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石鹸・精油・リンス1

【石鹸・精油・リンス1 いろいろ世知辛い】


『お坊ちゃま、そろそろリンス解禁しましょうよ』


 朝シャンをして髪がサラサラになったエレーヌが、

 そう僕に求めてくる。

 朝シャンは気分がいい。それはわかる。


 一応、エレーヌには朝シャンのデメリットは伝えてある。

 夜不潔なままで寝ると髪に雑菌が増えるよ、と。

 だからといって、1日2回も髪を洗うのも、

 髪にダメージを与える。

 潤いがぬけてしまうからだ。


 でも、エレーヌには関係のない話だ。

 エレーヌは回復魔法の持ち主で、

 そもそもシャンプーをする必要があまりない。

 (石鹸使用)

 それでもシャンプーをするのは、

 シャンプーしたほうがキレイになるのと、

 サラサラしっとりの髪を手に入れたいからだ。



 石鹸とか普通のシャンプーを使うと、

 髪の毛がアルカリ性に傾く。

 リンスは髪に酸性を与え、

 アルカリ性に傾いた髪を酸性に引き戻す。


 現代の日本では、シャンプーそのものにリンス成分やら、

 もともと弱酸性のシャンプーだったり、

 或いはトリートメント製品に置き換わったりして、

 リンスのみという製品は消えつつある。


 でも、この世界では洗髪の習慣があんまりない。

 風呂に入らない人もたくさんいるのだ。

 前世欧州で香水が流行ったのはそのせいもある。


 そんな世界だから、

 エレーヌがサラサラしっとりの髪で街を歩くと、

 大変目立つのだ。

 だから、エレーヌは極力朝シャンを控えている。



『ああ、以前からの約束だったよね。リンスは製造簡単だから、どこかに方法を売ろうか』


『そうですか!だとすると商人ギルドとか?』


 まず、1商人に売るつもりはない。

 世間に広めることが目的であって、

 1商人に儲けさせるつもりはないのだ。

 そもそも、真似しやすい商品だから、

 先行者利益はあんまり出ないだろう。


 商人ギルドは。

 商人ギルド長の性格がギトギトしていて好きじゃない。


 なので、僕たちは冒険者ギルドに売ることにした。

 冒険者ギルド長はフランクで商売っ気もない。


 売り込むのはリンスの製造方法だけではない。

 固形石鹸もだ。


 冒険者の多くは、石鹸の作り方なら知っている。

 灰汁に獣脂を垂らすだけだから。

 でも、灰汁は燃えカスに水を混ぜて一晩おいたもの。

 獣脂にしても、いつも手に入る訳では無い。

 この石鹸は液体石鹸だから、保管もめんどくさい。


 だから、固形石鹸は冒険者には願ったりかなったりなのだ。

 しかも、精油入だと、香りもいい。

 

 ◇


『これがリンス?どう役にたつんだ?』


 僕は冒険者ギルドでデモンストレーションをした。

 女性職員を対象に、まず石鹸で髪を洗ってもらい、

 ゴワゴワになった髪に、リンスをつけてもらう。


 実は、エレーヌのサラサラヘアは以前から注目されていた。

 冒険者ギルドの女性職員に。

 エレーヌが髪サラサラでギルドに入ってきた時から、

 すでにチェックが入っていた。



『まあ、髪がサラサラに!』


『レモンの香りがして爽やかだし、しっとりするね』


 それを見た女性職員と一部の男性職員も、

 みんな髪を洗ってリンスをつけだした。


『ホント、髪サラサラ』


『おお、大好評だな。このリンスとやらの製造方法を教えてくれるのか』


『ええ。誰でも作れますから。お金は要りませんけど、そのかわりギルドでも無料で広めてくれませんか。固形石鹸は僕にしか作れませんから、完成品を冒険者ギルドにおろします』


『リンスはオレには不要だが』


 ギルマスはハゲだった。

 そういえば、王都のギルマスもハゲだった。


『固形石鹸は便利だな』


『無臭、ラベンダーの香り、ジャスミンの香りの石鹸がありますけど』


『どの位納入できる?』


『無臭は月100個、香り付きはそれぞれ50個』


『よっしゃ、それで決まり。どうだ、1個大銀貨1枚で』


『え、大銀貨1枚?』


『不足か?』


 大銀貨1枚はだいたい1万円程度の価値がある。


『いえ、高くかってもらえるので驚いています』


『控えめな野郎だな。固形石鹸なんざ金持ちとか金持ってる冒険者からの注文がどっちゃりくるぜ』


『はあ、じゃあそれで』


『おい、注文伝票もってこい。で、それ以上は作れないか?』


『ああ、材料的にそれが限界です』


『そうか。もし増産できるようなら言ってくれ。どれだけでも買うぞ』


 香料入りは精油の量的にたくさんは作れない。

 しかし、無香料なら人手さえあれば千個でも作れるが、

 まあ、お試し期間だ。


『じゃあ、前金で半額。全個納入で残りを払うからな』


 僕は即日納入。

 結局、大銀貨200枚分の代金を金貨でもらった。

 金貨20枚だ。


 ◇


 リンスの話は短期間に学園都市に広まった。

 植物油にレモン果汁または酢を垂らすだけなので、

 簡単で安く、しかも効果が高い。


 すると、あまり髪を洗う習慣のなかった市民が

 洗髪は毎日、

 体もできる限り石鹸で洗うようになった。


 学園の女子もあっという間に髪の毛がサラサラになった。

 柑橘系の香りを振りまいて、美人度がアップしたようだ。


『お坊ちゃま、これで遠慮なく石鹸とか使えます!』


 エレーヌは大喜びだ。



 エレーヌはごく仲間内でだけ、

 特製の石鹸やリンス、精油を使い始めた。

 アニエス先生とか、仲のいい教職員、

 ご近所の主婦たちである。


 ただし、数がないので紹介は受け付けないことを

 強く注意して。

 ところが、ずうずうしい人が後を絶たない。

 だから、仲間内への配布を有料にし、数量も限定した。


『お坊ちゃま。私、本当に疲れました。こんなに押しの強い人が多いなんて』


 有料にした時のブーイングもすごかった。

 善意で配布しているつもりだったのに、

 いつぞやから、それが既得権益になってしまうのだ。

 

『もし、石鹸事業を始められるとしたら、かなり強い仕組みを作らないと、大混乱しますよね』


『あー、供給量を増やす目処がない限りダメだね。それと、事業者には気持ちの強い人。特に権力者からの押しに抵抗できるような人じゃないと難しそうだね』


『ですね』


『あとさ、本当にずうずうしい人は遠慮なく切ってもらってかまわないから。いいづらいなら僕に伝えて。対処するから』


『お坊ちゃまの対処は怖いです』


『はは』


 まあ、確かにそうだな。

 この世界に来てから、人の人権とか命とかが軽くなってる。


ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。

励みになりますm(_ _)m

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