃった。お前は本当に神の子になってしまったようだ』
『いや、お祖父様、それは大げさですよ。でも、この転移魔法陣を利用して、僕はいろいろなことしようとしています』
『うむ』
『まずは、お祖父様の領地に力をもたらしたい』
ここ近年、彼の領地は大不作が続いている。
理由は不明であるので、対策のたてようがない。
ただ、何度か見慣れないものを見た、
という目撃証言があり、外部犯行説を疑っている。
『お祖父様の領地で新たな事業を起こしたいと思っています』
『ほう。それはなんじゃ?』
『ヘンシェン鶏の飼育とシーナ糖の製造です』
『2つとも、森の奥に行かないと無理ではないか?難しい事業に聞こえるが』
『ええ。もう一つが領軍の強化です』
『お前がするのか?』
『はい。実績と言えるかどうかわかりませんが、僕はE組の劣等生をすべてベスト40に送り込みました』
学院の能力別クラス編成は有名だ。
入学者100名を成績順に、A~Eに振り分ける。
『ほう。素晴らしいの。確かに、最大+200の付与効果を与えれば即席でもかなりの人材が育成できるの』
『はい。ただ、ステータスを料理の力で上げただけでは永続性がありません。そこに適度な訓練が備わってこそ、力は本物になります』
『確かに。まがい物の力はかえって人をダメにする』
『それには、お祖父様とお祖母様にも参加して頂きたいのです。いえ、無理をされる必要はありません。健康増進法だと思って下さい。必ず、効果が出ます』
『うむ。まだまだ若いものには負けられんからの』
『はい。それに若返りますよ』
『そうかしら?』
『ええ、間違いなく。それに石鹸・リンス・精油なんてのもありますしね。まあ、それはエレーヌのほうからあとで説明させます』
◇
領地に戻った一行は、次の日に領軍を呼び出してもらった。
そこで、僕の力を見せつけ、ジュースを飲ませ、
鉄の誓約で誓いを立てて、訓練に突入した。
訓練は毎朝のランニング、剣や魔法の稽古、
そして、夜の魔力吐き出し訓練である。
1週間は僕が面倒を見た。
僕もしばらくは毎週末に領地に顔を出すつもりだが、
基本はお祖父様が中心となる。
そのために、みんなに配るジュースを
お祖父様に渡してある。
マジックバッグとともに。
マジックバッグは、エレーヌ、ロベルト、アニエス先生、
そして、お祖父様とお祖母様が持つことになる。
1週間ごとに、アニエス先生から借りてきた
魔力測定器で魔力を測定する。
1週間でも魔力が増大した。
そして、一ヶ月が経つと、魔力だけでなく、
基礎ステータスも伸びたことにみんなは驚いた。
若いならともかく、加齢とともに、
基礎ステータスは伸びないだけでなく、
下がるばかりになるからだ。
この結果を見て、みんなはさらに発奮した。
僕は並行して、シーナ糖とヘンシェン鶏事業に
乗り出していた。
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